2022年9月に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールにてミュージカル『夜の女たち』が上演される。その製作発表会見が7月15日（金）に同劇場で行われ、江口のりこ、前田敦子、伊原六花、大東駿介、前田旺志郎、北村有起哉、長塚圭史（上演台本・演出）が登壇した。
1948年、戦後すぐに公開された溝口健二監督映画「夜の女たち」は、戦後間もない大阪釜ヶ崎を舞台に、生活苦から夜の闇に堕ちていった女性たちが、必死に生き抜こうとした姿を描いた作品。今回、映画の脚本を元に、長塚が上演台本・作詞・演出を手掛け、自身初のオリジナルミュージカルとして、混沌とした時代を生きていかなければならなかった日本人のエネルギー、生命力を音楽の力で描く。
夫を戦争で失い、「闇の女」へと堕ちていく主人公・大和田房子役に江口。戦争で全てを失い、自暴自棄になり進駐軍が駐屯するホールでダンサーとして生きる房子の妹・君島夏子役に前田（敦）。行き場を失った房子を雇い、また愛人とする栗山商会社長・栗山謙三役に大東。時代に翻弄される若者、房子の義妹・久美子役に伊原。久美子を騙す学生・川北役を前田（旺）が務める。そのほか、福田転球、北村岳子らが参加している。
本作の企画意図について、長塚は「原作の映画は実際に当時の体を売る女性たちが立っていた場所で撮影していて、ドキュメンタリー映画のように見える劇映画なんです。こういう生活苦とか、その状況下に置かれた日本の社会が、まざまざとある角度から描かれていて、大戦からある歴史が脈々とつながっているんです。このことが何か、忘却の彼方にいってしまってはいけないという思いが、まずこの作品をどうにかしなければ、何かにしたいという風に思った理由でした」と説明。
続けて、ミュージカルとした理由を「なんとかこれを劇にしようと思った時に、その時代を学ぶような勉強のような作品にはしたくなかったので、方法がないかなと思った時に、ミュージカルだと。ミュージカルだったら心の内を歌い上げることもできるし、時代の空気を歌にすることもできる。そうすると、つらいけども、ものすごいエネルギー量を持って生きた人たちの、どうにか生き抜こうとした人々の姿を鮮やかに描けると思ったんです」と語った。
また、ミュージカル初出演の江口、前田（敦）、大東をはじめ、主なキャスト陣はストレートプレイを中心に活動する俳優陣が揃っている。
その点について、長塚は「非常に優れたミュージカルの俳優さんに出てもらうことは、それはそれで素晴らしいものになるなとは思うんですけど、この時代に日本人として新時代を迎えたところ、これは初めてミュージカルをやるような人たち、ストレートプレイを生業にしている俳優たちと作ってみたらどうだろうかと。その方向のほうがセリフから歌という、それがエネルギーを持ってセリフ、そして舞台へと転じることができるんじゃないかとチームを編成してきました」と解説した。
そんなカンパニーについて、江口は「ミュージカルは初めてなので、毎日稽古場で楽しいと思ったり、楽しくないと思ったり、やっているんですけど（笑）。一緒にやる俳優のみんなもミュージカル畑の人じゃなくて、私と同じ人ばかりなので心強いし、大丈夫だと思います」と答え、登壇者たちの笑いを誘った。
同じくミュージカル初挑戦の前田（敦）も「最初はびっくりしました。歌の練習から入って、今はセッションをする形で台本を読み合わせながら歌に自然に入っていくという流れを作っていただいている最中で、歌にはすごくパワーがあるなとやりながら感じています」とコメント。
伊原は「この作品を初めて見た時の衝撃がすごくて、この作品をミュージカルでどう表現するだろうと思っていたんです。だけど、楽曲を聴いた時に、本当に台詞のイントネーションがそのままメロディになったような楽曲ばかりで、これは歌というよりは心情とかを音楽に乗せて届けることができる作品になるんじゃないかなとワクワクしています」と期待を寄せた。
前田（旺）は「僕もミュージカルは初めてなんですけど、稽古時にみんなで一緒に歌うシーンで気持ちが上がるんですけど、ソロ曲になるとすごく不安で、人前で歌うことに慣れていないので、めちゃくちゃ緊張して言葉すら出ないぐらいです。ただ、徐々に慣れて、皆さんの前で披露する時には、自信を持って胸を張って歌えるようになりたいと思います」と意気込んだ。
大東は「とにかくこの作品は楽曲が素晴らしくて、譜面を見ながら歌うという状態で聴いてる時から、素晴らしい楽曲だと思ったんです。そこから立ち稽古のように立って歌うと、俳優の人たちが自分の役を重ねて、言葉と歌の狭間のような血が流れている感じがするというか、映画で見たドキュメンタリーのような戦後すぐの情景が舞台に見えてきたというか、『ミュージカルすごい！』とめっちゃ思っています。楽しみにしておいてください」とアピールした。
台本を読んで、どう舞台化するのかと疑問に思ったという北村は、「でも、そういうときに限って火が付くんですよね。どうなるか本当に分からないという作品の匂いにつられてしまう。そういう本能的なものが役者にあったりするんです。まさにこの作品はそんじょそこらのエネルギーでは太刀打ちできない戦後間もないころのカオスを、我々の具体的な肉体で歌い上げて、表現をしなければならないという想像力をふんだんに膨らませて、そのがむしゃらをそのまま本番のお客さんの前にぶつけていくしかないんじゃないかなというぐらいものすごい作品になっています」と思いを述べた。
すでに始まっている歌稽古について、前田（敦）は「私はまず楽譜が読めなくて、読み方から教えてもらうところから始めたんです。ずっとAKB48にいたので、当たり前に分かるんじゃないかと先生も思ってくださっていたんですけど、だからこそ、新しいことをやっているなという気分です」と新たなチャレンジへの思いを明かしながら、「まずは音程に沿って歌えるようにならないといけないんだろうなと。そこからどうやってセリフとつなげて、落とし込んでいくんだろうと分からないことだらけなんですけど、皆さんがいるから、事前にそういう風に役を通してってなっていくという作業はすごく楽しいです」と笑顔を見せた。
稽古場の雰囲気を尋ねられると、大東は「毎回、稽古の前にボイトレように声のアップでやるんですけど、先生が『声の玉を持って、それを上げてみて』とかおっしゃって、みんなやっていて、僕も分かっているみたいな顔をしてやっているんです。だけど、本当はまったく意味が分かってなくて（笑）。早く声の玉をつかめるように頑張ろうと思っています（笑）」とエピソードを披露すると、会場から笑いが起こった。
北村も稽古場の雰囲気について、「小学校の音楽の授業のような感じです。自分もちょっと照れとかあって、なかなか慣れていないものだから、なんとかテンションを上げています。メイキングの撮影とかは、『絶対に入れたくない！』という感じです（笑）。稽古って恥ずかしい試行錯誤の期間なんだけど、今の歌の稽古は特に『関係者以外絶対に立ち入り禁止！』みたいな感じでやっています（笑）。だけど、それだけ伸び代があるということです」と冗談交じりに答えた。
そして、長塚の作品に数多く出演する江口は、その魅力を「考えたこともないですけど、誘われたらやってしまうのが、自分でも不思議ですね」と述べながら、「だって、今回だってミュージカルって聞いてなかったですし。いつの間にかミュージカルになっていたんですよ」と明かすと、その言葉に長塚も「そんなことないよ」と笑顔で反論するなど、2人の会話に会場は笑いに包まれた。
ミュージカル『夜の女たち』は9月3日（土)から9月19日（月)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールにて上演される。その後、福岡・愛知・山口・長野・兵庫を巡演予定。チケットは、7月23日（土)より一般発売開始。
（取材・文・写真／櫻井宏充）
ミュージカル『夜の女たち』公演情報
上演スケジュール・チケット
【神奈川公演】2022年9月3日（土)～9月19日（月・祝) 神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホール
【福岡公演】2022年9月24日（土）～25日（日） 福岡・北九州芸術劇場 中劇場
【愛知公演】2022年9月30日（金）～10月2日（日） 愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【山口公演】2022年10月6日（木） 山口・山口市民会館 大ホール
【長野公演】2022年10月10日（月・祝） 長野・まつもと市民芸術館 主ホール
【兵庫公演】2022年10月14日（金）～10月16日（日） 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
＜チケット＞
【一般発売】2022年7月23日（土) 10：00～
スタッフ・キャスト
【原作】久板栄二郎
【映画脚本】依田義賢
【上演台本・演出】長塚圭史
【音楽】荻野清子
【振付】康本雅子
【出演】
江口のりこ 前田敦子 伊原六花 前田旺志郎 北村岳子 福田転球 大東駿介 北村有起哉
石橋徹郎 中山義紘 入手杏奈 山根海音 篠崎未伶雅 山口ルツコ 小熊綸 加瀬友音
【公式サイト】https://www.kaat.jp/d/yoruno_onnatachi
