東憲司、劇作家としての“挑戦”劇団桟敷童子の最新作『蝉の詩』稽古場レポート


新宿の外れ、周囲はオフィス街で高層ビルが数本そびえ立っている。そんな都心も都心の一角、ビルの谷間に劇団桟敷童子の稽古場はある。今日の稽古は13:30から。三々五々集まる俳優たちの中には、自転車通勤組もチラホラ。広いとは言いかねる稽古場に入ると、開始前から芝居の熱がジワリとこもり始めているように感じられた。

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着替えを済ませた俳優たちが、いつの間にか劇作・演出の東憲司を取り巻くように丸く座っている。いよいよ稽古開始だ。まずは昨日の稽古のダメ出しから。少し高めの声、かなり早口の東が戯曲の冒頭から気になる箇所を順に挙げ、かなりの速さで細かく修正・変更を指示していく。本番2週間前のこの日、既に戯曲は脱稿しており「いつもは遅くて迷惑ばかりの僕としては、記録モノの速さでした」と東は苦笑していたが、そのぶん稽古は順調のようだ。

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「暴力親父のいる家族の話は長く温めていた題材。子どもは異母妹を含む四人姉妹という設定なんですが、コレ、少し前に話題になった『海街diary』と同じ設定なんですよね(笑)。観ていただければ分かる通り、全く違う時代と物語なんですが。僕らは劇団なので、やりたいものがあっても演じられる俳優の有無で作品が変わったりする。今回は僕の大好きな俳優の方々を客演に迎えることができたので、長年の希望が実現しました」(東)

東の念願を実現した“暴力親父”役は、幅広い舞台で圧倒的な存在感を放つ佐藤誓。他にも既に客演経験のある中野英樹、東が以前から目をつけていたという椿組の井上カオリ、東演出の『トンマッコルへようこそ』の翻訳も手掛けた、みょんふぁこと洪明花ら実力派が客演に顔を揃える。「“来る者拒み、去る者追わず”が僕の性格で(笑)。“客演したい”とおっしゃる方がいらしても、実現までどうしても時間がかかってしまう。でも今回の4人の方とは、上手く両思いになれました」(東)

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以前の取材で劇団の俳優から「稽古中の東はアツくなると怒鳴ることも珍しくない」と聞いていたが、この日は軽い冗談を度々飛ばしながら軽快に場を進めていく。俳優に変更を出す際も「前にどう言ったか忘れたけれど」とシレッと言ったり、当時のヒット曲「黄色いさくらんぼ」を使った小ネタの呼吸を茶目っ気たっぷりに実演して見せた。ただ後半、大立ち回りの殺陣をつける際には、凄惨な暴力シーンを練り上げるための言葉や仕草に、一段と激しい気迫が込められたのが感じられた。

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「この『蝉の詩』では、劇作家として今までにない挑戦をしているんです。それは現代から始まって過去の、幾つかのシーンを往還しながらドラマを進めていくという劇構造をつくること。演劇的にはよく使われる手法かも知れませんが、僕には初めてのことで、書いている間はしんどいけれど、おもしろくもありました。僕は、前の東京五輪が開催された1964年(昭和39年)生まれ。もちろん記憶はないけれど、あの五輪は日本の敗戦からの復興、高度成長期の象徴だったんですよね。過去の場面は主人公が登場する昭和25年から39年までの折々の世相、九州を襲った天災などを描きながら進み、そのことで“昭和という時代”を舞台上に浮かび上がらせられたら、と」(東)

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遠賀川沿いに住み、運送業などに従事した荒くれの船頭集団・川筋者の家を舞台に、暴君の父と4人の娘がそれぞれ、生き抜くために闘う様を鮮烈に描く今作。腹違いの四女だけに見え、タイトルにもある「蝉」は、東にとって思い入れの深い存在なのだと言う。

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「僕は少年時代、福岡の霊山の奥にある寺に間借りしていたんですが、早朝山に行くと蛹から羽化したばかりの、青白く光っているような蝉を目にすることがあって。その神秘的な姿を見て以来、大好きな昆虫になったんです。物を書くようになっていろんな資料を読むと、“蝉は人間の生まれ変わり”とか“赤い斑点がある蝉は仏様だ”なんていう伝承もある。しかも長いものは10年以上土中で暮らすのに、地上に出たあとはわずか1週間の命。力強い鳴き声とは対照的な儚い命の切なさ、不思議な生態を、人の人生に重ねるようにこの作品を書きました」(東)

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短い生命を必死に燃やし、生きる人々の声は、蝉の鳴き声に重なり舞台にどう響き渡るのか。挑戦をはらんだ桟敷童子の最新作。その奏でる「詩」を是非、劇場で体感して欲しい。

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◆公演情報
劇団桟敷童子『蝉の詩』
4月25日(火)~5月7日(日) 東京・すみだパークスタジオ倉
【作】サジキドウジ
【演出】東憲司
【美術】塵芥
【音楽】川崎貴人
【出演】
佐藤誓 板垣桃子 中野英樹 井上カオリ みょんふぁ 原口健太郎 鈴木めぐみ
稲葉能敬 もりちえ 大手忍 ほか

【公式HP】http://www.sajikidouji.com
【公式Facebook】@sajikidouji
【公式twitter】@douji_s

(取材・文/尾上そら)

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