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対立と抗争が渦巻く街で、少年たちは友達になった/イマシバシノアヤウサ『モジョ ミキボー』稽古場レポート

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普通、50歳にもなれば、欲も情熱も衰える。自分の人生の着地点が見えてきて、なるべく無難にやり過ごそうとする人がほとんどだ。しかし、この二人はどうだろう。俳優・浅野雅博、47歳。俳優・石橋徹郎、49歳。50の大台がいよいよ目前に見えてきた二人は衰えるどころか、むしろさかんに創作活動の火を燃やし続けている。その載火台となるのが、共に文学座に名を連ねる演出家・鵜山仁との演劇ユニット・イマシバシノアヤウサだ。

8月末に『アイランド』のロングラン公演を成功させたばかりのイマシバシノアヤウサが、今度はシアタートラムで『モジョ ミキボー』の再再演を行う。ハイペースな活動の根底にあるのは、尽きることない演劇への情熱。「知命」を前にして、まるで少年のように演劇の道を探求し続けるイマシバシノアヤウサの稽古場を取材した。

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『モジョ ミキボー』。独特の語感を持つタイトルの意味は、主人公であるモジョとミキボーという少年二人の名前を掛け合わせたもの。作者は、北アイルランド出身の劇作家、オーウェン・マカファーティ。物語の舞台は、マカファーティが生まれ育ったのと同じ北アイルランドの首府・ベルファスト。時代は、北アイルランド紛争真っ只中の1970年だ。

海外戯曲で二人芝居となると、どうしても堅苦しいイメージがつきまとうけれど、この作品に込められたものは、どこまでも普遍的だ。少年時代の、楽しくて、眩しい、ひとときの思い出話。唯一知っておいたほうがいいことといえば、当時のベルファストでは一本の橋を境にプロテスタントとカトリックでコミュニティが断絶されていたこと。そして、モジョはプロテスタント、ミキボーはカトリックと、それぞれ異なるコミュニティで暮らしていた。

本来なら交わることのなかった二人が出会い、友達になる。二人はアメリカンニューシネマの傑作『明日に向って撃て!』に感動し、荒くれ者の主人公・ブッチとサンダンスの真似事をする。その姿も、無邪気で、あどけなくて、どこかヒーローごっこして遊んだ昔の自分を見ているような気持ちになる。

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その日稽古が行われたのは、物語の中盤からラストシーンまで。とにかく驚かされるのは、そのめまぐるしい“変身”ぶりだ。浅野はモジョ、石橋はミキボーを演じながら、それ以外にも様々な登場人物を演じ分けていく。その数、二人で合計17役。一旦袖に引っ込んで別の役として登場するわけでもない。一つの場面で複数の人物を演じることも、ざらにある。まるで落語のようだ。身体の向きを変えると、次の瞬間、声色までがらりと変わる。おかげで舞台上にはたった二人しかいないのに、観客の視界には見えない登場人物まで生き生きと現れるようだった。

さらに痛快なのが、そのパワフルな演技だ。街のろくでなし連中と決闘をしては、命からがら逃げのびた二人。そんなモジョとミキボーのドタバタ劇を、浅野と石橋は広い舞台を贅沢に使って、走り回ったり転んだり、しっちゃかめっちゃかに演じていく。いい大人が、汗を飛び散らせて、顔をくしゃくしゃにして動き回る姿は、どうしてこんなにワクワクするんだろう。役者の熱が伝播するように、観る者の温度も上がっていく。時に転んだりしながら逃走劇を演じる浅野と石橋のコミカルな姿に思わずくすりと笑いが漏れる。

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さらに、モジョとミキボーは『明日に向って撃て!』のブッチとサンダンスを演じるようにしてボリビアを目指す。もちろんまだ少年の彼らが北アイルランドから南米になど渡れるはずがない。バスの行き先は、ベルファストから約180マイル南にあるニューカッスル。少年たちにとっては大冒険だ。

ギャングを気取って銃をぶっ放し、埠頭から海へと飛び降りる。言ってしまうと“ごっこ遊び”のようなものだ。でも、そんな“ごっこ遊び”がお腹の底から楽しそうだから、観る者はまるで眩しいものを見上げるような気持ちになる。温かい笑みを浮かべながらも、目頭がじんわり熱い。この締めつける胸の痛みを、ノスタルジーと呼べばいいのだろうか。50手前の“おじさん”二人が演じる少年は、いろんな感情を呼び起こしてくれる。

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きっとそれは、子ども時代の友情が永遠に続くものではないということを、大人になった僕たちは分かっているから。生まれた国も時代も違うこの物語がこんなにもいとしく思えるのは、国境や時代を超えて、誰しもが持つ原風景を鮮やかに揺さぶりかけてくれるからだ。

モジョとミキボーの間には、プロテスタントとカトリックが激しく対立した北アイルランド紛争という歴史が横たわっている。時代の不穏な気配が少年たちを飲み込もうとしているのが分かるから、この屈託のない一時が余計に切なく思えてしまう。そんな悲しいけれど優しい世界を、浅野雅博と石橋徹郎という二人の俳優が、大胆に、繊細に、築き上げている。

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二人の役者で17人を演じると聞くと、誰が誰で分からなくなる、と不安に感じる人もいるかもしれない。でも、この『モジョ ミキボー』はそんな難しいことを考えたり、大上段に構えて観る作品ではない。ふっと日常からはぐれた時に、ぶらりと劇場に足を運んで覗いてみてくれたらいい。きっと心がいちばん柔らかかったあの時代へ連れて行ってくれるはずだ。

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『モジョミキボー』は、12月14日(土) から12月21日(土)までシアタートラムにて上演される。

【公式サイト】https://ameblo.jp/mojo-mickybo/
【公式Twitter】@IMSA_2019

(取材・文・撮影/横川良明)

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