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Studio Life公演『なのはな』舞台写真&オフィシャルレポート到着

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スタジオライフ公演『なのはな』が2019年2月27日(水)に東京・東京芸術劇場シアターウエストにて初日を迎えた。このほど舞台写真とオフィシャルレポートが到着したのでお届けする。

上演時間わずか1時間。演劇作品としては、非常にコンパクト。だけど、その時間はとても優しくて、哀しくて、でもささやかな希望に胸が震える、特別な1時間だ。

これまで『トーマの心臓』など数々の萩尾望都作品を舞台化してきた劇団スタジオライフが、今新たな佳作を生んだ。原作は、萩尾望都が「月刊flowers」2011年8月号(小学館)にて発表した同名コミック。東日本大震災と福 島第一原子力発電所事故によって大好きなおばあちゃんと故郷を奪われたフクシマに住む小学校6年生の女の子・ 阿部ナホが、未来に向かって踏み出す一歩を描いた珠玉の短編作品だ。

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わずか24ページの短い原作に、劇団スタジオライフは、丁寧に、丁寧に向き合った。どこか郷愁を誘うピアノの 調べと共に幕が上がり、原作同様、チェルノブイリの原発事故についてナホが授業で学ぶところから物語が始まる。

ナホの祖母は、津波にさらわれ、依然行方不明のまま。そしてナホは祖母がいなくなったことを受け入れられず、周囲に「ばーちゃん、いつ帰ってくるの?」と尋ねては困らせている。「もうすぐだ。心配するな」と笑顔で答える祖父と「ばーちゃんのことは言うな」と咎める兄・学。家族の間でも、震災の傷跡は生々しく残っている。だけど、いつまでも俯いては生きていけないと、新しい環境の中で必死に前を向いている。ナホだけがどこか取り残されたようだ。

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そんなナホは、夢の中で深い森に迷い込む。そこで出会ったのは、三つ編みをした西洋人の女の子。彼女に導かれるまま進むナホの前に、なつかしい人が現れる。おばあちゃんだ。あの日と何も変わらない優しいおばあちゃんの微笑み。この夢は、何を意味するのか。三つ編みの少女は何者なのか。ナホは、止まっていた時間をもう一度進めることができるのか。いろんな謎を孕みつつ、物語が進んでいく。

萩尾望都が3.11からわずか半年足らずの間に描き上げた鎮魂と浄化の物語を、倉田淳は誠実に舞台へと立ち上げた。1時間という短尺ではあるが、あっという間という印象はない。むしろ穏やかに流れる時間を何度も反芻しながら、作品の持つメッセージを自分の心にしみこませていくような、菜の花を揺らすそよ風のようなひとときだ。

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その中で光るのが、客演の明石隼汰の存在だ。明石が演じるのは、原作にも登場するプロのミュージシャン・石田音寿。この“オン兄ちゃん”というキャラクターそのものが、実は明石をモデルに描かれている。さながら自らの役を本人がそのまま演じる恰好だ。

そして、この明石の歌が舞台の柱となっている。漫画では聴けない、舞台だから、生だからこそ、伝わる歌の力。それが、この『なのはな』の持つ救済と再生の力をより揺るぎなく、より優しいものにしていた。

オン兄ちゃんの歌を聴き、祖父は静かに泣き崩れる。そして、そんな祖父の肩を、小さなナホの体が抱きしめる。『なのはな』の美しさは、この瞬間につまっていると思う。

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本当の哀しみは、人には見えない。涙を流していないからと言って、その人が傷ついていないとは限らない。むしろ優しさや明るさの先に、本当の哀しみはある。愛する妻を亡くし、祖父の心は喪失の影に覆われていた。けれども、年をとればとるほど哀しみを哀しみのまま表出することが難しくなる。だからこそ、あのとき涙を流せたことが、祖父にとっては救済だった。

そして、そんな哀しみを感じ取って、人に優しくできたことで、ナホはひとつ大人になる。強くなることは、大人になることは、どういうことか。それは決して自分の傷に鈍くなることではない。他人の傷に敏感になり、傷を負った人に優しくできること。つまずき倒れた人を支えてあげられること。それが、強さだ。ナホはひとつ強さを知ることで、おばあちゃんの死を少しずつ受け入れられるようになったのではないか、と思った。

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『なのはな』を見て心がじんわり熱を帯びるのは、そんな人と人の優しさが溢れているから。物語は、萩尾望都が記した“世界が終わらないように、世界が次の世代に続くように”という言葉をベースに、明石が書き下ろし、倉田が朗読詩をつけたオリジナル曲『なのはな』と共に締め括られる。

その詩を歌う役者たちの晴れやかな表情に、力強い声に、希望を見た。未来を感じた。3.11から8年。それでも僕たちは生きていく。この命を次の世代へとつなげていくために。菜の花は、わずか1本ではそれほど目にはとまらない小さな花だ。けれど、その菜の花が集まり寄り添い一面に広がれば、それは小さな幸せの海となる。

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人間も同じだ。ひとりでは、哀しみに負けてしまうこともある。だけど、誰かと手を取り抱き合うことで、どんな悲劇も乗り越える力が生まれる。そんなイメージが、ラストシーンと共に心に浮かんだ。

『なのはな』の東京公演は3月10日(日)まで。その翌日は、9度目の3.11だ。そしてそれから1ヶ月の時間を置き、4月12日(金)から大阪公演の幕が開く。このタイミングで上演したことに、スタジオライフの強い意志を感じた。あの日のことを決して忘れないために、まだ3.11は続いているのだということを知るために、多くの人に観てほしい希望のドラマだ。

『なのはな』は2019年2月27日(水)から3月10日(日)まで東京・東京芸術劇場シアターウエストにて、4月12日(金)・4月13日(土)に大阪・ABCホールにて上演。

【公式HP】http://www.studio-life.com/stage/nanohana2019/

【あらすじ】
阿部ナホは福島で暮らしている小学校6年生の女の子。震災の津波でばーちゃんは行方不明のまま。ナホの家は原発の近 くだったので避難先へ移り住み、祖父、両親、兄の家族5人で生活している。ある日、ナホは夢の中でばーちゃんと再会 する。ばーちゃんのもとへ案内してくれたのは人形を手にした見知らぬ西洋人の女の子だった。あなたは誰・・・?夢 の中で二度目に会った時、女の子は、ばーちゃんの使っていた花の種まき機を持っていた・・・。

(C)萩尾望都全角/小学館 FCS 『萩尾望都作品集 なのはな』より

(文/横川良明、写真/オフィシャル提供)

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