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ピスタチオは“芸人”ではなく、“俳優”として板の上に立てるか?舞台『No.2』稽古場レポート

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舞台『No.2』が8月22日(木)より東京・神保町花月にて開幕する。本作は気鋭の演劇人と神保町花月がタッグを組むコラボレーションシリーズの1本。主演に“白目漫才”でおなじみのピスタチオを迎え、20歳の国の竜史がほろ苦い青春群像劇を描き出す。

“芸人×演劇”の真価はどれほどのものなのか。その一端を知るべく、開幕を直前に控えた8月中旬、佳境を迎えた稽古場を取材した。

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お笑い芸人が、演劇をやる。そのこと自体は、特に驚きも違和感もなかった。今や数々の芸人がテレビドラマを中心に貴重なバイプレイヤーとして活躍している。器用な芸人なら、お芝居というアウェーの場にも馴染めるだろうし、何なら持ち前のセンスで笑いを引き出すことも十分可能だろうと、そう考えたからだ。

けれど、『No.2』の稽古場に足を踏み入れて、分かった。作・演出の竜史は決してピスタチオのふたりに芸人の手癖でお芝居をさせようなどと思っていないことを。ましてや芸人だからという逃げ口上でお茶を濁そうなんて一切思っていない。彼は本気でピスタチオのふたりを導こうとしていた、人の心を動かす本物の俳優に。

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『No.2』は、ある大学の演劇サークルで出会った同期ふたりの10年間を描いた青春ドラマだ。いわゆる“陽キャ”のレンタ(伊地知大樹)と、“陰キャ”のユウジ(小澤慎一朗)。性格は正反対。最初は気の合うところもなかった二人だが、少しずつお互いの中に自分にはないものを見出していく。

そんな18歳の季節から、大学を出て、社会に揉まれながら夢と現実のはざまで揺れる心模様を、竜史らしいナチュラルな口語で、時にセンチメンタルに、時にエモーショナルに紡ぎ上げていく。

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この日稽古が行われたのは、悩みを抱えるユウジのもとを、同期のオリエ(湯口光穂)が訪ねる場面だ。人生のつまずきにぶちあたっているユウジと、ある嬉しい報告をしにきたオリエ。明暗がくっきり分かれる中、ユウジが見せる同期に対する複雑な心理が、このシーンの大きな見どころだ。

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まず簡単にシーンを通してみて、竜史が「このシーンの最初と最後で変わっていることあります?」と小澤に尋ねる。小澤が「ないです」と答えると、すかさず竜史が「それがおかしいんです」と打ち返す。

湯口の演じるオリエがユウジの心情を気遣おうとしているのに対し、小澤の演じるユウジはベクトルがまったくオリエに向いていない。演技が自分一人の中で閉じこもっている印象だ。

葛藤を抱える人間を演じる時、分かりやすく塞ぎ込む芝居をするだけでは、機微は伝わらない。心は塞ぎ込んでいるけれど、何とか態度は平静を装おうする。そうやってぎこちなくても明るく振る舞おうとするから、観ている人に傷が伝わる。小澤の芝居は、塞ぎ込むことに一辺倒で、相手に心を開こうとしていない。竜史は丁寧にそう説明した。

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再び同じシーンを返す。今度は途中で竜史が止めた。指摘したのは、小澤の間のとり方についてだった。小澤はオリエから言葉を投げかけられるたび、じっくり間をとって台詞を返していた。しかし、竜史はもっと間をつめたいとオーダーする。そんなふうに仲間に対していちいちヘコんでいるところを見せていたら、ともするとユウジが鬱陶しいだけの男に見えてしまう。

間をとることは、感情の整理をすることだ。そうやって感情を整理してしまうと、ストレスが溜まらない。本当は辛いのに無理して笑うから余計に辛くなる。そのストレスをちゃんと溜め込み自分の中で大きくすることで、初めてその後の「もっと喜びたいんだけど・・・グッチャグチャで」という同期への祝福と嫉妬の入り混じった台詞が言えるのだ、と竜史は解説する。

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竜史は、決して嘘を見逃さない。俳優の中に作為や慣れを見つけたら、すかさずそれを取り除く。小澤が流れで「グッチャグチャで」と口にすると、「またカタチになっちゃってる」と注意する。そう言われて、「ああ」と小澤も天を仰ぐ。

言い慣れた台詞ほど、どうしてもつい型にはまった言い方になってしまう。ちゃんとその瞬間に、どれだけ「グッチャグチャで」と思わず口からこぼれるほど心がかき乱された状態になれるか。それは、ある程度演技経験のある俳優でも難しい。しかし、竜史は妥協することなく、小澤にその境地を求める。

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また同じシーンを返す。今度は小澤の台詞がかすかに湿っぽく揺れた。すると、間髪入れず「泣きにいかない」と竜史が釘を刺す。「泣きにいくのは内向的な行為だから。めっちゃ泣くときって、泣きたくないときが多いんですよ。泣こうとして泣かない」と言葉に力が入る。

竜史から指摘を受けるたび、小澤は口に手を当てて考え込む。言われていることはよく分かる。だけど、上手くそれを表現できない。あるいは、オーダー通りにやっているつもりなのに、その域に達していない。そんなジレンマに苦しんでいるようだった。短い休憩のあいだも、ずっと何かを考えている表情をしている。小澤は今、初めてぶつかった芝居の難しさにもがき苦しんでいた。

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次に、このシーンを含むいくつかの場面を通すかたちで稽古が行われた。レンタとユウジ、そして二人を取り囲む大学の同期や後輩たちが次々と登場し、20代半ばという人生の分岐点に立った者たちの繊細な心情が鮮やかに描かれていく。

伊地知の演じるレンタは、元歌舞伎町No.1ホストの伊地知のバックボーンに合ったパリピ色の強いキャラクターだ。その要領の良さやカッコつけたがる性格が、レンタにとってはアダとなっているところもあるのだけれど、そんなレンタを伊地知は持ち前のノリの良さを活かして演じている。

竜史が伊地知にオーダーをしたのは、レンタが自分の本音をぶちまけるシーンだ。ここを竜史は映画『GO』の窪塚洋介の演技を例に挙げながら説明する。すると、伊地知もすぐに納得して実演してみせる。

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共にほぼ演技未経験の伊地知と小澤だが、現場での居方はおもしろいくらいに対照的だ。ちょっとした空き時間に伊地知が共演者と楽しげにコミュニケーションをとるのに対し、小澤は自分の考えを整理するようにじっくり台本を読み込んでいる。竜史の演出も小澤には何度も言葉を変えながら詳細に説明を繰り返すが、伊地知に対しては感覚的だ。

もちろん伊地知と小澤の性格の差もあるだろうし、演じた場面の違いもあるだろうけど、それも含めてレンタとユウジという対極の人間像が創作過程から浮かび上がってくるようだった。

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そんな中、小澤と竜史がある場面について熱心に議論をしていた。それは、ユウジと後輩のイツコ(鈴木ゆうは)の二人のシーン。稽古中、イツコがユウジと話しながら気持ちが昂ぶって、つい涙目になった。それに対し、小澤の演技に変化がないことに竜史は疑問を呈す。

「イツコが励まそうとしてくれるのはありがたいし、それもわかった上で申し訳ない気持ちもあるんですけど」と自分なりの演技プランを説明する小澤。だが、竜史は「それでも足りない」と突き放す。

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小澤の演技はイツコに対して「ありがたい気持ち」と「申し訳ない気持ち」。そのどちらか一方の色でベタ塗りにされてしまっているのだと、竜史は言う。竜史が求めているのは、いろんな感情が混在した状態で立つことだ。人は同時に複数のことを考え、常に複数の感情が入り混じっている。にもかかわらず、小澤の芝居は単色になりがちだ。申し訳ない気持ちが勝ればそれ一色になって、他の感情が抜け落ちてしまう。

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様々な感情がせめぎ合った状態で芝居を成立させるには、経験と訓練に裏打ちされた専門技術が不可欠だ。そう簡単に習得できるものではない。けれど、竜史は小澤にそれを要求する。なぜなら、この『No.2』に求められているのは、芸人・ピスタチオではなく、俳優・伊地知大樹であり、俳優・小澤慎一朗だからだ。

そして、そんなふうに演じる難しさ奥深さに直面する時間こそが、演劇の魅力に取り憑かれたレンタとユウジの心を理解する最適な手がかりのようにも見えた。

本番まで残された期間はあとわずか。初日の幕が上がるまでに、二人は“俳優”になれるのか。ジャッジの時は、刻一刻と近づいている。

舞台『No.2』は8月22日(木)から9月1日(日)まで東京・神保町花月にて上演される。

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◆作品情報
舞台『No.2』
2019年8月22日(木)~9月1日(日)
【作・演出】竜史(20歳の国)
【出演】伊地知大樹(ピスタチオ)、小澤慎一朗(ピスタチオ)、山脇唯、吉川莉早、木山廉彬、鈴木ゆうは、松本卓也、古木将也(20歳の国)、湯口光穂(20歳の国)、西村ヒロチョ
【チケット予約】https://www.quartet-online.net/ticket/no2

【公式サイト】http://www.yoshimoto.co.jp/jimbocho/kouen_schedule/pc/2019/08/no2.php
【公式Twitter】@pista_ryushi

(取材・文・撮影/横川良明)

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