エンタステージ

演劇の楽しさを提案する総合情報サイト

イギリス2大名優の火花散る演技がスクリーンに帰ってきた!NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート

009846.jpg

英国ナショナル・シアターが厳選した、世界で観られるべき傑作舞台をこだわりのカメラワークで収録し各国の映画館で上映するナショナル・シアター・ライブ(NTLive)。その中でもイアン・マッケランとパトリック・スチュワートというイギリスの2大名優が競演したことでも話題となり、昨年、日本で劇場公開されると大きな反響を呼び起こしたNTLive「誰もいない国」が「NTLiveアンコール夏祭り」のラインナップとして再びスクリーンに帰ってきた。

物語はロンドン北西部にある屋敷の大きな一室から始まる。ある夏の夜、屋敷の主人ハーストとスプーナーが酒を飲んでいる。詩人のスプーナーは、酒場で同席した作家ハーストについて家まできたようだ。酒が進むにつれ、べらべらと自らをアピールするスプーナーに対し、寡黙なハースト。スプーナーは、共通の話題を見出そうとハーストに話をふるが、もはやそれが現実なのか虚構の話なのかわからない。そこへ、ハーストの同居人の男たちが現れて・・・。

NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート_2

サブテクストを重視する詩的な文体で広く知られ、明快さやリアリズムとは距離を置く作品を世に生み出してきたノーベル文学賞受賞作家ハロルド・ピンターの代表作とも言える本作。2018年11月には新国立劇場の舞台でも上演が決まっており、柄本明、石倉三郎という日本の名優たちが出演する。

その独特な作風で世界中の舞台ファンを虜にしてきたピンターについて数多くの作品を翻訳し、日本では「ピンター研究の第一人者」であり、新国立劇場上演版の翻訳も担当する喜志哲雄。彼をゲストに、演劇ライター・大堀久美子を進行役に迎えて、トークショーイベント「NTLive×新国立劇場『誰もいない国』~翻訳家喜志哲雄さんトークショー<ピンターと『誰もいない国』を語る>~」が7月14日(土)東京・シネ・リーブル池袋で開催された。

NTLive『誰もいない国』舞台写真_1
(C)Johan Persson

トークショーではまず、“分かりにくい”というピンター作品の登場人物の大前提として、大堀は「登場人物の説明書きや、自分が名乗った身分・職業・立ち位置がそのとおりではあるとは限らない」と紹介。その点について、喜志は「誰かが行動をするのはどういう動機があるのかという現実の捉え方や、語り手の心理や感情なりを正確に伝える言葉の使い方について、ピンターが革命を起こした」と解説を行った。

その例として、喜志は「“What?”という言葉は相手の発言が理解できなかったり、聞き取れなかったたりという意味で普通は解釈されると思います。ところが、ピンターの劇ではある人物が自分の立場を不利にしないためや、自分を守るための時間稼ぎに用いるんです」と説明した。

NTLive『誰もいない国』舞台写真_2
(C)Johan Persson

また、本作の見どころについて、喜志は「マッケランとスチュワートという現代イギリスの名優による応酬が実におもしろい。必ずしも友好的でなく、決して素直な意見交換ではないんです」と挙げると、続けて「言葉を通してスプーナーとハーストの関係が微妙に変わる点も見どころです。二幕でスチュアートが演じるハーストが一幕とはだいぶ様子が変わるんですが、その変化がおもしろい。しかも、マッケランが表情・仕草・身振りというテキストを読んだだけでは分からないといった、そういう色々なものが二人の演技に出てきます。そこを、ぜひご覧ください」と呼びかけた。

さらに、本作の裏側に潜むテイストについて、喜志は「この芝居全体に男性の同性愛の味わいがあるんです。だけど、登場人物が実際にゲイかどうかハッキリとは書かれていなんですよ。でも、ロンドンの「ハムステッド・ヒース」というゲイの人が行きずりの相手を捜す場所や、歴史あるパブで75年当時は有名なゲイ・バーという『ジャック・ストーロズ・キャッスル』などが台詞に出てきて、観客がクスクス笑ったりするんです」と明かした。

NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート_4

11月の日本公演に向けての翻訳の話になると、喜志は「実のところ、最初の翻訳ではジョン・ギールグッドとラルフ・リチャードソンという1970年代当時の大名優による公演が耳に残っていて、それを再現したんです。ところが、これはちょっと訳しすぎであったと今は反省しております。現在、上演台本を演出の寺十吾さんと作っていますが、少し変わったものになると思います」とアピールした。

そして、演じる柄本と石倉に対して、喜志は「私は出発点が新劇なので決して悪い意味ではないですが、新劇の俳優さんは古いリアリズムを尊重し、この台詞を語る動機は何なのかということをよく考えますよね。でも、お二人は新劇の俳優さんじゃないので、どうされるのか非常に楽しみです」と期待を寄せた。

NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート_3

決して明快な作風ではないにもかかわらず、観客そして俳優から絶大な支持を受けるピンター。自ら翻訳を手がける喜志だからこそ聞ける濃密なトークの数々は、演劇・映画・ハイクオリティなエンターテインメントを提供するNTLiveならではの内容だった。

「NTLiveアンコール夏祭り」および、新国立劇場『誰もいない国』に関する情報は以下のとおり。

◆シネ・リーブル池袋 NTLiveアンコール夏祭り上映作と上映日程

『誰もいない国』:2018年7月13日(金)~2018年7月19日(木)
『エンジェルス・イン・アメリカ』第一部(至福千年紀が近づく)及び第二部(ペレストロイカ):2018年7月20日(金)~2018年7月26日(木)
『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』:2018年7月27日(金)~2018年8月2日(木)
『ハムレット』:2018年7月27日(金)、2018年7月28日(土)*2回限定上映
『お気に召すまま』:2018年7月29日(日)、2018年7月30日(月)*2回限定上映
『ヘッダ・ガーブレル』:2018年7月31日(火)*1回限定上映
『青く深い海』:2018年8月1日(水)、2018年8月2日(木)*2回限定上映
『スカイライト』:2018年8月3日(金)~2018年8月9日(木)
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』:2018年8月3日(金)~8月9日(木)
『一人の男と二人の主人』:2018年8月10日(金)~8月16日(木)
『オーディエンス』:2018年8月17日(金)*1回限定上映

◆新国立劇場『誰もいない国』公演情報
作:ハロルド・ピンター
翻訳:喜志哲雄
演出:寺十吾
出演:柄本明 石倉三郎 有薗芳記 平埜生成
公演日程:2018年11月8日(木)~25日(日)
会場:新国立劇場小劇場

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

(文/エンタステージ編集部)

この記事の画像一覧(全6枚)

  • 009846.jpg
  • NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート_2
  • NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート_4
  • NTLive×新国立劇場『誰もいない国』翻訳家・喜志哲雄トークショーレポート_3
  • NTLive『誰もいない国』舞台写真_1
  • NTLive『誰もいない国』舞台写真_2

関連タグ

関連記事

トップへ戻る