柄本時生と篠山輝信が紡ぐ、狂気と切なさがつまったひと夏の冒険譚!『チック』公演レポート


2017年8月13日(日)に東京・シアタートラムにて、舞台『チック』が開幕した。本作は世界中で愛されている児童文学書「Tschick」を原作とし、2011年の初演から本国ドイツで今なお上演され続けている話題作で、日本ではこれが初上演となる。世田谷パブリックシアター開場20周年プログラムの一つでもある本作の模様をレポートする。

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物語は14歳の少年二人が夏休みに車で旅に出る、思春期特有の疾走感と切なさが詰まったロードムービー風な冒険譚。冴えないマイク(篠山輝信)は喧嘩ばかりの父(大鷹明良)と母(あめくみちこ)、誰からも見向きもされない退屈な学校生活という出口のない日常にうんざりしていた。そんなある日、転校生チック(柄本時生)がやってくる。風変わりで問題児の彼は、マイクと同じように学校では浮いた存在に。

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そうして夏休み、気になる女の子の誕生日に呼ばれなかった事で最悪の気分になっていたマイクの前に、チックが車を乗りつけてくる。二人は盗んだ車、ラーダ・ニーヴァに乗ってチックのおじいさんが住むというワラキアを目指し旅に出る。

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大家族の家でごちそうになったり、ゴミ山ではたくましく生きる少女イザ(土井ケイト)と出会ったり、いきなり銃撃されたりと、冷や冷やしながらも二人だけの旅は、これまでの世界とは違う新しい景色と出会いに満ちていた。

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たった数日でそれまでの価値観を一変するような体験をする二人の14歳を、柄本と篠山がエネルギッシュに紡いでいく。アウトサイダー役にピッタリな柄本は、TVや映画で魅せる存在感で、チックをひょうひょうと演じている。そんなチックについて行ってしまうマイク役の篠山は、半ズボンでやりきれない純情少年を熱演。土井、あめく、大鷹は、メイン以外の役も多数演じる。同級生や、教師、旅で出会う個性的なキャラクター達は笑いを誘い、それぞれの早変わりや演じ分けは見どころだ。

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演出を手掛けるのはドイツ・ハンブルク出身で、本作の上演を切望していた気鋭の演出家・小山ゆうな。自ら翻訳も行い、遊び心とアイディア満載で物語を丁寧に描いていく。特に、車移動の演出にはアナログでありながらも楽しい方法が用いられた。

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運転席は、客席の最前列。つまり、役者はステージを降り、運転席(客席)に乗り込むのだ。まるで客席全体が後部座席の様になり、舞台上のスクリーンにはライブカメラで狭い車中の様子が映し出される。スクリーンはバックミラーの様。二人の旅に同乗するような演出に、会場はざわめきながらも笑顔があふれていた。このライブカメラは、他のシーンでも効果的に使われているのでぜひ楽しんでほしい。

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チックに振り回されている様で、自分を解放していくマイク。小さい頃、父親から「世の中は最悪で、人間もみんな最悪」と聞かされていたが旅で出会った個性的な人たちには、不思議と悪人が居なかった。彼らは、この旅で何を見つけ、何を感じるのか?子どもであればワクワクし、昔、子どもだった人には、様々な感情があふれるに違いない。この夏、出会えたことに感謝したいと思える作品だ。

舞台『チック』は8月27日(日)まで東京・シアタートラムにて、9月5日(火)・9月6日(水)には兵庫県立芸術文化センター・阪急 中ホールにて上演。

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(取材・文/谷中理音、撮影/細野晋司 世田谷パブリックシアター『チック』)

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