有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕


二人芝居『息子の証明』が、2021年8月25日(水)に東京・博品館劇場にて開幕した。本作は、有澤樟太郎が演じる“息子”と、山下容莉枝が演じる大女優の“母親”の確執と想い、そして親子の絆の再生が描いたオリジナル作品。

脚色・演出は、タカハ劇団の主宰で舞台「魔法使いの嫁」(脚本・演出)、ドラマ「ここは今から倫理です。」(脚本)などを手掛ける高羽彩が脚色・演出を担当。そして、脚本は下亜友美(ドラマ『科捜研の女』、映画『魔進戦隊キラメイジャーVSリュウソウジャー』など)が務めている。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

初日を前には公開ゲネプロが行われ、有澤、山下、演出の高羽が取材に応じた。まずは、初日を迎える心境を聞かれた有澤が「今の気持ちを一言で言うと緊張しています。二人芝居は僕自身初めての経験ですし、一からオリジナル作品を作っていく大変さを痛感しました。共演の山下さんと演出の高羽さんにみっちり稽古をしていただいたので、初日を迎えるにあたり、とにかく自信を持って、山下さんと二人の空間を楽しみながらお芝居ができたらいいなと思っております」と迷いのない表情で力強くコメント。

山下は「私の頭と体の容量を越えたお芝居なので、正直不安でいっぱいなのですが、とても良いストーリーで面白く見応えのあるお話だと思います。観劇いただく方々に作品に込められた想いをお伝えできるように、有澤くんと共にラストシーンまで駆け抜けたいと思います」と語りながら、優しい笑顔を有澤に向けていたのが印象的だった。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

脚色・演出の高羽は「今の時期に興行を行うことの意味を、舞台上の我々はもちろん観劇いただく方々も考えざるを得ない状況であるかと思いますが、劇場に観ることを選択してくださった方、配信という形で観ることを決断してくださった方、観られなくても少しでもこの作品のことを気にかけてくださった方・・・全ての方に感謝を申し上げたい。今日初日を迎えられることが本当に有り難く幸せなことだと思っています」と感謝の言葉を述べる。

また、本作の見どころについて高羽が「役者は二人だけ、場面転換もない、(休憩のない)一幕ものという逃げ場のない空間で、有澤さんと山下さんが二人で作り上げるこの空気感が何よりの御馳走になるのではないかと思います。有澤さんは稽古期間中に蕾が花開くような瞬間を何度も私たちに見せてくれました。今まさに花開こうとしている有澤さんの姿をご覧いただけるのも非常に見どころになると思います」と有澤の成長を語っていたのが印象的だった。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

山下は「このお話は、パズルのピースがいっぱい散らばっている状態から、物語が進むにつれて少しずつはまっていって“ある形”を成していきます。その形が完成した時に私たちはどういう選択をするのか・・・。観た方の心の中にも必ず“引っかかる”ものがある展開だと思うので、そこを楽しみに、そしてその気持ちをお持ち帰りいただければ、それに越したことはないなと思っています」と作品の根底に流れるテーマについて語る。

二人の話を受けて有澤は「僕は稽古から、今まで経験したことがないくらい追い詰められた状況だったんですけど(笑)。お二人はもちろんスタッフの皆さんにもたくさん助けていただきました。とにかく今日のためにがんばってやってきたので、その成果が出ればいいなと思っています。本作は家族の話という誰にでも通ずるテーマなので、家族の絆、そのつながりを、観てくださる方々にしっかり届けられたらと思っております」と決意の表情。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

続いて、稽古中の印象的なエピソードについて質問が及ぶと、「稽古場で私語を全く交わしませんでした」と山下。それはコロナ禍だからという理由だけでなく「台詞の量が多すぎて、有澤くんの顔を見て目を合わせる度に「次はどこのシーンをやる?」「どっか気になるところない?」って毎日ずっと台詞の掛け合いしかしてなくて、私生活のことやら、何ひとつおしゃべりすることがありませんでした。それが一番印象に残っています(笑)」と、笑い合う二人。

ちなみに、稽古中は“ほぼ”女性ばかりで「舞台監督さんが合流するまでは男性は僕ひとりで、しかもほぼ全員O型っていう奇跡のような現場でした(笑)」と語っていた有澤。それはさぞ肩身が狭かったのではと思いきや、「皆さんすごく僕に気を遣ってくださって、私語は交わさずとも山下さんを始めスタッフの方々のフッとした時に出る優しさに、煮詰まった時は救われました。今まで感じたことがない優しい空気に包まれた稽古場だったなという印象ですね」と充実した稽古を振り返っていた。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

そんな二人の役者の魅力を演出の高羽は「山下さんは非常に真面目で、稽古中はもちろん休憩時間もずっと台詞の練習をしていました。ディスカッションの時間もカリカリすることなく山下さんが本来持っているポジティブさに若輩者の私も助けていただきました。芝居になるとカチッとなってて、有澤さんをグッと引っ張ってくださるような瞬間もありましたね」とエピソードを語る。

そんな有澤は稽古場で“打てば響く役者・有澤”という二つ名を付けられたそうで、「ちょっとしたひと言をかけるだけで「そう!それが欲しかったの!」という台詞がポーンと出しくる“瞬発力”と“読解力”のある役者さんだと思いました。なにより素直なので真っ直ぐに芝居作りに取り組むことが出来る方。有澤さんと山下さん、お二人の空気感があって、かなり健全な創作現場が出来たんじゃないかなと思っています」と、稽古場の様子を交えながら魅力を分析する高羽の横で照れたような表情を見せる二人が微笑ましい会見となった。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

物語の舞台はは、古めかしいが豪華なお屋敷の一室。薄暗い照明にぼんやりと浮かび上がる舞台上に、どこか思いつめた表情の来栖現実(リアル/有澤)が現れる。外は激しい雷雨。濡れた上着を脱ぎ、電話をかけながら散らかった部屋の中をウロウロ・・・すると部屋の隅に積み上げられたガラクタの中から仮面と槍を見つけ、写メで記念撮影。

そこに現れた母・来栖小梅(山下)。暴漢と間違えてひと騒動あった後、「で、何?」と高校卒業と同時に家を飛び出し、8年ぶりに帰宅した息子に理由を聞くも、要領を得ない態度に逆にイライラしてしまう小梅なのだった。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

データ重視で過去の出来事なども常にメモして持ち歩いている現実を、有澤が熱演。インタビュー時に「膨大な台詞の量に苦戦している」と語っていた彼だが、肝心な事は伝えられないのに母親の上げ足を取りには饒舌になる細かい男・・・もとい“繊細な男”を表情と全身を使って感情豊かに演じてみせる。

一方、母・小梅を演じる山下は、突然の息子の訪問にとまどい、「話があってきた」という割になかなか要件を言い出さない息子に呆れつつ、マイペース断捨離(という名の単なる荷物の移動/笑)に勤しむマイペースな母親をコミカルに表現。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

久しぶりの親子の再会とは程遠い喧嘩腰の会話ながら、二人のテンポの良い言葉のキャッチボールからは家族ならではの“阿吽の呼吸”が感じられ、「あれだよ、あれ!」「あれじゃ分からないわ」など、多くの人が経験するであろう“親子あるある”な会話の数々に思わずクスっとしてしまう。

その後、些細な言い争いから大喧嘩となり家を追い出されたものの、近くの川が氾濫して結局実家に泊まることになった現実は、意を決して訪問の目的である舞台への出演オファーを告げる。喜び快諾する小梅だが、その舞台が『郭公(かっこう)』と聞いて態度が一変するのだった。

女優・来栖小梅の出世作である『郭公』は初演から25年間、一度も再演されていない幻の作品。脚本家の父と主演女優を母に持つ自分がプロデュースし、成功を収めたいと願う現実の熱い説得にも小梅は理由を言わず頑なに出演を拒否する。実はこの作品は、母が25年間誰にも言えずにいた“真実”が隠された呪いの作品だった――。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

家族だからこそ言えないこと、家族だから理解してくれるだろうという甘え、過去の思い出が母にとっては“息子の輝かしい記憶”でも息子にとっては“辛く哀しい記憶”だったりする。劇中、何度も繰り返される「母さんには分からない」「言ってくれないと分からない」という台詞が自分の過去の思い出と重なる瞬間、抜けない棘のように胸の奥に刺さるような錯覚を覚える。

やがて『郭公』に隠された“秘密”を紐解いていく中で、母と息子は互いの感情をぶつけ合い、言い争いは次第に激しさを増していくが、物語の中に散りばめられた“いくつものピース”がカチッ、カチッ・・・と音を立ててはまっていく度に、二人の心を覆っていた堅い鎧がバラバラと音を立てて崩れていくような気がしたのだった。

スリリングで、コミカルで、謎めいていて、そして何より哀しい優しさにあふれた家族の物語。クライマックスのその瞬間まで、二人の役者が織りなす濃密な会話劇から一瞬たりとも目が離せないのはもちろん、役者・有澤樟太郎が今まで見せたことのない鬼気迫る表情や激しく感情を爆発させる台詞の数々。それを丸ごと受け止め、何倍にも増幅させて作品世界へと反映させる女優・山下容莉枝の作る空気感と表現力に圧倒された90分だった。

有澤樟太郎が山下容莉枝と共に魂を込めて届ける“家族再生の物語”『息子の証明』開幕

『息子の証明』は、8月25日(水)から8月29日(日)まで東京・博品館劇場にて上演。なお、千秋楽となる8月29日(日)の2公演ではライブ配信が実施される。

(取材・文・撮影/近藤明子)

『息子の証明』公演情報

上演スケジュール

2021年8月25日(水)~8月29日(日) 博品館劇場
8月29日(日)ライブ配信が決定

スタッフ・キャスト

【出演】
有澤樟太郎 山下容莉枝

【脚色・演出】高羽彩
【脚本】下亜友美

【公式サイト】https://proof-of-son.com/
【公式Twitter】@Toei_stages



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