『少女ミウ』開幕!堀井新太&黒島結菜、岩松了の“千本ノック”に手応え


M&Oplaysプロデュース『少女ミウ』が、2017年5月21日(日)に東京 ザ・スズナリにて開幕した。本作は、劇作家・演出家の岩松了による最新作で、一家心中の生き残りの少女・ミウをめぐる「虚偽と真実」についての青春群像劇。出演者には、堀井新太、黒島結菜をはじめ、川口覚、富山えり子、金澤美穂、篠原悠伸、藤木修、新名基浩、岩井七世、安澤千草という10名の若手俳優が集まった。

開幕にあたり、出演者の堀井と黒島、岩松からのコメント、初日レポートが届いている。

『少女ミウ』舞台写真_2

◆堀井新太
(初日を迎えるにあたって)緊張していますけど、楽しみの方が強くて。稽古でやってきたことを思い切りやるしかないですね。ドラマ(『3人のパパ』)の撮影と並行して稽古していたのですが、ドラマの役とはとてもギャップのある大人の役なので、頭が良く見えるようにしないと(笑)。
稽古での岩松さんの“千本ノック”は、すごく楽しかったです。最初分からなかったことが分かってくるという、繰り返すことはそこに意味がありますね。例えば「なぜここは机を触りながら台詞を言うんだろう?」と最初思っても、その仕草を何回も何回もやっていくと日常になってきて、そこに“居る”人になっていく。そういう新しい発見が常にどんどん出てくるのがおもしろかったです。

『少女ミウ』舞台写真_3

◆黒島結菜
岩松さんの稽古では“千本ノック”と呼ばれるように同じシーンを繰り返しやっていくんですけど、何回もやるうちに手とかちょっとビリビリしてきたり、今までなったことのない感覚になることが何回かありました。初めて体がそういう感じになったなっていう。考えなきゃいけないことが多くて頭もすごく使ったし、でも考えすぎても分からなくなってしまうので、目の前のことを一つ一つやっていけば、積み重ねで全体が見えてくるのかなと思いながらやっていました。そうして作り上げていったミウは、上手く掴めないとかいうことはなく、自分と離れているとか近いとか、そういうこともあまり気にしませんでした。今、ミウを演じられて良かったなって、すごく思っています。

◆岩松了(作・演出)
この作品の脚本を執筆中に、別の仕事の取材で福島に行っていたんです。最初から温めていたというよりは、自分の生理的なものが福島に向かっていたのでごく自然に、こういう題材の話になっていきました。
若い俳優たちとやると、少しずつ良くなっていくのを目の当たりにできるのが楽しいから、本当は稽古があとひと月ぐらいあればいいなというぐらい。もしそれぐらいあれば、堀井くんや黒島さんに対しても、今感じていることとはまた別のことを僕が感じ始めると思うし、そうなると人物像の輪郭がまた膨らんでくるから、やればやるだけおもしろい座組みだろうなと思っているんですが。こういう座組みで作るものについては、よくできたお菓子を「はい、どうぞ」と安全なところから差し出してもあまり意味がないなという感覚が、僕の中にあります。そうではなく、自分の身を少し危険に晒したものを届けてみたい気持ちがあって、そうした作品になっているのではないでしょうか。

『少女ミウ』舞台写真_6

【初日レポート】
5月21日(日)に開幕した岩松了の新作、M&Oplaysプロデュース『少女ミウ』は、若手中心の俳優10名で繰り広げる青春群像劇。岩松が200席規模のザ・スズナリで作品を発表するのは6年ぶりとなる。タイトルロールのミウを期待の20歳・黒島結菜が、ミウに惹かれていくTVキャスター広沢役を24歳の堀井新太が演じている。

作品について予備知識がほぼなかった筆者の耳に“ヒナンシジクイキ”“センリョウ”という語句が飛び込んできた。岩松が今回、東日本大震災をモチーフにしたことは大きな注目点であるだろう。“あの会社”の社員で賠償問題の責任者だった人物を父に持つ中学生のミウ(黒島)。6年前、母、妊娠中の姉とその夫、そしてミウの一家は「社会的な制裁」であるかのように避難指示区域に住んでいたが、父はその3ヶ月前に家族を残して失踪。またミウは、自分と同じ歳の異母姉妹がいることを知らされる。その少女が一家を訪れた日、家族はミウだけを残して心中する。そんな衝撃の幕開け。かくして少女ミウは隔離された場所から一人、社会という野へと放たれる。

『少女ミウ』舞台写真_4

スズナリの小さな演技スペースを2段に分けて使い、一段降りるとそこは6年後のテレビ局である。とある番組が、震災被害者である二人の少女の復興への軌跡を長期間に渡って追うという企画を立て、その“二人の少女”こそ、ミウとあのときの少女・アオキユーコ(金澤美穂)であった。その番組の敏腕パーソナリティー・広沢(堀井)はやがて、二人の少女の間で揺れ動く。奥底にどこか野性的なものを感じさせながら純粋な処女性を放つミウと、やや鼻にかかった声や大人びた言動が蠱惑的な印象を与えるユーコ――二つで一つであるようで対照的な彼女たちの魅力に、広沢同様、観客も幻惑されてゆく。

2段の舞台はそれぞれ、避難指示区域にあったかつてのミウの家とTV局(スタジオ、控え室)として使用。それらを分かつ灰色の幕は、硬質なシャッターを思わせる。場面もシームレスに入れ替わり、6年前と現在が行ったり来たり。なお6年前の場面は、新しいものから古いものへ時間が逆に流れている。そしてキャストの大半は、6年前と現在でそれぞれ別の二役を演じている。そんな少々トリッキーな作りは、まさにこの作品が描く“虚実”を表すにふさわしい。被災地の状況に対して真の実感を持てない首都圏、ドキュメンタリーとして出発するも徐々に練られたフェイクへと変化させていくメディアなど、現代の虚実にまつわる問題をビシッと突いてくる脚本でもある。

ミウとユーコ、そして広沢の三角関係が、全く別の男女の三角関係とリンクしている終盤の展開には痺れた。物語はメビウスの輪のように円環をなし、再び紡がれるだろう。虚から実、そしてまた虚へ。震災や原発といういつになくリアリティあるモチーフを用いて、岩松ならではのファンタジーに仕上がった。

『少女ミウ』舞台写真_5

『少女ミウ』は、5月21日(日)から6月4日(日)まで東京 ザ・スズナリにて上演。

(取材・文/武田吏都)
(撮影/柴田和彦)

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