井上芳雄が”究極のロマン”を体現!『グレート・ギャツビー』観劇レポート


5月8日(月)より日生劇場にて上演中の『グレート・ギャツビー』。井上芳雄を芯に、夢咲ねね、田代万里生、広瀬友祐ら魅力的なキャストが“20世紀最高の小説”とも称される「華麗なるギャツビー」の世界を生きる新作ミュージカルだ。本作の開幕週の模様をレポートしたい。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_2(提供:東宝/梅田芸術劇場)

舞台は1920年代のニューヨーク。新興住宅地に越してきたニック(田代万里生)は、隣の豪邸で毎夜パーティーを繰り広げる主人のことが気になって仕方がない。ある晩、ニックは湾で向こう岸の灯りを見つめる男と出会うのだが、彼こそが館の主人、ジェイ・ギャツビー(井上芳雄)その人だった。大富豪でありながら影を背負ったギャツビー・・・ニックは次第に彼の秘密を知ることになる――。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_3(提供:東宝/梅田芸術劇場)

1991年、宝塚歌劇団により、世界初のミュージカル作品として上演された「華麗なるギャツビー」。今回は脚本、演出、そして音楽も一新しての公演となったわけだが、良い意味でリアリズムとは少し違うテイストの舞台に仕上がっていると感じた。つまり、宝塚寄りの演出を男女キャストが鮮やかに魅せるという構成だ。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_4(提供:東宝/梅田芸術劇場)

ジェイ・ギャツビー役の井上芳雄は男性のロマンを凝縮した究極のヒーロー像を見事に体現。自身の出自が原因で結ばれることが出来なかったデイジーのことを想い続け、裏の仕事で成り上がった末に、彼女にふさわしい肩書きや名誉さえ金で手に入れる。この役はデイジーに対し「君はバラより美しい」「僕たちの王国にふさわしい」といったような甘い言葉を純粋に伝え、裏の世界ではクールで野心に満ちた姿を見せ、ラストでデイジーとの愛に殉じる…といった多面性の説得力が必要なのだが、前述した宝塚寄りの演出の中、井上は高い精度でギャツビーを演じ切った。歌に関しても大人の役として、おもに中音の声を華麗に響かせ客席を魅了。中でも大ナンバー「夜明けの約束」は強く胸に響く。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_5(提供:東宝/梅田芸術劇場)

ヒロイン、デイジーを演じる夢咲ねねは、ギャツビーとの再会後、彼と夫との間で揺れる様子を美しく魅せる。娘時代の純粋な恋心が年を重ねるにつれ失われ、現実と夢の世界を行き来しながら、やはり最後は現実を選ぶ女性像が非常にリアルだ。デイジーが語る「女の子はお馬鹿で綺麗な方が幸せになれる」という台詞が哀しく聞こえた。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_6(提供:東宝/梅田芸術劇場)

そして今回、歌だけでなく演技の面でも新たな一面を発揮したのがニック役の田代万里生だ。原作者のフィッツジェラルドが自身の姿を投影したニックを、冷徹な観察者ではなく、半身を彼らの世界に浸した当事者の一人として新たに構築。リッチな人種と自分とを比べて卑下することなく自然に存在するその佇まいに、ギャツビーが心を開くのも良く分かる。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_7(提供:東宝/梅田芸術劇場)

また広瀬友祐は、元・スター選手であり、家柄も財産も申し分ないトムを冷徹に演じる。女性を道具や装飾品としか思っていない傲慢さが美しい立ち姿と甘い顔立ちによく似合っていた。トムに中途半端な優しさや迷いが見えると、ギャツビーとデイジーの悲恋が薄まってしまうため、敵役として存在することが必要なキャラクターなのだが、そういう意味でも的確な役作りが見えた。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_8(提供:東宝/梅田芸術劇場)

“狂騒”“狂乱”の時代と言われた1920年代。第一次世界大戦が終わり、禁酒法の網の目をくぐって闇で酒やドラッグが取引されていたアメリカで、ただ一人の女性のことを想い続け、自分のすべてを捧げた男の物語。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_9(提供:東宝/梅田芸術劇場)

ブロードウェイの香りをたたえたリチャード・オベラッカーの音楽と、フラッパーと呼ばれた当時の女性たちのファッション、クラシカルな男性陣のスーツの着こなし等にも注目し、究極のロマンを貫いたギャツビーの生き方と燃えるような恋に、しばし身を委ねていただきたい。

『グレート・ギャツビー』舞台写真_10(提供:東宝/梅田芸術劇場)

ミュージカル『グレート・ギャツビー』は5月29日まで日生劇場にて上演中。東京公演終了後は6月3日~15日 愛知・中日劇場、7月4日~16日 大阪・梅田芸術劇場 メインホール、7月20日~25日 福岡・博多座にて上演される。

(取材・文 上村由紀子)
(写真提供:東宝/梅田芸術劇場)

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