柳下大&平埜生成&高橋和也が生み出す濃密な会話劇『オーファンズ』観劇レポート


2016年2月10日(水)より、東京芸術劇場 シアターウエストにて舞台『オーファンズ』が開幕した。本作は、アメリカの劇作家ライル・ケスラーによる作品で、1983年にロサンゼルス・マトリックス劇場で初演。日本では1986年に劇団四季により初上演された。世界各地で愛され続ける人気作に、柳下大(D-BOYS)、平埜生成(劇団プレステージ)、高橋和也が、新たな息吹を吹き込む。

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舞台は、アメリカ・ノースフィラデルフィアにある老朽化した長屋。そこが彼らの居場所だった。誰も知らない、閉ざされた世界に暮らす兄弟、利発ながら凶暴的なトリート(柳下)と、天真爛漫なフィリップ(平埜)。フィリップは、真っ暗な部屋で兄の帰りを待っている。
「トリートの兄貴が帰ったぞ!」
フィリップはその部屋の中で見た出来事を、トリートは外の世界での出来事を語る。
「俺はお前の兄貴なんだよ。俺がお前を守ってやる・・・」
親のいない彼らは、トリートの盗みで日々の生計を立てていた。それが、日常。

『オーファンズ』ゲネプロ_2

ある日、トリートはバーでハロルド(高橋)と出会う。
「会いたかったぜ、デッド・エンド・キッズ!」
トリートは、身なりの良さからハロルドを金持ちと見込み、監禁・誘拐を目論む。しかし、ハロルドは意に介さず、トリートに自分の仕事を手伝うように持ちかけるが―。

本作は、主演を務める柳下が『真田十勇士』(2013年、2015年)で演出を受けた宮田慶子との再タッグを熱望し、さらに脚本選びの段階から関わってきた意欲作でもある。柳下は「役者としてもっと新しい自分を見つけたいと想い、宮田さんに演出をお願いした作品です。何度も壁にぶつかり悩み苦しみ、それでも必死に稽古をして、改めて一から芝居というものを見つめ直すことができました」と、コメントを寄せている。

2015年7月に、右ひざの手術を受けていた柳下。舞台復帰にかける、並々ならぬ想いがあるのだろう。持ち前の大胆さと繊細さに芝居への情熱を乗せ、もっともっと、と舞台の上であがく様は、観る者の心の深い部分を突いてくる。

『オーファンズ』ゲネプロ_4

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また、平埜は「31日間みっちり稽古をしてきて、三人芝居だけど三人だけでは作れない作品だったとすごく感じています。僕個人としては、今までとは違った舞台の味わい方を見つけられそうな気がしています」と振り返った。平埜演じるフィリップは、劇中で大きな変化を遂げる。芝居に対するまっすぐな心根を映す目が、その役柄と重なり印象的だ。

『オーファンズ』ゲネプロ_5

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そして、本作は「10年に一本出会えるかどうかという作品」だと語る高橋。高橋の謎めいた役どころは実にファニーで、温かい。いくつになっても、他者との関係を築くのは怖いものだ。しかし、一歩先に踏み込む懐の深さを持ち合わせるのが大人。高橋の若き役者たちを包み込むような存在の大きさが、絶妙なバランスを生み出していた。

『オーファンズ』ゲネプロ_3

また、作家・演出家としても活躍する谷賢一(DULL-COLORED POP主宰)による翻訳は耳馴染みがよく、現代の生きた言葉として濃密な会話劇に新たな血を通わせている。コミュニケーションの多様化と背中合わせに、他者との関係性が希薄になっている現代だからこそ、近づくことで感じる“痛み”。近づかなければ知り得ない“温もり”。丁寧に描かれた見えない絆の物語を、ぜひ、劇場で体感してほしい。

なお、彼らの日常は開演前からすでに始まっている。なるべく早めに座席につくことをおすすめする。舞台『オーファンズ』は、2016年2月10日(水)から2月21日(日)まで東京芸術劇場 シアターウエストにて、2月27日(土)・2月28日(日)に新神戸オリエンタル劇場にて上演。

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