光石研、麻生久美子など豪華キャストと共に描く赤堀雅秋、渾身の一作『同じ夢』観劇レポート


劇団THE SHAMPOO HATの主宰で劇作家・演出家・俳優の三つの顔を持つ赤堀雅秋による新作公演『同じ夢』が、2016年2月5日(金)に東京・シアタートラムにて幕が開けた。出演者には、圧倒的演技力で映画・テレビ・舞台と縦横無尽に活躍する光石研、麻生久美子、大森南朋、木下あかり、田中哲司と豪華俳優陣が集結。作・演出の赤堀が「自分は何ができるのか?と自問して作った作家としての覚悟の一作」と語る渾身の作品となった本作の公開ゲネプロの模様をレポートする。

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本作の舞台となるのは、千葉県船橋市郊外で精肉店を営む一軒家。庶民的な生活臭の漂う一軒家で、物語は微妙な人間関係を匂わせながらはじまる。昭雄(光石)の家に入り浸る近所の文房具屋を営む佐野(田中)。10年前、昭雄の妻を交通事故で殺めてしまい、命日は必ず焼香に来る田所(大森)。精肉店の従業員で仕事をサボってばかりいる稲葉(赤堀)。精肉店の先代の店主で、昭雄の父の介護に通う高橋(麻生)と、昭雄のひとり娘である靖子(木下)。

『同じ夢』観劇レポート_2

一括りにできない微妙な関係で繋がる登場人物たちは、当たり障りのない会話を無理に弾ませ、愛想笑いを浮かべながら隠し持つ闇を露わにしていく。老人の介護、廃れていくであろう市井の商店。過ぎゆく時間の中で、本音を赤裸々に語るには恥ずべき歳になってしまった。自衛隊のヘリが爆音で飛ぶ空の下、細やかに過ぎる日常は、希望の見えない鳥籠のような生活にも思えてくる。

『同じ夢』観劇レポート_3

本作の魅力は、赤堀が描く繊細な人間の機微と、それを鮮やかに演じる俳優の見事な演技であるだろう。登場人物は何かを「勝ち取る」わけでもなければ、観客の同情を誘い涙させるような「悲劇」があるわけでもない。表面的に見れば、どこにでも転がっていそうな小さな不幸を湛えた生活が描かれるのみだ。

『同じ夢』観劇レポート_4

しかし、細かな心理を湛えた俳優たちの振る舞いに、観客は思わず「あるある」と笑い、時にシリアスに唾をのむ。この既視感は、自分も決して他人事ではないという当事者性の表れでもある。観客はだんだんと、この物語がどうか希望で終わるようにと望んでしまう。

『同じ夢』観劇レポート_5

そんな観客の想いをヒョイとあらぬ方向へ飛び超えてしまうのが赤堀の作品である。希望や絶望など分かりやすい対立軸で展開するのではなく、現代に生きる市井の人間模様を、あくまで叙事的にエンターテインメントに昇華させる。赤堀演劇のエポックメーキングな到達地点とも言える作品であった。

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『同じ夢』は、2016年2月5日(金)から2月21日(日)まで東京・シアタートラムにて上演。その後、松本・水戸・名古屋・兵庫・広島・福岡にて公演が行われる。日程は下記のとおり。

2月24日(水)~2月25日(木) 松本・まつもと市民芸術館 実験劇場
2月27日(土)~2月28日(日) 水戸・水戸芸術館 ACM劇場
3月1日(火)~3月2日(水) 名古屋・愛知県産業労働センター ウインクあいち 大ホール
3月4日(金)~3月6日(日) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
3月8日(火)~3月9日(水) 広島・JMSアステールプラザ 中ホール
3月12日(土)~13日(日) 福岡・福岡県立ももち文化センター 大ホール

撮影:細野晋司

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