塚田僚一(A.B.C-Z)×渡部秀の二人芝居!松尾スズキ翻訳の絵本『ボクの穴、彼の穴。』稽古場へ潜入


建て替えのため2016年8月に休館する、渋谷・パルコ劇場。3年間の休止を前に上演される作品のひとつが、5月21日(土)に開幕する『ボクの穴、彼の穴。』だ。2008年に松尾スズキが翻訳したイタリアの絵本をノゾエ征爾が戯曲化し、初の舞台作品にする。キャストは塚田僚一(A.B.C-Z)と渡部秀の2人。GW後半にあたる稽古4日目、冒頭シーンの稽古場を取材した。

※一部、物語の展開、舞台セットの様子について触れています。

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『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_2

作品の舞台となるのは、戦場。この日は、渡部とノゾエのマンツーマン稽古が繰り広げられていた。
「・・・マイケルが死んだ。それからずっと、一人ぼっち」
穴のなかには男が一人。アルミの食器やヘルメットなどわずかな荷物が散らばる穴の中で、男は銃を携え佇んでいる。仲間を失い、たった独り塹壕(穴)のなかに身を隠しているのだ。同じ状況の男が、別の穴にもう一人。
「誰もいない。誰も来てくれない。つくづく一人ぼっち。・・・たぶん、敵も、一人ぼっち」
戦場のど真ん中にとり残された敵同士が、見えない相手に怯える。

ふたり芝居だが会話はない。それぞれが、穴のなかで自問自答する独白だけが響く。孤独な恐怖のなか、次第に「ボクは一人ぼっちだ。空腹だ」「敵はモンスターだ!」と疑心暗鬼に陥る。

『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_3

公開されたのは、全8場ある物語のうちの2場。本番を模した仮の舞台セットのなか、渡部は独り、立ち尽くす。「一人ぼっち。それと空腹。この二つが、ボクと敵の似ているところ。ロンリー&ハングリー。He&me・・・」。ロンリー&ハングリー、He&me・・・なんてちょっと笑ってしまいそうなセリフを、淡々と口にする。そして男は、孤独と空腹と死の影に怯え、顔の見えない敵=“彼”を罵倒する。

「ボクは・・・人間!彼は・・・血も涙もない、モンスター!」

『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_4

「はい、止めまーす」、ノゾエの声が芝居を中断する。「もっと気持ちを抑えて」「細かいけど、首を振らないでみましょうか。目線はたまたまそっちを向いちゃったという感じで」「よし、いい感じです。次は座って言ってみましょう」と、仕草の細部まで丁寧に芝居をつけていく。台本にしてたった1頁のシーンを、何度も繰り返す。5回、6回、7回。回数を重ねるほどに、渡部の目が据わり、息づかいが真に迫る。稽古着が泥にまみれた迷彩服に見えてくる。

青年は、繰り返し繰り返し、できればなるべく避けたい“死”について考える。ここで、ノゾエからある課題が出されていた。「ここに、自分自身の言葉をひとつ足してみて」。果たして、渡部がどのような答えを出すのか。

『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_5

こうして、幾度となく同じ場面を繰り返すうち、ぼそりと放つ「・・・一人ぼっち」というセリフに吸い込まれそうになる。言葉が馴染み、戦場の兵士を演じている渡部が、剥き出しの青年に見えてくる。

12回目を越えた頃、ノゾエは芝居を止めることなく先のシーンに進んだ。男は、ある1冊の本について語り出す。「この戦争を起こしたのも“彼”に違いない。ボクは馬鹿じゃない。それくらいわかる。だって『マニュアル』に書いてあるんだもの!」。

『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_6

この『戦争マニュアル』をどう舞台に登場させるか、ノゾエはいろいろなパターンを試した。「もっと左に投げて」渡部の近くに冊子が投げ込まれると、渡部は数歩前に出て、すんなりとそれを拾う。次に「仮に、舞台の奥から冊子が落ちてくるとどうなるでしょう?」ノゾエの提案で、舞台奥に冊子が投げ込まれる。すると、くるりと背中を向けた渡部が遠くの冊子に辿り着くまで、ゆっくりとした時間が流れる。表情は見えないので、その背中が何を思っているのかがわからず、見ているこちらが想像するしかない。

同じ台本、同じセリフ。なのに小道具(冊子)の登場の仕方ひとつが変わると、その場に漂う空気が変わる。演出をつけるとはこういうことか、という変化を目の当たりにした。

『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_7

台本すべての10分の1にも満たないシーンを20回以上繰り返し、約1時間の間に初めとはまったく違うシーンに変化した。稽古はまだ、始まって4日目。本番までにさらに何度も繰り返し、より変化をしていくのだろう。そして劇場では、音と照明と観客の温度が加わる。いったいどんな「穴」になるんだろうか。劇場でのみ、その進化を体感できる。

『ボクの穴、彼の穴。』稽古場レポート_8

なお、エンタステージでは翻案・脚本・演出のノゾエと渡部にインタビューを行った。後日の掲載をお楽しみに。舞台『ボクの穴、彼の穴。』は、2016年5月21日(土)から5月28日(土)まで東京・パルコ劇場にて上演される。

(文/河野桃子)

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