浅川紫織が4年ぶりに舞台復帰!Kバレエカンパニー『カルメン』リハーサルレポート


情熱の赴くままに生きる魔性の女カルメンと、彼女に魅せられて愛の狂気へと堕ちていく男ドン・ホセを描いたビゼーの名作オペラ『カルメン』。バレエ作品としても数々のバレエ団で踊り継がれてきたこの題材だが、Kバレエカンパニーが熊川哲也の手によって全く新しい演目『カルメン』として本作を世に送り出したのは2014年のこと。

この度3年ぶり4回目の上演が決定。その本番をおよそ2週間後に控えた5月18日(水)に公開リハーサルが行われ、スタジオには主人公カルメンとドン・ホセを演じる4組のダンサーたちの姿があった。

リハーサルレポート

日髙世菜×石橋奨也、成田紗弥×山本雅也、小林美奈×堀内將平の3組が披露したのは、第2幕2場(闘牛場の前)。指導にあたる熊川が「それぞれに違う死にざま、もしくは殺めざまがある。色々と複雑な心情が混ざった表現で、そこはダンサーにゆだねている部分」と話すように、各々が独自の解釈でキャラクターを形成しているのが浮き彫りになるような三者三様の演技だった。

【『カルメン』2幕2場(闘牛場の前)】
闘牛の開催日。群衆が沸き立つなか、エスカミーリョたち闘牛士が颯爽と登場する。エスカミーリョはカルメンが自分の恋人であると宣言し、一同と共に闘牛場へと入っていく。その時、人並みを押しのけてホセがやって来る。闘牛場からカルメンを引っ張りだすホセ。何を言っても取り合わないカルメンを前に、嫉妬に狂ったホセは激情のあまり彼女の首に思わず手を掛ける。そんな彼を振り切り、逃げるカルメン。そして――。

トップバッターは日髙×石橋ペア。このシーンのホセを、前々からカルメンを殺すつもりで“怒り”の感情が大きいと解釈した石橋。そんなホセからドタバタと逃げまどいつつも、それでもどこか優雅さを失わない日髙のカルメンは、「オペラを元にしたバレエ作品なので、歌うように踊りたい」と話していた彼女の言葉通り。お互いに荒々しい感情をむき出しにするため、下手をすれば雑な印象を受けやすく、リフトなどテクニック面でタイミングをずらしかねないこのシーン。「世菜さんのカルメンの空気感を大事に、2人で合わせてというところを一番大事に」という石橋のサポートの甲斐あってか、息の合った演技だった。

日髙世菜×石橋奨也

最も激しい印象を受けたのは2組目の成田×山本ペア。石橋と同様に、ホセの“怒り”に着目した山本は、「全部捨ててきたのに何で伝わらないんだ」という悲痛な思いを全身で表現。対する成田は、「私のカルメンはホセにはあまり情がない。今風にいうと“ワンナイトラブをしちゃった相手”なのに、いつまでもしつこいので、ウザったい!という感じ」というスタンスで考えているという。このあまりにあっけない冷たさが余計にホセの嫉妬心や失望を増幅させ、ホセが熱くなればなるほどカルメンの心が離れていく――そんな遣る瀬無い恋の構図が見えてくる。

成田紗弥×山本雅也

“怒り”のホセが続く中で、異なるキャラクター性を提示したのは堀内。「真面目に生きてきた青年が、彼女のために全部を捨ててきたのに、自分が捨てられることになる。(このシーンは)傷ついているところから始まり、愛を伝えようとしても伝わらないことに混乱した彼が、最後にはカルメンを撃ってしまう」という解釈の通り、出てきた瞬間から“混乱”や“弱さ”が滲むホセを演じた。パートナーの小林が目指す、「自由奔放で自分の気持ちをストレートに伝えて生きてきた女性。その場その場で恋を楽しんで、周りを翻弄して巻き込んでいく」カルメン像に、見事に振り回されてしまった惨めさの行きつく先が何とも切ない。

小林美奈×堀内將平

「2014年の初演、8年ぶりに『カルメン』を踊ります」と話す浅川は、今回カルメンを演じるキャストたちの中で唯一の経験者。妖しさの中にどこか情熱を感じさせるような旋律が忘れられない、かの有名な「ハバネラ」の場面を披露してくれた。複数の男性ダンサーたちに囲まれ、妖艶で挑発的な視線を伝わせる浅川。自分の魅力を出し惜しむことなく、自由奔放に舞い踊ることを純粋に楽しむようなカルメンだった。

そんな浅川には、オペラ版の「ハバネラ」に出てくるお気に入りの歌詞があるそうだ。おそらく、「Si je t’aime, prends garde à toi!(もし私に愛されたのなら、気をつけなさい!)」や「L’amour est loin, tu peux l’attendre. Tu ne l’attends plus … il est là.(愛は遠くにあるわ、あなたが待てるだけ。あなたがもう待てないなら…すぐそこにある)」の部分だと思われるが、そういった原作に流れる雰囲気をリハーサルを始めた段階から意識しつつ探っているという彼女は、最後には「どういう感じになるかは、劇場に来て確かめてほしいと思います」とお茶目なコメントでリハーサルを締めくくった。

浅川紫織「ハバネラ」

そんな浅川のカルメンをパートナーとしてサポートするのは髙橋裕哉。役作りについて、“思考回路がおかしくなっている”や“カオス”という言葉を挙げた彼のホセと、どんな悲恋の物語を見せてくれるのか楽しみだ。

芸術監督を務める熊川は役作りについて自身の経験を踏まえてこう話す。「僕が最後に踊ったとき(2019年公演、パートナーは矢内千夏)は、年齢差が激しかったから、“大人おちょくってどうすんだ”っていう怒りで殺す感じだった。はじめてやったとき(2014年公演、パートナーはロベルタ・マルケス)はそうじゃなかった。デビューの時と2回目(以降)は全然違ってくる。成長していく上で、恋愛だったり、出会いと別れだったり、そういったものを経験していけばさ、丸くなっていくんですよ。僕みたいに(笑)」

芸術監督を務める熊川哲也

より成熟したカルメンを見せてくれそうな浅川、そして5名のダンサーたち。今の彼らが演じるカルメンやホセは今しか見ることができない刹那的なもの。是非とも劇場でその姿を見届けてほしい。

(取材・文/エンタステージ編集部 写真/Ayumu Gombi)

熊川哲也Kバレエカンパニー『カルメン』公演情報

上演スケジュール

2022年6月1日(水)~6月5日(日)Bunkamuraオーチャードホール

キャスト・スタッフ

芸術監督・演出・振付:熊川哲也
音楽:ジョルジュ・ビゼー

出演
カルメン:浅川紫織/成田紗弥/日髙世菜/小林美奈
ドン・ホセ:髙橋裕哉/山本雅也/石橋奨也/堀内將平

『カルメン』ストーリー

舞台は1800 年代前半、スぺイン・セビリア。タバコ工場前の広場に女工たちが現れる。なかでも最も人気が高いのはカルメンだ。言い寄る男たちを思わせぶりにかわし、カルメンは生真面目に業務をこなす竜騎兵の伍長ドン・ホセに近づき、気を引こうとする。無関心を装いながらも彼女に心奪われる自分に動揺するホセ。

そんな中、ホセを幼馴染のミカエラが訪ね、故郷の母からの手紙を渡す。やがて工場で喧嘩が起こり、カルメンが兵に捕らえられる。自分を逃してほしいと見張りのホセを口説くカルメン。その誘惑に負け、縄を緩めたその途端、彼女は逃げ去っていく。

酒場ではカルメンや密輸業者たち、闘牛士のエスカミーリョらが賑やかに踊っている。カルメンを訪ねて店にやって来たホセは、恋焦がれていた彼女との再会を果たす。だが、甘い時間もつかの間、律儀に帰営しようとするホセに、カルメンは一緒に自由な暮らしをと誘う。ホセは上官スニガに責められながらも、カルメンと共に生きるためならばと密輸業者の仲間に加わることを選ぶ。愛のために道を踏み外したホセ。

だが、何ものにも縛られないカルメンの愛は、長くは続かなかった…

公式サイト

https://www.k-ballet.co.jp/contents/2022carmen

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