古き良き日本語に心が温まる、舞台『國語元年』公開舞台稽古


2015年9月1日(火)から紀伊國屋サザンシアターで開演し、その後は兵庫県立芸術文化センターなどでも上演される舞台『國語元年』。故・井上ひさしが手がけた1986年初演のこの舞台で、今回、俳優の八嶋智人がこまつ座初登場ながら主演を務めている。そんな本作から、公演初日が近づいた日に公開された稽古の模様をお伝えしよう。

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本作の舞台は明治七年、東西の話し言葉がバラバラだった頃の日本。物語は、文部省官吏の南郷清之輔(八嶋)と、その家族や屋敷に住む人々を中心に展開する。ある日、学校で子どもたちに教える為の「小学唱歌集」を完成させ、意気揚々と官庁へ報告に向かった清之輔だが、帰ってくるなり、新たに「全国統一話し言葉」制定取り調べを命じられたことを明かす。苦労して作り上げた「小学唱歌集」をあっさりと打ち捨てられ落ち込む清之輔だったが、「話し言葉の統一は、国をひとつにするための大事業である」と再び熱意を燃やすのだった。しかし、ひと口に日本語といっても様々な話し言葉が存在し、それをひとつにまとめることの難しさに直面する…。

登場人物が話す“お国言葉”は実にさまざまで、また、それを話す俳優陣の流暢な方言使いにも驚かされる。あまりにリアルすぎて、ほとんど聞き取れないような時もあるほどだ(もちろん意図してのことだが…)。

『國語元年』

なにせ南郷家の人間だけを見ても、清之輔は長州出身だが、妻の光(朝海ひかる)は薩摩の生まれで、その父・重左衛門(久保酎吉)は誇り高き薩摩の隼人健児。
三人の女中たちも、女中頭の加津(那須佐代子)は江戸山の手言葉を話し、最年長のたね(田根楽子)は下町のべらんめえ口調。逆に最も若いふみ(森川由樹)は羽前米沢のズーズー弁と、それぞれの言葉はバラバラだ。
おまけに車夫の弥平(佐藤誓)は遠野弁、そしてカメラ好きの書生・修二郎(土屋裕一)は名古屋弁。「小学唱歌集」製作の為に連れてきたピアニストの太吉(後藤浩明)は、その生い立ちからカタコト英語しか喋れないという複雑ぶり。

『國語元年』

さらに、ニセモノの清之輔に騙され、怒り心頭で屋敷へやってきた女郎・ちよ(竹内都子)は河内弁でまくしたて、「全国統一話し言葉」制定の相談役としてやってきた京都の公家・裏辻芝亭公民(たかお鷹)は、のらくらと話す京言葉で、いつの間にか居候を決め込んでしまう。
そこへ強盗に落ちぶれ果てた会津の士族・虎三郎(山本龍二)が押し込んできたものだから、もはや収拾がつかない。南郷家はまさに、日本中の話し言葉の縮図なのだ。

本作で初めてこまつ座の舞台に出演する八嶋だが、試行錯誤しながら話し言葉の統一に苦戦する清之輔をコミカルに、しかし基礎となる真面目な性格を壊すことなく演じている。まさしく八嶋が持つキャラクターと、確かな演技力ならではのものだろう。

また、物語の途中、なかなか思う様に進まない「全国統一話し言葉」の制定に、その生真面目な性格ゆえか次第に落ち込んでいく清之輔。序盤の明るい雰囲気とはうって変わってシリアスな空気が流れるが、家族や使用人たちが一緒に唱歌を歌って場を盛り上げ、舞台上は再び活気を取り戻す。この「歌」があることで物語は暗くなりすぎず、観客も清之輔の苦労を笑い飛ばすことができる。喜劇と悲劇、二つの顔を持つこの作品は、実に絶妙なバランスの上に成り立っているのだ。
清之輔を中心とした人と人とのつながりや、方言独特の語感が持つ温かさ、そして随所に流れる「小学唱歌集」の耳慣れたメロディとが相まって、なんだかほっこりとした気持ちになれる本作。はたして清之輔が挑んだ「全国統一話し言葉」は、どのような結末を迎えるのだろうか――。

『國語元年』

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舞台『國語元年』は、2015年9月1日(火)より、新宿南口・紀伊國屋サザンシアター、兵庫県立芸術文化センター、かすがい市民文化会館、イズミティ21、川西町フレンドリープラザなど、5都市で上演される。また東京公演中の9月9日(水)、9月21日(月・祝)と、兵庫公演9月26日(土)の公演後には、アフタートークショーが開催される。

お問合せ こまつ座 03-3862-5941

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