「甲斐翔真の代表作になるのでは」ミュージカル『October Sky -遠い空の向こうに-』稽古場レポート


2021年10月6日(水)に東京・Bunkamura シアターコクーンにて、ミュージカル『October Sky -遠い空の向こうに-』が開幕する。本作は、全米でベストセラーとなった元NASAの技術者ホーマー・H・ヒッカム・Jr.による感動の自伝小説「ロケットボーイズ」を原作とした青春映画をミュージカル化したもので、甲斐翔真、阿部顕嵐(7ORDER)、夢咲ねね、栗原英雄、朴璐美らによって日本初演を迎える。

本記事では、9月24日(金)にエンタステージがTwitterのスペースで行ったラジオ配信にゲスト出演してくれた本作の企画・大谷亮平氏、プロデューサー・松本有希子氏の話を交えながら、稽古場の様子をレポートする。

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物語の舞台は、アメリカの小さな炭鉱の町。1957年、人類初の人工衛星スプートニクが宇宙へ飛び立った姿を、その炭鉱町から見上げていた高校生ホーマー(甲斐)は、自身もロケットを打ち上げたいと言う夢を抱く。悪友のロイ(阿部)とオデル(井澤巧麻)、そして科学の知識を豊富に持ついじめられっ子のクエンティン(福崎那由他)と「ロケットボーイズ」を結成し、ロケット作りに取り組むようになる。

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ホーマーに跡継ぎになれとロケット作りを認めない父ジョン(栗原)、厳しくも寄り添い続けてくれる母エルシー(朴璐美)、ホーマーに可能性を見出し応援する高校教師ミス・ライリー(夢咲)など、様々な大人と時に反発しながらも見守り支えられ、少年たちは宙(そら)を目指すが――。

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この物語は、「ロケットボーイズ」という小説タイトルや、「遠い空の向こうに」という映画タイトルでご存知の方も多いだろう。ミュージカルは、アメリカのシカゴ(2015年)とサンディエゴ(2016年)でトライアウト公演が行われているが、まだブロードウェイでは上演されていない“原石”的作品を、この度、日本で先んじて上演することとなった。

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企画・製作のアミューズが上演の可能性を探り始めたのが5年前。2016年公演の音楽監督チャーリー・アルターマンから作品の紹介を受けた大谷氏は、その内容と音楽の素晴らしさに感銘を受け、すぐさま上演権獲得に動いたという。

「この作品の舞台になっている炭鉱町は、いわゆる村社会というか、閉じられたコミュニティで、日本の社会構造と重なる部分を感じました。そこからロケットを打ち上げたいという大きな夢を持った少年が、困難に直面しながらも大きな世界へ出ていこうとする姿に、これは日本でやるべき意義のある作品だと思ったんです」と大谷氏。

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しかし、ブロードウェイでの上演を目指している作品でもあったため、すぐに日本で上演したいという希望にはなかなかGOサインは出なかった。そんな中で起こったのが、新型コロナウイルス感染症の蔓延である。ブロードウェイは閉鎖され、世界中のエンターテインメントが苦境に立たされた。日本も一時的に全面ストップしたが、その後徐々に再開することができたため、「トライアウトの意味も込めて」と、「日本で先んじて」という稀な形での上演が実現したのであった。

そして“日本初演”をする上で、重要な要素の一つにキャスティングがあった。“大きな夢を抱く少年”をできる俳優として求められるのは、しっかりと歌えること、若さがあること、そして、困難の中でも決して諦めない力強さを感じさせること。これを兼ね備えて現れたのが、甲斐翔真だった。

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甲斐は、現在23歳。これまで『デスノート THE MUSICAL』『RENT』『マリー・アントワネット』『ロミオ&ジュリエット』と経験を重ねてきたが、ついにシングルキャストと主演として舞台に立つ。「甲斐としても、今まで以上に等身大で演じられていると思います。彼にとって、代表作になるのでは」と松本氏も期待を寄せる。

稽古場取材でも、象徴的だったのが甲斐の“目”だった。今、稽古場では全員マスクを着用しているので、ほとんど表情が見えない。しかし、甲斐は目だけでも少年の“夢”をしっかりと語っていた。夢見心地とか、心ここにあらずという意味ではなく、時には痛みを伴いながらも忘れられずに見つめる“夢”。劇場では、照明などの力を得て、ホーマー少年の夢の先にある“宙”までも、しっかりと映してくれるに違いない。

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そして、ホーマーを支える「ロケットボーイズ」にも、新たな可能性を感じる面々が抜擢された。阿部が演じるロイは、義父から暴行を受けているという役柄だが、なんとト書きにはっきりと「イケメン」と書かれていたという(「こんなにズバリ書いてある台本、なかなかないんですよ(笑)」と松本氏)。

ロイ役にぴったりの俳優を探す中で、松本氏が惹かれたのが『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stageで観て「目がいい」と思った阿部だった。ロイは、どこか影がありながらも、学校の中でも目立つスター性のある少年。稽古場でも、髪を切ってきただけでスタッフやキャストをざわつかせる、出来事があったそう。一朝一夕では身につけられない求心力は、すでに稽古場から発揮されている。

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井澤が演じるオデルは、ひょうきんで遊びのある役。井澤自身も、稽古場で率先してアイデアを試し、ムードメーカー的存在になっていて、「メキメキ成長していて、細かく芝居をしているのでとてもおもしろいです」「稽古場はみんなで安心して失敗できる場であるべきで、そういう雰囲気を率先して作ってくれるのがとてもありがたいんです」と大谷氏。松本氏からの信頼も厚い。音楽好きな彼が、本作でどんな経験値を掴み取るかにも期待したいところ。

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そして、クエンティン役は一番の悩みどころであり、こだわりどころだったと松本氏は語る。クエンティンは、膨大な科学の知識を持つ頭のいい少年だがいじめられっ子。でも、心を開けば人懐っこい。そのため「潜在的かわいらしさ」が求められていた。そこで社内に聞いたところ、多数の人から「あの子、かわいいんだよ」と名前が挙がったのが福崎だったという。ミュージカル『黒執事』でシエル・ファントムハイヴ役を演じていた福崎。「潜在的かわいらしさ」はそのままに、成長した彼の“今”が観られるのも、楽しみの一つになりそうだ。

初共演で、全員人見知りと言っていた「ロケットボーイズ」。コロナ禍で制限も多いが、稽古を通して着実に絆を深めていっている様子。プロデューサー陣からも「休憩時間も突然本読みが始まったり、買ってきたお菓子の交換会が行われていたりします」「那由他くんが『阿部さんに買ってもらった』って、お菓子を机の上にきれいに並べていたりするんですよ(笑)」と、本当に学校の休み時間のような、微笑ましいエピソードが飛び出した。

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そんな4人が演じる「ロケットボーイズ」を、上演台本・訳詞・演出を担当する板垣恭一も「かわいく作りたい」と意図しているという。そして、そんな少年たちの純粋なかわいらしさを際立たせるのが、取り巻く大人たちの支えだ。地に足を着けよと道を敷く父と、息子の背中を押す母、生徒の可能性を引き出し導く先生、力を貸してくれる年上の友人・・・子どもたちに向けられる視線の底にあるのは、どれも愛であり、物語の持つ社会性も見えてくる。父と息子の関係性とそれを表現する甲斐と栗原の関係性、また、それぞれの立場から見守る女性陣の描かれ方にも注目だ。

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稽古場は、非常に和やかで雰囲気がいい。コロナ禍のため、マスクを付けての稽古だが、それぞれが阿吽の呼吸でフォローし合ったり、目線を交わしたりしながら、作品を良くしようと切磋琢磨していた。取材日には、初めて衣裳の稽古場に届き、一同興味津々。壁に張り出されたイメージ画を見ながら、静かにイメージを膨らませていた。

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実話であり、小説、映画にもなっている本作。これを“ミュージカル”にする上で、作品により彩りを与える大きな要素は、やはり音楽だろう。心情を歌に乗せて伝えるというミュージカルの良さが物語とマッチし、クライマックスへとすべてを高めていく。楽曲は、テーマ曲「星を見上げて Look to the stars」のリプライズも含めて約30曲。本番はオーケストラによる生演奏で、あまりミュージカル楽曲で使われることのないバンジョーなども登場する。

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「観客にこれを観てほしい!」というプロデューサーたちの情熱、より良い方法で作品を舞台に上げようとするクリエイターたちの試行錯誤、そして、俳優たちが作品を理解し役に寄り添いながら重ねる努力。「舞台がまもなく開幕する」と一口に言えど、そこには目に見える以上に長い年月が道をなし、並々ならぬ熱意が込められている。コロナ禍が続き、制限の多い生活の中で夢を抱きづらくなっている今は、奇しくも作品の中で少年たちが直面する問題に似ているようにも思う。劇場を後にしながら秋の空を見上げる時、どんなことを思うのか。様々な要素が重なって、今この作品を日本で観ることができるのは、とても幸運なことかもしれない。

『October Sky-遠い空の向こうに-』は、10月6日(水)から10月24日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーン、11 月11日(木)から11月14日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。

なお、エンタステージでは毎週金曜日22:00より、Twitterのスペース機能を使ってラジオ配信を実施中。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

 

 

ミュージカル『October Sky-遠い空の向こうに-』公演情報

上演スケジュール

【東京公演】2021年10月6日(水)~10月24日(日) Bunkamuraシアターコクーン
【大阪公演】2021年11月11日(木)~11月14日(日) 森ノ宮ピロティホール

スタッフ・キャスト

【上演台本・訳詞・演出】板垣恭一
【脚本】ブライアン・ヒル&アーロン・ティーレン
【作詞作曲】マイケル・マーラー

【出演】
甲斐翔真 阿部顕嵐(7ORDER)/夢咲ねね/栗原英雄 朴璐美
中村麗乃(乃木坂46) 井澤巧麻 福崎那由他
畠中洋 青柳塁斗 筒井俊作 礒部花凜
中本雅俊 角川裕明 大嶺巧 秋山エリサ 國末慶宏 砂塚健斗 Sarry
高木裕和 倉澤雅美

【公式サイト】https://october-sky.jp/

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