グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語


2022年3月31日(木)に東京・新宿シアタートップスにて、グッドディスタンス「風がつなげた物語」が開幕する。コロナ禍で演劇の灯を消さないための企画として2020年7月より定期的に少人数で作る短編集を上演してきた「グッドディスタンス」。今回は、少し規模を広げ、『珠子が居なくなった』『月と座る』という2つの物語を同時上演する。

劇場から灯りが消えたあの時、苦しい中で模索し、生まれたのが本企画。1人芝居または二人芝居、かつ、1時間以内の作品を複数の団体で回替わり上演する。そんな「短編集」として綴ってきた「グッドディスタンス」が、ここまで培ってきた“できること”を積み上げ、新宿に復活した新たな劇場で「物語」を届ける。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

今回上演される二作品は、「今」を生きる人たちへの思いを込めた、書き下ろしの新作。共通するモチーフは「バス停」のみ。それぞれの人生が一瞬留まり、交錯する場所を、それぞれどう描いているのか。今回、両作品の稽古場を取材。本記事では『珠子がいなくなった』について紹介する。

『珠子が居なくなった』は、深井邦彦(HIGHcolors)が作・演出を手掛ける作品。出演は、モロ師岡、ししどともこ(カムヰヤッセン)、若狭勝也(KAKUTA)、田口朋子、益田恭平(HIGHcolors)、鈴木朝代。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

物語は、ある一家の居間から始まる。昔、家を飛び出していった母親が、骨になって帰宅した。その葬式の帰り、父と3人の娘、長女の夫はそれぞれの想いを胸にぎこちない家族の会話を続けている。

長女の珠子は、母の骨壷を抱えて離さなかった。珠子は「ちょっと変わっている」と言われ続けていた。この日も、喪失感の中で笑っていた。実家からの帰り道、バスを待ちながら夫に笑いながらある要求をする。夫はそんな珠子が理解できない。そんな2人の会話を行きずりの男が聞いていた。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

そして、珠子はいなくなった。珠子の失踪に焦る夫。対照的に「心配」を口にしながらも何もしない家族。父親は、探しに行くわけでもなく、ただバス停に行って帰ってくるだけ。何があってもいつも楽しそうに見えた珠子。しかし、今ここにはいない。どの言葉が、誰の言葉が、彼女を消したのか――。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

家族のことは家族にしか分からない。傍から見たら「変」なことも、当人たちにとっては至極まっとうなことだったりする。極端に描かれているけれど、どこにでも、誰にでも、どこか当てはまる家族の物語。

作・演出の深井は、もともとテーマに「誹謗中傷」を据えていたという。「誹謗中傷を描いた作品って、いろいろありますよね。僕はそんなテーマを、ちょっと違う視点から描いてみた。誹謗中傷って、悪意のある陰口が矢面に経っていますけれど、もっと怖いのは悪意のない正義感ではないかと思うんです。みんな自分のこと“変じゃない”と思って生きている。そんな考えから、この物語を書き始めました」と深井。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

「ちょっと変」と劇中で言われ続けている珠子だが、演じるししどは「私は、最初に台本を読んだ時から、珠子のことをあまり変だとは思えなくて。変かどうかって、結局その人の価値観でしか話せないことだと思うんです」と、役に寄り添っていた。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

また、三姉妹の描かれ方も「あるある」が詰まっている。独身で、親の介護など将来に不安を抱く姉と、結婚間近で家を出ようとしている妹。どちらの立場や考えもとてもリアルだ。姉を演じる田口も、妹を演じる鈴木も「自分に近いものを感じるし、すごくリアル」と口を揃える。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

夫の立場の描かれ方もまた、頭を抱えたくなるほどリアルだ。「他人」が「家族」になる難しさを、雄弁に物語っている。演じる益田は「僕の役は、一見モラハラ夫に映るかもしれないんですが、演じていて、そんなに間違ったことを言っているようには思えないんです。それはきっと、この物語の登場人物誰もがそうで、それぞれに主義主張があって、それに忠実なだけで。それをおもしろがってもらえたらいいなと思います」と語った。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

一方、若狭が演じるバス停の男は、ある行動で物語を動かす。とんでもない行動なのだが、益田は「若かった頃を思い出すと、衝動は自分の中にまったくないものではないなと(笑)。楽しんで演じています」。ドラマティックな場面における男女の心の機微の違いなども、見どころとなっている。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

そして、「お客さんの中でどんどん想像していただいて、個々の中で盛り上がってくれるといいなと思います。演劇って、押し付けがましいものではなく、想像して楽しむものだから」とモロ。一家の大黒柱だが老いていくばかりの男であり、妻に去られ死別された男であり、三姉妹の父である男のラストの選択を、モロはユーモアたっぷりに演じている。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

人間誰しも、矛盾を抱えて生きている。人間はそもそも、生きづらい生き物なのかもしれない。そんな登場人物たちに、きっとどこか共感するものがあるのではないか。「変」というレッテルを貼ることは簡単だけれど、裏を返したらその「変」は誰かの「普通」でもある。演劇と観客の“心地いい距離感”が、新たな気づきをもたらしてくれそうな作品だ。

グッドディスタンス『珠子がいなくなった』稽古場レポート――「変」と「普通」表裏一体な家族の物語

グッドディスタンス「風がつなげた物語『珠子が居なくなった』『月と座る』」は、3月31日(木)から4月6日(水)まで東京・新宿シアタートップスにて上演される。上演時間は90~100分を予定。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

グッドディスタンス 風がつなげた物語
『珠子が居なくなった』『月と座る』」公演情報

『月と座る』

作:大岩真理
演出:西山水木
出演:旺なつき、野々村のん(青年座)、鬼頭典子(文学座)、根本大介、後東ようこ

『珠子が居なくなった』

作・演出:深井邦彦(HIGHcolors)
出演: モロ師岡、ししどともこ(カムヰヤッセン)、若狭勝也(KAKUTA)、田口朋子、益田恭平(HIGHcolors)、鈴木朝代 /

上演スケジュール・チケット

2022年3月31日(木)~4月6日(水) 新宿シアタートップス

<チケット>
前売:5,500円
当日:6,000円
https://ticket.corich.jp/apply/116388/
http://confetti-web.com/kazegatsunageta/

3月31日(木)
14:00『珠子が居なくなった』/19:00『月と座る』

4月1日(金)
14:00『月と座る』/19:00『珠子が居なくなった』

4月2日(土)
14:00『珠子が居なくなった』/19:00『月と座る』

4月3日(日)※配信あり
14:00『月と座る』/19:00『珠子が居なくなった』

4月4日(月)
14:00『珠子が居なくなった』19:00『月と座る』

4月5日(火)
14:00『月と座る』/19:00『珠子が居なくなった』

4月6日(水)
14:00『珠子が居なくなった』/19:00『月と座る』

ライブ配信

※4月3日(日)2作品・ツイキャスにて有料ライブ配信(アーカイブ2週間)。
購入期間:4月17日(日)まで

<アーカイブ視聴期間>
※ライブ配信購入者もアーカイブ視可能
視聴料金:3,000円

『珠子が居なくなった』
配信期間:4月3日(日)14:00~4月17日(日)23:59
https://twitcasting.tv/c:gooddistance/shopcart/125705

『月と座る』
配信期間:4月3日(日)19:00~4月17日(日)23:59
https://twitcasting.tv/c:gooddistance/shopcart/125706

【公式サイト】https://www.gooddistance.net



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