麻実れいが半狂乱の母を熱演!KERA演出『8月の家族たち』観劇レポート


2007年にシカゴの劇場で生まれるや瞬く間に注目を集め、同年ブロードウェイに進出。戯曲はアメリカで最も権威ある文学賞“ピューリッツァー賞”を受賞。作品としてはトニー賞で最優秀作品賞の他4部門を獲得。13年には主演のメリル・ストリープの他、ジュリア・ロバーツ、ベネディクト・カンバーバッチなど錚々たる俳優陣によって映画化され各国の映画祭で受賞、ノミネート。3段飛ばしの猛烈なスピードで頂点まで駆け上がった現代アメリカ演劇の傑作戯曲『8月の家族たち August: Osage County』が、満を持して日本上陸。2016年5月7日(土)Bunkamuraシアターコクーンにて幕を上げた。

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本作の生みの親は、脚本家・劇作家・俳優として幅広いキャリアを積んできたトレイシー・レッツ。代表作『キラー・ジョー』や『バグ』はともに映画化され、それぞれ多くの賞に輝いた今アメリカで最も熱い劇作家だ。そんな彼が幼い頃の実体験をもとに書いた意欲作『8月の家族たち』に挑んだのは、これまで『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』(2012年)、チェーホフの『三姉妹』(2014年)など、数々の“三姉妹作品”を演出してきたケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。出演には麻実れい、秋山菜津子、常盤貴子、音月桂、橋本さとし、犬山イヌコ、村井國夫、木場勝己、生瀬勝久など名実共に主役級の俳優が顔を揃える。傑作戯曲のもと、日本の一線で活躍する演出家と俳優が集結した本作は如何に? ゲネプロの様子をレポート。

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舞台は8月のオクラホマ州オーセージ群にあるウェストン家。詩人でアルコール中毒の父ベバリー(村井國夫)が失踪したことで、薬物の過剰摂取で半錯乱状態の母バイオレット(麻実れい)が残された実家に三姉妹の娘と姉夫婦、孫が集まった。しかし、一家に衝撃的な事実が突きつけられ、それぞれの鬱積が爆発。家族の闇が見え隠れするのであった……。

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一見シリアスな内容に思えるが、本国アメリカでは観客の爆笑が止まないブラックコメディーとして受け入れられている。それでは日本版はどうだろう? 翻訳劇では、価値観の相違から往々にして他国のジョークにピンとこなかったりするものだ。しかしKERAは、語順や語尾を繊細に加筆・削除した上演台本を書き下ろし、本作に日本的な血を通わることに成功。何気ないやりとりの中にナンセンスな会話が散りばめられ、“シリアス”と“笑い”が小気味良く展開。上演時間3時間15分という長丁場も飽きることなく鑑賞することができる。

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また、そんなKERAの手腕に出演者も応える。薬物の過剰摂取で半狂乱になる母バイオレットを演じる麻美れいは、家族に対する愛情とエゴイズムを、抑えきれない狂気に忍ばせ舞台を引っ張る。また、しっかり者の反面、精神的に脆い長女バーバラ(秋山菜津子)、周りの反応を過剰に気にする次女アイビー(常盤貴子)、お調子者で愛され上手の三女カレン(音月桂)と、三姉妹のキャラクターを、秋山、常盤、音月が見事に演じ分け、麻美が当たり散らす吐く暴言・虚言をそれぞれ見事に投げ返す。

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他にも、生瀬勝久や、橋本さとし、舞台初出演の小野花梨など脇を固めるすべての出演者が、誰一人埋もれることなくエッジの効いた存在感でウェストン家の人々にピリッと辛い愛憎を振りまいていた。

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特に見所なのは、舞台中盤、些細な言い合いが全家族を巻き込む喧嘩に発展する場面だ。百戦錬磨の俳優たちが繰り広げる重層的なドタバタは、ビックバンドような高度なグルーヴ感をもって観客を魅了する。戯曲、演出、俳優が相乗しあって遥か高みに到達した、本作を象徴する圧倒的な一場面であった。

稀代の劇作家が描いた傑作戯曲に日本演劇界のトップランナー達が挑む舞台『8月の家族たち August: Osage County』は、5月29日(日)まで、東京・Bunkamuraシアターコクーンにて上演。また、大阪では6月2日(木)から6月5日(日)まで森ノ宮ピロティホールにて上演される。

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