新たに中川翔子を迎え再演スタート!ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』記者会見&東京公演開幕レポート


2016年5月14日(土)に世田谷パブリックシアターで幕を開けた、心理スリラーミュージカル『ブラック メリーポピンズ』。2014年の初演メンバーの中に、ただ一人、新キャストとして舞台初出演の中川翔子が参入する。開幕前日に行われた記者会見で中川は、「今まで、何をするにも“中川翔子”だった」「“中川翔子”を捨てて、(役の)アンナを生きたい」と意気込んだ。その言葉どおり、誰も観たことのない中川翔子……いや、アンナが観られる舞台となっている。

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今作は、韓国のソ・ユンミが脚本・音楽・演出すべてを一人で作り上げた作品だ。名だたる大型ミュージカルに並び、韓国・日本でもミュージカル公演ランキングトップ10に入っている超人気作である。

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1920年代初頭、ドイツの心理学者グランチェン博士の豪邸で火事が起こった。燃え上がる猛火のなか、博士の4人の養子達が救い出された。全身に火傷を負いながらも彼らを助け出した家庭教師メリー(一路真輝)は、救世主として話題になったが、その翌日ひっそりと姿を消した。博士の遺体を燃やし尽くした激しく悲惨な出来事……しかし子ども達4人は誰一人、その日の記憶がなかった。
そして12年後……。

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4人のうちの一人、弁護士のハンス(小西遼生)のもとに1冊の手帳が届く。そこにはグランチェン博士とメリーにまつわる、衝撃の内容が記されていた。ハンスは失った記憶と事件の真相を明らかにするため、生き別れていた義理の弟妹たちを集める。

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頑なに真実を暴こうとするハンスに対峙するように、ヘルマン(上山竜治)は乱暴な態度で記憶を取り戻すことに反対する。また、アンナ(中川翔子)は火事をきっかけに笑わなくなっており、ヨナス(良知真次)は唯一記憶を取り戻し、そのせいで神経不安症をわずらい、錯乱状態にあった。

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突如、場面は一瞬にして、過去にさかのぼる。まだ彼らが少年少女だった頃、火事が起こる前の幸せだった日々。演じる役者は、衣装はそのままに、無邪気な子どもになる。両手を広げ、舞台をかけずり回り、表情がくるくると変わる。一瞬で4人が大人から子どもへと変わるようすは、今作の見どころでもある。

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初舞台である中川も、影を帯びた大人の女性と、天真爛漫ゆえに横暴な可愛い妹をはっきりと演じ分ける。地声は重くしっかりと響くが、歌声は透明感にあふれ遠くまで透き通っている。その振り幅は、ミュージカル女優としての魅力だろう。「稽古でボコボコにしていただいた」という言葉を証明するように、普段テレビで見るような明るいキャラクターではない新たな姿が見られる。

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小西と上山はそれぞれの考え方で弟妹を思い遣っているが、意見が合わず、苦悩に表情を歪める。良知は半狂乱になって罵りわめき散らしているが、ただの精神錯乱ではない。なにかに怯えながらも、兄姉への愛情を抱いている複雑で不安定な様子が伝わって来る。
記憶を取り戻したい者、取り戻したくない者……4人それぞれの思いが、歌声になりぶつかり合う。誰もが互いを思い合うゆえに、噛み合ない意見がもどかしく、苦しい。

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初演で美術が第22回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞を受賞するなど、空間の美しさが映える。つねに部屋の中であることは変わらないのに、布で創られた壁は揺れ、音楽と照明の変化が、物語全体に漂う不安感を煽る。

現代の陰鬱とした4人と、無邪気で笑顔溢れる12年前の4人。交互に差し挟まれるシーンがあまりにも違う空気をまとっている。4人の母代わりでもあったメリーを演じる一路の暗く重い存在感が、火事の夜にただならぬ“何か”が起こったことを感じさせる。「人間とは、家族とは、心とは」を描いた舞台だ。

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会見で小西は、再演について「初演とは兄弟関係が変わっていて、イチから作っているみたいだった」と言う。しかし、一人だけ後から参加することについて、中川は「コミュ症を発症していました……」と緊張し通しだったようだ。上山も「(中川は)人見知りで最初全然目が合わなかった」と振り返る。しかし稽古後半には慣れてきたようで「みなさん優しかったです。バナナをくれたり、イスを引いてくれたり!」と説明する中川に対し、「卵焼きくれたよ。美味しかった」(上山)、「初舞台とは思えないほど、覚えも成長も早い」(良知)、「みんなが中川翔子ちゃんから(いろんなものを)もらってますね」(一路)など、4人が微笑む。『ブラックメリーポピンズ』の世界と同じく、みんなが可愛い妹を見守るような温かい記者会見だった。

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ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』は、三軒茶屋・世田谷パブリックシアターで5月29日(日)まで上演。その後の地方公演スケジュールは以下のとおり。

【兵庫公演】6月3日(金)~5日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【福岡公演】6月9日(木)福岡市民会館
【名古屋公演】6月17日(金)愛知県芸術劇場 大ホール

(取材・文/河野桃子)

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