末原拓馬「ぞくぞくします」劇団おぼんろ『キャガプシー』寄せ集めで原っぱを劇場に


劇団おぼんろ第15回本公演『キャガプシー』が2017年11月8日(水)に東京・おぼんろ特設劇場「キャガプシーシアター」(葛西臨海公園内 汐風の広場)にて開幕した。主宰の末原拓馬をはじめ、5人の語り部(キャスト)で構成される劇団おぼんろ。本作では、既存の劇場を使わず、舞台美術、衣裳に至るまで、公演“参加者”から贈られた「不用品」を使って作品を作り上げるという。その劇場ができるまでを、取材した。

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開幕の前々日。葛西臨海公園を訪れると、何もない原っぱに忽然と、どこか懐かしい香り漂うテントが出現していた。これらを形作る「不用品」は、北海道から沖縄まで全国各地から贈られてきたそうだ。

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劇団主宰の末原は「付喪神というものがありますが、物に念が宿るってことを、結構信じているんです」と語る。過去に路上で芝居をしていた際に感じた「どこでも芝居ができる」という信念そして「野生動物のような気持ちで、自分たちにしかできないことをやりたい」という志を胸に、こみ上げる表現欲求を今回の公演に託したという。

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次々と集まった多くの「不用品」に対し、末原は「嬉しかったです。お手紙とかも添えてくださった方もいて、これがどういうものだったのか、知ることもできましたし。この“物への特別感”が、本当に人の心に引っかるってことじゃないでしょうか」。

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テントと演劇という結びつきから想像されがちなのは、寺山修司や唐十郎などのアングラ演劇だ。しかし、「キャガプシーシアター」にはそのイメージとは異なり、優しいふくらみを持つ。海が一望できる原っぱで、訪れたすべての人を包み込むようだ。
「テントって一番夢が見やすい形だと思うんです。特別な体験になる、みたいな」

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舞台美術、衣裳だけでなく、客席も“参加者”からの贈り物。「似たものを集めるよりも、とてもスピリチュアルで、奇跡みたい」と末原が言った客席は、ビールケースやパイプ椅子、ソファ・・・様々なもので作られていくようだ。

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これだけ大掛かりな取り組みとなった今回の公演だが、上演までまったく不安がなかったわけではないようで「勇気はいりました。膝が震えましたし。やりたい!という衝動ではじめて、宣伝もほとんどしていなかったので、まったく予想が立たなくて、劇場から何まで一個も無い状態からどうしよう?と思うことが何度もありました」と心境を明かす。そういう時には、“参加者”の顔を思い浮かべたり、”楽しいことをやるんだ”と自分を鼓舞したりしていたそうだ。

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客席と舞台に隔たりを設けずにキャストを“語り部”、観客を“参加者”と呼び、いわゆる体験型の演劇を提供する劇団おぼんろの上演スタイル。これについて、末原は「体験型演劇って最近とても流行っていますよね。一緒に練り歩いたり、お客さんに何かしゃべってもらったり・・・。確かにそれも体験なのですが、本当の体験って、人生において、その日がどういう意味があるかどうかだと思うんです」と思いを語る。

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さらに「人生レベルの体験をするっていう時に、このテントが皆のものであり、皆で建てたものであるってことが、すごく神聖なものになる気がしています。だからこそ、リスクを背負う価値があると思いましたし、今回がどうなっても“あの時はこうだったよね”という思い出が、宝物になる気がするんです」と続けた。

だんだんと完成されていく劇場を見ながら、末原は「ぞくぞくしますよ」と呟いた。「小さいけれど、奇跡を見てる感じなんです。演劇というクリエイティブなものと、人間が生きてるということが合わさる場所が劇場。これって不思議ですごいことですよね」。

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最後に、末原は「一生の思い出になる場所を作りたいなと思っていて。僕らの物語と言うよりは、あなたの物語ですっていうスタンスでありたいんです。あなたの来たその時の状況によって、この公演の形は変わっていきますし、それはとても素敵なことだと思います。閉鎖的な演劇と思われがちなのですが、敷居が高いと思われることにも少し傷ついていて・・・。全身全霊をかけて”贈り物”を用意しているので、ただただ、気軽に遊びに来てくれたらいいなと思っています」と、これから“参加者”となるすべての人に呼びかけた。

劇団おぼんろ第15回本公演『キャガプシー』は、11月8日(水)から11月12日(日)まで、東京・おぼんろ特設劇場「キャガプシーシアター」(葛西臨海公園内 汐風の広場)にて上演。

なお、11月9日(木)14:00公演は、イイネ公演となる(※イイネ公演とは、おぼんろが路上で芝居をしてきた時の慣わしとして、終演後、参加して感じて思った価値分の言い値で投げ銭をする公演)。

【劇団公式HP】http://www.obonro-web.com/

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(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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