新たな幕が上がる 『ミュージカル李香蘭』観劇レポート!


2015年8月31日(月)に自由劇場(東京・浜松町)にて開幕した『ミュージカル李香蘭』。実在の人物である山口淑子氏の自伝を基にミュージカル化された本作は、劇団四季が「昭和三部作」の第一弾として長らく公演を続けてきた。今回、浅利演出事務所プロデュース公演の第二弾として新たな幕を開けた舞台の模様をレポートしよう。

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物語は第二次世界大戦終戦後の中国で始まる。この地で祖国反逆者裁判の被告となって人々の前に立つ一人の女性・李香蘭。満州映画協会の女優として、数々の映画に主演してきた彼女は実は日本人・山口淑子で、李香蘭とは父の親友である李将軍から貰った中国名だと言う。彼女の口から語られる半生…そして日本と中国が「戦争」という深い渦に飲み込まれる様子が“もう一人のよしこ”こと男装の麗人・川島芳子によって明らかになっていく…。

『ミュージカル李香蘭』

1991年の初演からタイトルロールの李香蘭を演じ続ける野村玲子は、澄んだ声での台詞と、全身で観客に訴えかける演技で作品を牽引。特に冒頭と終盤の裁判シーンで自らの行いを悔いながらも、日本と中国…二つの祖国を愛し続けてきたと深く静かに語る場面は強く胸に迫る。また、日劇でのリサイタルシーンの華やかな立ち姿は圧倒的だ。

作品の狂言回しの役割を担う川島芳子役の雅原慶は、時に皮肉な目線を交え、そして時にシリアスな視線で時代の流れを台詞と歌とで紡いでいく。「戦争」という暗い闇が物語の底に常にある本作で、芳子がシリアスに寄りすぎてしまうと辛いこともあるのだが、雅原は自らが持つ「陽」のモードを上手く使い、李香蘭(=山口淑子)とは違う形で時代に翻弄された一人の女性の生き様をしっかり見せ付けた。こうなるとこれまで“可憐”というイメージが強かったWキャストの坂本里咲がどんな芳子像を作っているのかも気になるところだ。

『ミュージカル李香蘭』

秋夢乃は美しいソプラノを聞かせながら、中国人として国を愛する生き方を選んだ愛蓮を好演。革命家として抗日運動を続けながら、姉妹のように育った香蘭をかばいつづける姿が切ない。
また、オーディションで選ばれた杉本役の上野聖太は「昭和」な男性像を繊細に表現。優しさと理想とを胸に戦地に赴く彼の後ろ姿に当時の若者たちの決意が見えた。

『ミュージカル李香蘭』

今回、新たな幕を開けた『ミュージカル李香蘭』には、オーディションで選ばれた多くの若手俳優が参加している。平成生まれも多いキャストたちに、演出の浅利慶太は日本が暗い渦に飲み込まれた時代のことを幾度も語り、その時代の空気を体の中に入れるよう指導を続けたという。「戦後70年」と五文字で書いてしまえばそれまでだが、作品中で、家族や愛する者たち、そして未来を思って散っていった若者たちの姿がいつまでも心に残った。

『ミュージカル李香蘭』

「時代」という波に翻弄されながら、二つの祖国を持ち、数奇な運命を生き抜いたヒロイン・李香蘭。彼女の半生と日本という国が確かにたどった道筋、そしてたった13年しか存在しなかった「満州国」の姿を目撃しながら、三木たかし氏の手による美しい音楽も存分に体感して欲しい作品だ。

(注:文中のキャストは筆者観劇時のもの)

『ミュージカル李香蘭』
自由劇場(東京・浜松町)にて9月12日(土)まで上演中。

(撮影 山之上雅信)
(文 上村由紀子)

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