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御笠ノ忠次がフラットに向き合う“悲劇”として塗り固めない感覚『スタンレーの魔女』稽古場レポート

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舞台『スタンレーの魔女』が、まもなく開幕する。「銀河鉄道999」などの名作を生み出し続けてきた松本零士が「戦場まんがシリーズ」として発表した名作を、御笠ノ忠次の手で舞台化するのは、これが3度目。今の御笠ノが作る、今やろうと思った演劇。稽古場で、その創作の過程を追った。

『スタンレーの魔女』は、2006年9月に御笠ノが所属していた劇団「スペースノイド」にて初舞台化された。その後、2008年12月に御笠ノと*pnish*の土屋佑壱を中心にしたユニット「サバダミカンダ」の旗揚げ公演としても上演。今回、約10年の時を経て再び幕を開ける。

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出演者には、唐橋充、宮下雄也、松本寛也、永島敬三(柿喰う客)、松井勇歩(劇団Patch)、池田竜渦爾、津村知与支(モダンスイマーズ)と、御笠ノがこれまでの活動を通して、一緒に作品作りをしたいと望んだ面々が集結。さらに、プロ・アマを問わない公募オーディションにより、主演として石井凌を抜擢。さらに、宮田龍平もオーディションから参加が決まった。

本作の中心となるのは、海軍航空隊の若者たち。「戦争モノ」だが、そこにいるのは時代を生きた、等身大の青年たちだ。近年、「戦争」を描いた作品をいくつか観て「違和感を持った」という御笠ノ。

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20年ほど前、老人ホームを訪問しながら戦争を経験した方を取材し、聞書を行っていたという御笠ノは、生の声に触れ「結果論として悲劇だが、そこに生きていた人たちが最初から悲劇の中にいたわけではない」という“リアル”を感じたそうだ。「特攻隊の方々を撮った写真なども見せていただいたんですが、演芸大会で裸になっていたり、お酒を酌み交わしていたり、楽しそうな瞬間も残されていました。もちろん、戦争に無理やり駆り出されて亡くなった方も多くいたことは事実です。でも、そうではなくそこに“生きていた”人たちもいた。普通に楽しく生きていた人たちが、ある日ポンッと消えてしまうのが“戦争”で」。

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しかし初演時、舞台を観た戦争経験者からは「共感」を得たが、戦争を体験していない世代からは「不謹慎」という意見が聞かれたという。「僕は、原作の『スタンレーの魔女』を読んで、彼らの日常があったからこそのロスト感があったんです。この感覚を、悲劇として塗り固めるのではなく、今のタイミングでこの世の中に置いておきたかった」と、3度目の上演に込めた思いを聞かせてくれた。

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『スタンレーの魔女』では、太平洋戦争中、ニューブリテン島のラバウルを飛び立った海軍航空隊が、標高5,000m級の山々をたたえたニューギニア島のスタンレー山脈を越え、連合国軍基地のあるポートモレスビーを目指す。稽古場で御笠ノの目線を投げかける先では、集まった俳優たちが“生きた”言葉と感情のやり取りを繰り返していた。

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「演劇を作る上での究極の理想は、遊んでいるうちに出来上がってしまうこと」という御笠ノ。俳優たちは、演じる人物をどう存在させるか、様々な角度からアプローチしていく。宮下が繰り出すアドリブに、それを凌駕する勢いで相対する永島。それをニヤニヤと眺めては、触発されたように唐橋や津村も仕掛けにいく。

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妙に静かな松井は「ゲラなんで(笑いのツボが浅いので)我慢しないと・・・(笑)」と、おもしろい稽古場に違う意味でも格闘している様子。佇まいを崩さず場の空気にすっと溶け込む松本に、若さと熱さをぶつけ合う宮田と池田。ちょっとバカバカしいやりとりも、彼らの日常の延長線上だ。

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その日常のさらに先には、もちろん「明日があるのか」といった、危うい現実もある。「勇気のあるヤツから順に死んでいく」という環境。きっと、メッセージ性を込めようと思えばそういう物語にもなるのだろう。しかし、ギリギリのところで成立する日常が、この物語の中にある“日常”なのである。稽古の中で唐橋がポツリと呟いていた。「・・・今の感じを、板の上でも出せたらなあ」。彼らは、稽古の中でその日常を繰り返す。

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これが初主演となる石井が、この日見せたラストシーンを、御笠ノが「今、すごく良かった」と褒めた。音とぴたりと合った石井の芝居に、観ているこちらも心をかき乱されたのだが、当の本人は「音が全然聞こえていませんでした・・・」と苦笑いで、先輩たちに「おーい(笑)!」とツッコまれていた。

実は、この日の取材が行われる前まで、煮詰まった様子を見せていた石井。手練の先輩俳優の中で主演というプレッシャーを一人抱えていたようだが、稽古を重ねる中で座組への信頼が生まれ、殻を破ることができたようだ。きっと、本番に向けてますます秘めたものを開放していくだろう。

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稽古の間、演劇のこと、演劇以外のことも、よく話していたのが印象的だった。「僕らはどれぐらい飛んでいるんですか?」その質問に御笠ノは、物語の外側にある物語を語りながら、俳優たちのイメージ、位置感覚を合わせていく。「有る種、演劇って非効率なことなんですよ。非効率な時間、だけど意味のある時間。この作品も、もっと効率よく作ろうと思えばできると思うんです。効率が必要な現場ももちろんあるんですが、僕はこういう作品が作りたかった」と御笠ノ。「戦争モノ、苦手だと思ったら観に来てください」とその姿勢はどこまでもフラットだった。

舞台『スタンレーの魔女』は、7月28日(日)から8月8日(木)まで東京・DDD青山クロスシアターにて上演される。なお、以下の日程でアフタートークの開催も決定した。

【アフタートーク登壇者】
7月28日(日)17:00公演 御笠ノ忠次×末満健一
7月29日(月)19:00公演 谷口賢志×宮下雄也×松本寛也×石井凌
7月30日(火)19:00公演 松井勇歩×納谷健
7月31日(水)19:00公演 永島敬三×中屋敷法仁
8月2日(金)19:00公演 輝馬×唐橋充×松本寛也×池田竜渦爾×松井勇歩
8月5日(月)14:00公演 唐橋充×松本寛也×松井勇歩×津村知与支
8月5日(月)19:00公演 宮下雄也×池田竜渦爾×永島敬三×宮田龍平
8月6日(火)19:00公演 君沢ユウキ×石井凌×宮下雄也×池田竜渦爾×宮田龍平
8月7日(水)14:00公演 唐橋充×宮下雄也×松本寛也×藤原祐規
8月7日(水)19:00公演 石井凌×郷本直也×KIMERU

【公式HP】https://www.marv.jp/special/stanley-stage/
【公式Twitter】@stanley_stage
【チケット】7,800円(全席指定/税込)
ローソンチケット:https://l-tike.com/stanley-s/

(C)松本零士/小学館 (C)『スタンレーの魔女』製作委員会

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

スタンレーの魔女

松本零士×御笠ノ忠次で哀切の戦記ロマンが三度目の舞台化

  • 公演:
  • キャスト:石井凌、唐橋充、宮下雄也、池田竜渦爾、松本寛也、永島敬三、松井勇歩、宮田龍平、津村知与支
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