鹿殺し3年ぶりの新作『傷だらけのカバディ』レポート!椎名鯛造らを迎え焼きつける劇団の“今”


2019年11月21日(木)に東京・あうるすぽっとにて、劇団鹿殺し『傷だらけのカバディ』が開幕した。作・丸尾丸一郎、演出・菜月チョビ、音楽・オレノグラフィティという、鹿殺し鉄壁の布陣で贈る約3年ぶりの新作公演には、小澤亮太、伊藤今人(梅棒)、椎名鯛造という強力な俳優が加わった。その公演の模様をレポートする。

これぞ、劇団鹿殺し。そして“今”の彼らだから作れる物語だ。泥くさくて、熱くて、人間らしさ全開の、燃えるような演劇魂がそこにあった。酸いも甘いも経験し、大人になるほろ苦さも添えて。

(以下、物語のあらすじを紹介しています)

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物語は、2030年のリニアモーターカーに素通りされるとある田舎・鹿神村から始まる。引っ越し作業をするNPO法人「ラストドリーム」を運営する犬島紀子(菜月)は引っ越し作業に勤しんでいた。その途中、手伝ってくれていた白石球児(長瀬絹也)ととある新聞記事を見つける。そこには、インド人から男が金品を強奪し指名手配されているという事件が書かれていた。指名手配されている男の名前は、鯉田大作(椎名)。それは、紀子のよく知る名前だった。

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“鯉ちゃん”は紀子の幼馴染であり、2020年の東京オリンピック男子カバディ日本代表チーム「鹿神SEVEN」のリーダーだった。驚きを隠せない彼女に、その“鯉ちゃん”から突然メールが届く。そこには「東京に来い、“鹿神SEVEN”を揃えて」と書かれていた。

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11年前の夏、カバディがオリンピックの正式種目になると聞き、冴えない人生に奇跡を起こすため一念発起した彼ら。鯉ちゃんをキャプテンに、忍者の末裔・猿橋佐吉(橘輝)、心は乙女なマッチョ・大村獏(伊藤)、東京大学に通う天才ながら御朱印集めのために鹿神村を訪れていた獅子田明(オレノグラフィティ)、男前すぎる農家・林原龍二(小澤)、インド人ハーフの留学生・山本カーン清(近藤茶)、村にある馬鹿寺の跡取り息子の馬鹿悟(丸尾)が集い、“鹿神SEVEN”を結成。見事日本代表となり、話題をさらった。

しかし、その経験は彼らを深く傷つけバラバラにしてしまった。当時のキャプテンが送ってきた一通の意味深なメールをきっかけに果たされた再会。同時に、くすぶり続けていた苦い思いと深い傷の痛みが背中を押し、鹿神SEVENが再び走り出す――。

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「カバディ」はインドの国技であり、数千年の歴史を持つ伝統的なスポーツだ。競技の名前だけは、聞いたことがあるという人も多いのではないだろうか(劇中でもだいたいのルールを説明してくれるので知らなくても大丈夫だし、知っていれば結構しっかり試合の描写もより楽しめる)。なお、本作は日本カバディ協会の公認を受けており、前日本代表キャプテンの下川正將の監修を受けている。

日本のカバディは、国際大会でメダルを獲得する活躍を見せているが競技人口は少なく、20代半ばで大半が代表選手への道を諦めてしまうという。劇中でも、揉めたりぶつかったりして一筋縄ではいかないながら「カバディ、カバディ・・・」と連呼し続け、やがてチームになっていく。それはなんだか“劇団”そのものを見ているようでもあった。

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鹿殺しの公演では、観るたびに仲間が増えている。小澤はOFFICE SHIKAのプロデュース公演も含めると、鹿殺し作品に出るのはこれで3回目。鹿殺しで観る小澤は、他ではなかなか見られない角度から輝きを放っている。伊藤はOFFICE SHIKAプロデュースの『パレード旅団』から本公演に登場。劇団員の浅野康之と共に振付も手掛けており、彼の参加は鹿殺しのエンタメ力をぐっと外側へ押し広げたと思う。

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そして、何と言っても初参加の椎名。劇団の独特な空気の中、身体能力の高さを活かして縦横無尽に走り回り、鮮やかに歌い踊る。鹿殺しとの一期一会を楽しんでいるように見えた。

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丸尾と菜月が描く人間ドラマを、オレノグラフィティの“ボリウッド風”音楽が際立たせる。それは、彼の持つ引き出しをもっともっと開けたくなる味わい。また、舞台美術が見事で、オリンピックの会場にも農園にも寺にもなる創意工夫に満ちたセットの変化が、鹿殺し特有の照明と相まって網膜に焼きつく。

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そしてもう一つ、大きく変わって見えたのが劇団員一人一人の存在感。鷺沼恵美子、峰ゆとり、有田あん、椙山さと美、メガマスミらが、ぐっと存在感を増してきたように感じた。劇団外で名前を見ることも増えてきた彼らの中に、何か変化があったのだろうか。もしかしたら、それは鹿殺しが「帰る場所」として強さを増した証なのかもしれない。そう思うと、なんだか一層愛しい。

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「カバディ」は、得点を得るために自陣に“帰る”スポーツだ。「帰る場所」は人を強くする。そして「帰る場所」は、楽しいことも辛いことも積み重ねた先にある。歯を食いしばったこともあるだろう。涙を呑んだこともあるだろう。彼らが3年ぶりに生み出した新作には、鹿殺しが「帰る場所」として見つめた劇団の“今”が見えた気がした。

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劇団鹿殺し『傷だらけのカバディ』は、以下の日程で上演。上演時間は約2時間10分を予定。

【東京公演】2019年11月21日(木)~12月1日(日) あうるすぽっと
【大坂公演】2019年12月5日(火)~12月8日(日) ABCホール

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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