野村萬斎が古典的様式と現代性を交え新演出で昇華させた『子午線の祀り』ゲネプロレポート


世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演『子午線の祀り』が、2017年7月1日(土)から7月3日(月)に行われたプレビュー公演を経て、7月5日(水)より本公演の幕を開けた。本作は、1979年の初演より、幾度となく上演されてきた木下順二の傑作で、今回、同劇場の芸術監督である野村萬斎が新演出で挑む。このレポートでは、プレビュー公演前に行われたゲネプロの模様をお伝えする。

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「平家物語」を天の視点から見つめ、源平合戦に関わった人物たちの葛藤や無常を描く本作。また、これまで狂言師や歌舞伎俳優が演じてきた源義経役を小劇場からミュージカルまで多方面で活躍中の成河が務めることでも話題を呼んでいる。

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舞台はダークグレーを基調とした色合いになっているが、舞台中央床には光沢のあるブラックの円が描かれている。また、舞台中央から奥は高台になっていてなだらかに隆起している。とてもシンプルな空間であるが、両袖に配置された階段を動かし、舞台上を海岸沿いや陣所、戦船と場面を変えていく創造性豊かな舞台空間となっていた。

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物語は平家軍を指揮する平知盛(野村萬斎)の苦悩から描かれる。一の谷の合戦で、源義経(成河)の奇襲を受け、海へ追い落とされた知盛は、武将としての自らに疑いを持ちつつ、舞姫・影身の内侍(若村麻由美)を和平のため京へ遣わそうとする。しかし、知盛を立てて新しい日本国の存立を画策しようとする四国の豪族・阿波民部重能(村田雄浩)は知盛の策を否定し、徹底抗戦の道を示すのであった。

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その後、勢いづく源義経を中心とした源氏側が描かれる。義経は兄頼朝から目付役として遣わされた梶原景時(今井朋彦)と対立しながらも源氏方の先頭に立って海戦を計画。そうして、ついに両軍は壇の浦の決戦の日を迎えるのであった・・・。

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本公演の魅力は「平家物語」を宇宙から見つめるような俯瞰の視点で、人間の深い内面を浮き彫りにする壮大なドラマ性であるだろう。演出・出演の野村萬斎が本作を演出するにあたり「2017年版『子午線の祀り』は登場人物の魅力的な内面性と、すべての人間の運命を包み込む宇宙の壮大なスケール・・・ミクロとマクロを舞台上に描き出したいと思っています」とコメントを寄せていたが、まさにマクロな視座とミクロな人間の内面が舞台の上で共存していた。

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若村が演じる舞姫・影身の内侍はその役柄と同時に宇宙の中心、時空を超える存在として描かれるのだが、宇宙の遥か彼方から見つめる若村の眼差しの先に人物の苦悩や葛藤が繰り広げられることで、遠い星の輝きとその星で繰り広げられる“ニンゲン”のドラマが目の前で同時に起こるような“遠”“近”のパラドックスが起きていた。

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野村萬斎は同劇場の芸術監督についてから一貫して「伝統演劇と現代演劇の融合」を方針に掲げてきたが、義経役に現代劇の俳優である成河を配し、スタイリッシュな舞台空間をイマジネーション豊かに演出する手腕も含め「ここ(現代)」と「そこ(伝統)」が同時に現れる、野村萬斎の芸術監督としての哲学を凝縮したような舞台であった。

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宇宙の壮大なスケールの視座で語られると同時に人物の内面に深く潜り込む木下順二の戯曲に対して古典的様式と現代性を交えた演出で昇華させた野村萬斎。そして野村萬斎の挑戦を見事体現した成河、若村をはじめとする出演陣。見どころをあげだすとキリのない公演であったが、人間存在を問う壮大なスケールのドラマをぜひ劇場で感じて欲しい。

『子午線の祀り』は7月23日(日)まで、東京・世田谷パブリックシアターで上演。

(取材・文/大宮ガスト)
(撮影/細野晋司)

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