70年代少女漫画の人気シリーズがスタジオライフにより舞台化!三原順原作『はみだしっ子』公演レポート


すべて男性俳優で演じる劇団スタジオライフ(StudioLife)による『舞台版 はみだしっ子』が、2017年10月20日(金)に東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて開幕した。「はみだしっ子」とは、1975年に少女漫画雑誌「花とゆめ」(白泉社)に連載され、熱狂的なブームを引き起こした三原順の名作漫画。三原作品は、これが初の舞台化となる。

今作ではトリプルキャストとして、「TRK(トランク)」、「TBC(タバコ)」、「BUS(帽子)」の3チームで上演されている。このチーム名は、1995年に42歳で死去した三原が、いつも大きな黒いトランクを持ち歩き、ヘビースモーカーで、キャップをかぶっていたことにちなんでいる。今回は、一番に初日を迎えた「TRK(トランク)」公演を取材した。

『はみだしっ子』舞台写真_2

『はみだしっ子』は4人の少年が主人公。親に捨てられた、もしくは、親元を飛び出したグレアム、アンジー、サーニン、マックスは、血の繋がり関係なく自分を受け入れてくれる“恋人”を求めて旅に出る。家庭からも、子どもの世界からも、世の中からも“はみだしっ子”となってしまった彼らにとって、4人で一緒にいることは、彼らの支えでもあり喜びでもあった。今回の舞台では、4人それぞれの抱える闇を見せつつ、特にグレアムとアンジーの人間関係を大部分としている。

『はみだしっ子』舞台写真_3

グレアム役は、岩崎大。最年長で、4人の中ではキャプテン的な存在だ。育ちの良さそうな黒のスーツで、前髪で右目を隠した様子は爽やかながら影がある。様々な感情や経験を胸の奥に押し込め、子どもらしくはしゃぐこともない大人びたグレアムが、4人で過ごすうちに少しずつ、自分とも他人とも関わり方が変わっていく姿を繊細に、丁寧に演じた。言動も大人っぽく、身長180cm越えとほかの大人役よりも長身なのに、子どもに見える説得力があった。

『はみだしっ子』舞台写真_4

片足が不自由なアンジー役は、山本芳樹。銀髪、フリルの服、松葉杖と、ほかのはみだしっ子たちよりインパクトのある外見で、さらに性格も人一倍ひねくれている。言葉と態度が裏腹なアンジーの心の揺れや、足を引きずる歩き方の変化などは、感情移入するととても苦しい。グレアムとアンジーの心情を吐露する丁寧な脚本は、言葉を尽くして内省する原作漫画の雰囲気に近い。それにより、人に見せる態度と心情が違うという、複雑な子ども心が浮き彫りになる。

『はみだしっ子』舞台写真_5

反して、サーニンとマックスはとても素直だ。グレアムとアンジーより3つほど年下で、天真爛漫にも見えるし、まだ分別がついていないようにも見える。緒形和也演じるサーニンは、体力ありあまる元気男児。ボサボサのくせ毛で、グレアムやアンジーに言われたことは素直に聞く。緒方のきょとんとした表情が憎めないキャラクターとなっている。田中俊裕演じるマックスは、笑顔いっぱいの優しい男の子だ。他人や大人がどういう存在かなんて、まだ知らない無垢な少年。二人の真っ直ぐな性格が、はみだしながら生きる4人組の救いのように感じられる。

4人とも、寄り添うことで自分の孤独を隠すことができている。しかし同時に、他人と一緒にいると「僕はあいつとは違うんだ」「あいつは僕のことをどう思っているのか」と他者との溝がハッキリとしてくる。お互いへの親愛やコンプレックスなど複雑な思いを通して、誰かといることの喜びや苦しさが繊細に描かれていた。個性の違う4人の少年が、ケンカし、助け合い・・・はみだしっ子なりに懸命に考えながら日々選択していく姿が愛おしい。

『はみだしっ子』舞台写真_6

4人の周りには、彼らをアパートに泊めることになったレディ・ローズ(曽世海司)や、時に「浮浪児!」と見下す態度の人々など、いろんな他者がいる。マックスが「他の人たちも何かを考えているの?」と言うように、自分と他人の区別もまだはっきりとついていない子どもたち。

家族からも世の中からもはみだした自分はどうすればいいのか・・・個性の違う4人だが、その外にはもっと異なる人々の世界が広がっていて、彼らを翻弄する。

『はみだしっ子』舞台写真_8

とくにエイダ(松本慎也)は、他の人よりも4人の関係に一歩踏み込む。エイダははみだしっ子ではないお嬢様だけれど、彼女もまた両親への複雑な思いを抱えている。エイダ自身の迷いや苦しみ、その心の変化も今作の見どころのひとつである。

登場するすべての子どもたちは親との関係が良好だとは言えないが、親への思いは誰もがどこかに共感できるだろう。愛してほしい、優しくしてほしい、味方になってほしい、失望したくない・・・。子どもだった時に誰も少なからず感じたことのある感情が、子どもの目を通して素直に描かれている。

『はみだしっ子』舞台写真_9

StudioLifeは、これまでも数々の名作漫画を舞台化してきた。『トーマの心臓』(萩尾望都)、『Sons』(三原順)、『月の子』(清水玲子)、『OZ』(樹なつみ)、『アドルフに告ぐ』(手塚治虫)など、どれも不朽の名作と呼ばれてもいいだろう。そこに今回『はみだしっ子』も名を連ねる。

舞台化したストーリーは原作のPart.1からPart.5にあたり、漫画での彼らは5~7歳だ。もちろん演じているのは大人だが、それは気にならない。むしろ懐かしい子どもの頃を思い出しながら、同時に最近感じたばかりのような不思議な気持ちが芽生える。

子どもも大人も人の子である以上、親への思いはそれぞれ誰もが持つものだ。そしてまた、他者と関わることで気づいたり、立ち止まったり、感情が揺れ動いたり、成長したりするのは同じ。多くの人に愛された作品の世界観を大切にし、親や他人との関係における普遍的な人間の在り方を丁寧に描いた。

『はみだしっ子』舞台写真_10

他チームの主要キャストは、「TBC(タバコ)」にて仲原裕之(グレアム)、松本慎也(アンジー)、千葉健玖(サーニン)、伊藤清之(マックス)、「BUS(帽子)」にて久保優二(グレアム)、宇佐見輝(アンジー)、澤井俊輝(サーニン)、若林健吾(マックス)が演じる。

劇団スタジオライフによる舞台版『はみだしっ子』は、11月5日(日)まで東京・東京芸術劇場シアターウエストにて上演。回によっては舞台挨拶、撮影会、トークショー、来場者プレゼントなどが行われる。詳細は、公式HPにてご確認を。

※岩崎の「崎」は大に立が正式表記

(取材・文・撮影/河野桃子)

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