三浦涼介×吉原光夫 ミュージカル『手紙』東京公演レポート!


東野圭吾の同名大ヒット小説をオリジナルミュージカル化した『手紙』。2016年1月25日に新国立劇場・小劇場(東京・初台)での開幕後、みるみる口コミが広がりチケットはすぐにソールドアウト。同作は2月10日(水)の枚方公演までツアーでの上演が続けられる。今回は日本のミュージカル界に鮮やかな爪痕を残した『手紙』東京公演の模様をレポートしたい。

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新国立劇場・小劇場で、通常舞台として使われる入り口奥を客席に、普段は客席が組まれることが多い入口側に舞台を設置しての本公演。オーヴァーチュアがある訳でもなく、ヘッドホンを着けた若者たちがどこからともなく登場し、日常の空気感を残したまま物語が始まる。

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両親を早くに亡くした兄弟。兄・剛志(吉原光夫)は、頭の良い弟・直貴(三浦涼介)の大学進学のため、肉体労働で家計を支えている。ある日、引越し作業で訪れた家の住人が一人暮らしで金銭的にも余裕があることを知った剛志はその家に盗みに入るのだが、住人である老婦人に見つかり、彼女を手に掛けてしまう。

強盗殺人という罪で逮捕され、裁判に掛けられて収監されることになった剛志。直貴はそのことを知った周囲の人たちから“犯罪加害者の家族”という白い目で見られ、自らの夢や幸福を奪い取られてしまう。

刑務所で罪を償う剛志にとって唯一の心の拠り所は直貴との「手紙」のやり取りだった。が、その「手紙」の存在は次第に直貴を苦しめ、二人の心はすれ違っていく…。

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弟・直貴役の三浦涼介はある日突然自らの身に起きた出来事に動揺しながら、何とか明るい方向に歩いていこうとする青年を好演。理不尽な目に遭い差別を受けても、それを受け容れて生きようとする様子が切ない。インタビューで兄弟役の二人が語っていた通り、三浦が演じる直貴の佇まいに「ミュージカルにありがちなキラキラ感」は一切なく、街や電車内ですれ違いそうな普通の人間の姿がリアルに浮かび上がっていた。

兄・剛志役の吉原光夫はその殆どが刑務所内での芝居と言う状況の中、愚かではあるが、性根は真っ直ぐであろうと思わせる人物像を繊細な芝居で魅せる。引っ越し作業当日、老婦人からの心付けをすべて仲間に取られてしまう人の好さや、生きていく上での要領の悪さが終始全身からにじみ出ていた。

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この二人以外はアンサンブルが何役も演じるのだが、特に印象が強かったのは『レ・ミゼラブル』ジャベール役の経験者・川口竜也と、直貴に恋心を抱く由実子を演じる北川理恵、そして直貴のことを最後まで庇う友人・祐輔役の廣瀬大介の三人だろうか。北川演じる由実子の嫌みのない明るさや、祐輔役・廣瀬の自然な気遣いに直貴の心が動く様子が強く伝わってきた。川口は直貴が就職した家電量販店の経営者や、剛志が入った刑務所の受刑者等を演じるのだが、どちらも役の人物のバックボーンがしっかり伝わり、作品に深みを与えていた。

本作が何より切なく哀しいのは、基本的に“悪意”を持つ人間が一人も出てこないところだ。強盗殺人を犯してしまった剛志も元は弟に教育を受けさせたいという思いからの行動であるし、直貴を差別し隅に追いやる人たちにもそれがどれほど一人の人間から光を奪い取っていく行為であるかの自覚はない。ただ彼らは自分の生活を守りたい…“犯罪加害者の家族”という異質な存在を遠ざけたいだけなのだ。誰もが今歩いている道を一歩踏み外せば剛志や直貴と同じ状況に置かれることもある…そんな真実をはっきり提示され、言葉にならない感情が渦巻く。

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さまざまな人々の人生が図らずも交錯し、「手紙」というキーワードで重なっていく本作。当初から日本語で作られた音楽の自然さや、想像力を掻き立てる演出もキャストの熱量と大きな相乗効果を生み、ミュージカルの世界に鮮やかな爪痕を残す作品となった。

ミュージカル『手紙』は2月5日(金)~ 2月8日(月)新神戸オリエンタル劇場、2月10日(水)に枚方市市民会館(大ホール)にて上演される。

(取材・文 上村由紀子)

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