現実を忘れ極上の夢の世界へ・・・新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』レポート


舞台は、現実を忘れる夢の世界だ。美しく楽しい夢もあれば、悲しい夢、苦しい夢、衝撃的な夢もある。もちろん新国立劇場バレエ団の「くるみ割り人形」は、美しく楽しい夢、それも見終わった後でも顔が勝手に笑ってしまうような、足取りが自然に軽くなってしまうような・・・そんな極上の夢だ。

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日本でも欧米でも、多くのバレエ団は『くるみ割り人形』をクリスマスシーズンに上演する。それは、ストーリーがクリスマスのお話であることと、たいていの演出が子どもも大人も楽しめるファミリー向けになされているせいだろう。今回の新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』は上演日こそ2017年10月28日(土)から11月5日(日)までと早かったが、子どもが見ても楽しいであろう華やかさとユーモアがあり、大人もうっとりさせる、美しい踊りと細部まで心の尽くされた演出があった。

雪の降るクリスマスの夜。人々は運河でスケートを楽しんでいる。クララたち3人兄妹の家ではパーティが催され、着飾った客たちが訪れる。家族の友人で手品の上手なドロッセルマイヤー氏は、クララにくるみ割り人形をくれた。

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その夜、12歳のクララは夢の中で18歳になり、くるみ割り人形の王子と力を合わせて、襲ってきた巨大ネズミたちの軍団と勇敢に戦う。戦いが終わるとクララと王子はドロッセルマイヤーに導かれて美しい国々を訪れる。

前半の現実世界では、クララ役は子どものダンサーが踊る。11月3日(金・祝)のマチネでは秦悠里愛だったが、彼女をはじめとした子役たちは技術的に優れているだけでなく、豊かな音楽性と素晴らしい表現力を持っていた。子役のクララがドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子役のワディム・ムンタギロフと踊るシーンがあるのだが、これはある意味大人になったクララが王子と踊るより、もっと女の子(および、元女の子)の夢と言えるのではないだろうか。

同じ公演で、夢の中の18歳のクララ役を踊ったのはプリンシパルの米沢唯。さわやかな可憐さの中にも活発さ、芯の強さを感じさせて、ネズミたちに襲われてもただ怯えながら王子の戦いを見守るだけではなく、自らも戦う勇敢なクララの姿がよく似合っていた。

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英国ロイヤル・バレエのプリンシパルで、シーズン・ゲスト・プリンシパルの王子役ムンタギロフは、頭の先からつま先まで王子そのもの。空中で一瞬止まるようなジャンプにも、パートナーを軽々と持ち上げるリフトにも、夢のような浮揚感があった。

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ソリストたちも群舞も、全体に踊りの質が高く、特にパーティでの踊りやロシアの踊り、花のワルツも見事。またネズミたちはユーモアたっぷりの振付でとても楽しく、満足感たっぷりの夢の時間であった。

夢から醒めたクララは12歳の少女に戻っていたけれど、楽しい夢を見た後は元気な一日を迎えられる気がする。また楽しい夢を見に、この劇場に戻って来たいと思う。

新国立劇場バレエ団の今後の公演日程は、下記のとおり。いずれも、東京・新国立劇場 オペラパレスにて。

『シンデレラ』 12月16日(土)~12月24日(日)
『ニューイヤー・バレエ』 2018年1月6日(土)・1月7日(日)
『ホフマン物語』2018年2月9日(金)~2月11日(日・祝)
『白鳥の湖』2018年4月30日(月・祝)~5月6日(日)
『眠れる森の美女』2018年6月9日(土)~6月17日(日)

(取材・文/月島由美、撮影/鹿摩隆司)

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