待望の再々演!“記録する演劇” 鄭義信 三部作vol.1『焼肉ドラゴン』観劇レポート


2016年3月7日(月)より東京・新国立劇場 小劇場にて『焼肉ドラゴン』が上演されている。本作は、鄭義信が新国立劇場のために書き下ろし、日韓で2008年に初演、2011年に再演。初演時には、第16回読売演劇大賞、最優秀作品賞ほか、数々の賞を受賞した。今回は、鄭義信三部作一挙上演の第1弾として3度目の上演となる。

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時代は高度経済成長期真っ只中の1970(昭和45)年、万国博覧会が催された頃。何もかもが変わる時代の中、何も変わらない関西のとある地方都市の一角で、焼肉屋(通称「焼肉ドラゴン」)を営む在日コリアンの家族が暮らしている。店主の父・金龍吉(ハ・ソングァン)、先妻との間にもうけた長女の静花(馬渕英里何)、次女の梨花(中村ゆり)、後妻の高英順(ナム・ミジョン)の連れ子の三女・美花(チョン・ヘソン)、そして英順との間に授かった一人息子・時生(大窪人衛)。ちょっとちぐはぐな家族と滑稽な常連客たちは、苦しいながらも賑々しい日々を過ごしている。

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登場人物は皆愉快で明るいが、繰り広げられる人間ドラマはなかなかディープ。決して楽しいことばかりではない。言葉の壁、生きる場所、出自にふるさと・・・。描かれているのは、歴史の中で在日コリアンが直面してきた象徴的な問題で、まさに“記録する演劇”。

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テーマだけをとらえると重いのだが、思わずくすりと笑ってしまうシーンもたくさん。劇場に一歩足を踏み入れると、なんだか炭火のいい匂いがするし、トタン屋根の街並みが広がる舞台の上には、美味しそうな焼肉と楽しげな音楽。視覚だけでなく、嗅覚、聴覚が、観る者を懐かしい時代へと一足飛びに連れていってくれる。人を縛る言葉は数多かれど、些細なことで泣いたり、いがみ合ったりしながらも、笑いあえるのが“家族”なのだ。

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そんな「焼肉ドラゴン」にも、次第に時代の波が押し寄せてくる。彼らの歩む人生を想像する。訪れる困難はなかなか変わることはない、いやそれ以上に過酷になっていくのかもしれない。迷い苦しみながらも人は、懸命に、たくましく未来を見据える。その視線の先に光るのが“生きる”という希望なのだろう。言葉以上に、心に流れ込む感情をぜひ劇場で体感してほしい。なお、幕間にはぜひロビーに出られることをお勧めする。

シリーズ鄭義信 三部作『焼肉ドラゴン』はから3月27日(日)まで、『たとえば野に咲く花のように』は4月6日(水)から4月24日(日)まで、『パーマ屋スミレ』は5月17日(火)から6月5日(日)まで、東京・新国立劇場 小劇場にて上演される。そのほか、全国公演の日程は下記の通り。

焼肉ドラゴン
3月7日(月)~3月27日(日) 東京・新国立劇場 小劇場
4月8日(金)・4月9日(土) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

たとえば野に咲く花のように
4月6日(水)~4月24日(日) 東京・新国立劇場 小劇場
4月28日(木)・4月29日(金・祝) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

パーマ屋スミレ
5月17日(火)~6月5日(日) 東京・新国立劇場 小劇場
6月11日(土)・6月12日(日) 福岡 北九州芸術劇場中劇場
6月17日(金) 6月18日(土) 兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

撮影:谷古宇正彦

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