村井良大らが「スマイル!」で生き抜く人生賛歌『99才まで生きたあかんぼう』レポート


2018年2月22日(木)に、東京・よみうり大手町ホールにて開幕した舞台『99才まで生きたあかんぼう』。原案・脚本・演出を手掛けた辻仁成が「人間とはなんぞやということを笑って伝えたい」という想いを込めた“スマイル”溢れる人間賛歌を、村井良大、松田凌、玉城裕規、馬場良馬、松島庄汰、松田賢二が演じる。初日前に行われた公開ゲネプロと、出演者6名と辻、そして音楽を担当したSUGIZOが登壇した囲み会見の模様をレポートする。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_2

人生で大事なことは「スマイル!」と笑う登場人物たち。囲み会見も、笑顔溢れるものだった。辻は「こんなに若い方々とやるのは初めて。エネルギッシュで、演出をしていて毎日非常に楽しかったし、若返るような感じでした」と嬉しそう。これまで悲恋やシリアスな物語を描くことの多かった辻だが、コメディ要素もある本作について「何か吹っ切れたというか、彼らの若いエネルギーを借りました。日本にこんなに若くて元気で夢があって才能がある子たちがいたんだなと思って」と、役者陣から刺激を受けたことを明かした。

99才まで生きたあかんぼう役を演じる村井は「人間の100年を演じるので、僕自身も歳をとっていく感じがして、すごくおもしろいなと思いました。役者は6人ですが、何十人も舞台上にいるような壮大な物語になっています」と述べた。そんな村井に対し、辻は「まだ40代、50代、60代は経験していない彼が演じきれるのか?と思ったんですが、今や良大が99才に見えるんです」と感動をおぼえたそう。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_3

今回初めて辻作品に出演する松田(凌)は「その時その時、間違いなく(胸に)刺さるところがあります。お客様に対しても何らかをぶっ刺していきたいので、覚悟して来てください」と、柔らかな口調ながら強い意気込みを見せた。そんな松田(凌)は、辻曰く初めて会った時に「村井良大初めて会った時と同じことを言った」という。

数年前、辻作品に初めて訪れた村井の役は、アンサンブルだった。「その時、良大は『辻さんっておもしろい、こんなおもしろい人と一緒にやれるのは最高だ』といったこと言ったんですよ(笑)。松田凌も、初めて会った日に同じようなことを言ったので、彼もきっと大物になるなと思いました」と辻は笑う。松田(凌)の“大物”感をおもしろがりつつも、少し厳しい気持ちを持って、辻は後半の配役を決めたというが「その役も素晴らしいんですよ」と、松田(凌)が期待を超える仕事を見せたことをうかがわせた。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_4

会見に女性の格好で登場した玉城は「僕らはいろんな役を演じるので、稽古場ではいろんな種類の人間を出しました。こんなにいろんな人間が演じられることはなかなかないので、それを楽しみたいです。人生の楽しさ、切なさ、儚さを感じていただければ」と話す。玉城は、2014年に上演された舞台『海峡の光』で辻の舞台に出演しており、辻はその時の様子を「彼はものすごい腕を持っていた」と振り返る。今回も、村井演じる“あかんぼう”にとって非常に重要な役を担っており、特に後半の演技について辻も太鼓判を押した。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_6

会見中、それぞれの発言に絡み常に場を盛り上げていた松島。稽古場では「辻さんに『不器用だ』と怒られて、すごく傷つけられたんです」と言いつつ、「その時に辻さんに渡されたのが『立ち直る力』という辻さんの本。辻さんに傷つけられ、家に帰って辻さんの本で慰められ、また次の日に辻さんに怒られて・・・」とアフターケア(?)を明かし、笑いを取っていた。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_5

若手の中では最年長となる馬場は、メガネに学ランという出で立ちで登場。「すごくエネルギーのいる舞台です。そのぶん公演が終わるたびに達成感があり、人生を生きるってこんなにも大変で、こんなにも素晴らしいことなんだと毎回感じています。お客さんと一緒に達成感を作っていけたら嬉しいです」と、真面目なコメントをしつつニヤリ。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_9

そして、辻の「一人だけ年上の俳優を入れたい」という希望で選ばれた松田(賢二)は、唯一の40代。「舞台上にいる時が一番ゆっくりできて、袖に入ったら忙しいという舞台は初めて(笑)」と舞台裏の様子を覗かせる。

また音楽を担当したSUGIZOは「実は先月インフルエンザになりまして、2週間倒れてる間にいい曲がたくさんできたんです」と明かした。また「信頼する辻さんと力のある若手の皆と、この素晴らしい仕事を音楽でつなぐことができて光栄です。走馬灯のような物語にイメージを受けて、僕も“SUGIZO”の作る音楽の20年間をイメージしました」と作曲のヒントを語る。舞台の中で、楽曲は物語を支えつつ、SUGIZOの片鱗を盛り込んだ20年の音楽史と“あかんぼう”の99年におよぶ人生が重なり、優しい音楽が物語の幅を膨らませていた。

(以下、本編の内容や配役に触れています)

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_14

誰もがおぎゃあと泣いて産まれる。その時、生きた年数を表す舞台中央のカウンターは0だ。それが年齢を経るごとに1、2、3、4・・・と増え、人生の歩みを視覚的に感じさせる。

父(馬場)と母(玉城)の腕に抱かれて生まれた“あかんぼう”(村井)は、少しずつ成長を重ねていく。泣き虫のあかんぼう、友達ができたり、喧嘩したり、性に目覚めたり、グレたり、恋をしたり。どれも、人によって違いはありつつも経験したことのある、色とりどりの原石のようなエピソード。村井の演じ分けは明確で、一つ一つの年齢を踏みしめるように生きていく。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_7

村井が“あかんぼう”として年齢を重ねていく中、他の5人はその人生に触れる登場人物たちを目まぐるしく演じ分ける。母、妻、上司、部下など、明確な役割を持つ時もあれば、店員、街の人など、風景の一部にもなる。後者の時は、まるでダンスのように息を揃えつつも個性があり、まるで本当に何十人もの雑踏の中にいるよう。確かに、日々の生活では行き交う多くの人に囲まれながらも、その個性は何となくしか認識していない。けれど、ふと目を止めれば「あの人おもしろいな」「知り合いに似てる」などと、思わずクスリと笑える瞬間も。まるで、本当に自分の人生の走馬灯が目の前にあるようだ。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_11

訳も分からず慌ただしかった子供時代。人生の節目を迎え時が止まったような瞬間。そして自分の足で確かめながら踏みしめていく責任ある日々など、そのシーンや人生の帰路に合わせて調整されている演出が丁寧だ。そこに、俳優たちの熱演が重なり、走馬灯でありながら個性豊かで、生きている感覚が随所に溢れている。

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_8

「スマイル!」母からもらった言葉を合言葉に、喜怒哀楽豊かな人生を生きるあかんぼうは、誰かのストーリーでもあり、私のストーリーでもある。人生には、たくさんの出来事が待ち構えている。悲しみも怒りもあるけれど、それでも「スマイル!」。無邪気な笑顔、慈しむような笑顔、寂しさをも受け止めた笑顔、感謝の笑顔、仲直りの笑顔・・・笑顔の持つ個性が人生の豊かさそのものであり、「人生っていいよな」と笑ってもらえた気がした。99才まで生きられるかは分からないし、100才以上まで生きるかもしれない。けれども、生ききった先で自分なりのスマイルを湛えられる人生でありたいと思える、人生賛歌の舞台だった。

『99才まで生きたあかんぼう』は、3月4日(日)まで東京・よみうり大手町ホールにて上演。その後、愛知、福岡、大阪を巡演。日程の詳細は以下のとおり。

【東京公演】2月22日(木)~3月4日(日) よみうり大手町ホール
【愛知公演】3月6日(火)・3月7日(水) 名古屋市芸術創造センター
【福岡公演】3月20日(火) 福岡市民会館 大ホール
【大阪公演】3月24日(土) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_12

『99才まで生きたあかんぼう』舞台写真_13

(取材・文・撮影/河野桃子)

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