2004年以来の再演!阿佐ヶ谷スパイダースの傑作『はたらくおとこ』開幕レポート


長塚圭史率いる阿佐ヶ谷スパイダース結成20周年にあたる2016年、同劇団の代表作である舞台『はたらくおとこ』の再演が11月3日(木・祝)、東京・本多劇場にて幕を開けた。出演者は、紅一点の北浦愛を除き、すべて2004年初演時のオリジナルメンバーが再集結。初演当時から12年後となる現在の社会に合わせて細かい部分はマイナーチェンジされ、熱量と深みは、初演時以上のものとも思える作品に仕上がった。

今回の再演にあたり再び集まったのは、作・演出を手がけた長塚をはじめ、池田成志、中村まこと、松村武、池田鉄洋、富岡晃一郎、中山祐一朗、伊達暁という8人の「はたらくおとこ」たち。そこに、舞台初出演となる北浦が加わり、花を添える。

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舞台は、雪深い東北。うらぶれた事務所で、元「茅ヶ崎リンゴ園」で働いていた男たちが、うなだれている。社長の茅ヶ崎(中村)を筆頭に、夏目(池田成志)、佐藤豊蜜(=佐藤弟・池田鉄洋)、前田望(中山)たちだ。かつて、社長の夢は「渋くて苦いリンゴ」を作ることだったのだが、失敗し、借金はふくらむばかり。そこへ、佐藤の妹である涼(北浦)と、兄の蜜雄(松村)が、事務所へ逃げ込んできたせいで、組合から襲撃を受けてしまう。なんと涼は、組合が使用禁止にしている農薬を抱え込んでいたのだった。この農薬をめぐって、前田の弟・愛(伊達)、河口満寿夫(富岡)、真田三平(長塚)も加わり、各々が常軌を逸した行動に出る。やがて暴走の果てに見えるものとは・・・?

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実は初めてタイトルの『はたらくおとこ』を見た時、単純に「なぜ『働く男』ではダメなのだろう?」と思っていた。わざわざひらがなにしてあるのには、何か理由があるのだろうか?

そんな疑問を抱きつつ、公演初日に行われたゲネプロを観たのだが、正直、その謎は解けないままだった。細かいことを言えば、出てくるのは全員男性ではなく、女性が1名いたし、事実上は複数の男が登場するので、「はたらくおとこたち」になる。そうした重箱の隅をつつくような、どうでもいいことまで考えてしまうほど、あまりに深遠な意味を含んだ印象を受けたのだ。

社長は、ただリンゴを作りたいだけだったのに。従業員は、仕事をしたいだけだったのに。兄は、弟は、家族を救いたいだけだったのに。

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陳腐な言葉でいえば、彼らは皆、「ただ幸せになりたかった」だけなのだ。それなのに、命さえ危険にさらす「薬」は、かくも「はたらくおとこ」たちの暴走を促す。そこで繰り広げられるのは、狂気をまとった世界なのだが、やはり時折からめられるユーモアが、本作の真骨頂だという気もする。舞台転換の一切ないセットで、あれほどの緊張感を保ったまま、違和感を感じさせない流れは、演者の怪演による部分も大きいのだろう。特に圧巻はラスト、元「茅ヶ崎リンゴ園」の社長・茅ヶ崎と、部下・夏目のやりとりだ。二人の鬼気迫った演技は、あまりにもリアルで、一瞬ここは本当に本多劇場なのか?と疑うような錯覚に陥る。

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と、ここまで書いて気づいたのだが、本作の男たちは、全員が「はたらいて」いる。たとえ、その行為が利益を生み出したりするものでもなくて、法律的にも、人道的にも、かなり危険としかいいようのないものだったりしても、「おとこ」たちは、ひとりひとり、立派に「はたらいて」いる。

「働く」という漢字は、「傍(はた=他人)を楽(らく)にする」なる意味があると、何かで聞いたことがある。もしそれが正しいなら、この「おとこ」たちは、全員が、誰かを、自分以外の人を、楽にしている。確実に。

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そう考えると、「働く男」ではなく、「はたらくおとこ」になった理由が、なんとなくわかる気がする。「おとこ」は、ただ「はたらく」だけで、かっこいいのだ。どんな「おとこ」でも、「はたらくおとこ」はかっこいい。そして、もう少し先に進んで、「ゆるす」というオプションが加われば、きっと最強にかっこよくなるのだ。

阿佐ヶ谷スパイダースPresents『はたらくおとこ』は、11月20日(日)まで東京・本多劇場にて上演中。その後、福岡、広島、大阪、名古屋、盛岡、仙台でも上演される。

(写真上から1・3・6枚目/撮影:引地信彦)
(写真上から2・4・5枚目/撮影:尾針菜穂子)

(取材・文/尾針菜穂子)

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