NEWS加藤シゲアキ主演舞台『グリーンマイル』開幕「加藤も把瑠都もハマリ役」ゲネプロレポート


2017年9月30日(土)、NEWS加藤シゲアキ主演の『グリーンマイル』が東京・東京クローブ座で開幕した。原作は、“モダンホラーの帝王”スティーヴン・キングによる1996年のベストセラーファンタジー小説「グリーンマイル」。1999年にトム・ハンクスが主演した映画は大ヒットとなった。上演台本・演出は、社会派の舞台で数々の演劇賞を受賞している瀬戸山美咲が手掛け、実直な看守ポール役を加藤が演じ、ポールと心の交流をする死刑囚コーフィ役は元大相撲力士・把瑠都(ばると)が務めている。

時代は今より100年ほど前、1932年のアメリカ。死刑囚が収監されるコールド・マウンテン刑務所では、独房から電気椅子まで歩む緑色のリノリウムの廊下を“グリーンマイル”と呼んでいた。ある日そこに、双子の少女を虐殺した罪で、全身古傷だらけの大男が送られてくる。「もとにもどそうとしました、でも遅すぎたんです」・・・その時はまだ誰も、彼の言葉の意味を真剣に考える者はいなかった。

3年ぶりの舞台主演となる加藤は、上司や同僚からの信頼厚い看守主任ポール・エッジコムを好演。死刑を執行するという仕事に真面目に向き合い、死刑囚に一人の人間として接する。その実直さは、真面目で論理的な加藤の性格とも、うまく重なるのだろう。股間にかかえた持病や少し性的な話題もいやらしくなく、こちらの方が気恥ずかしくなってしまう。真っ直ぐに相手を見つめる話し方は生真面目さを感じさせ、もし自分が死刑囚ならこの人に看取られたい、と思える。把瑠都の演じる死刑囚ジョン・コーフィと絆を結んでいくのも、この誠実な人物ならばと納得がいく。

『グリーンマイル』舞台写真_2

心優しい巨漢のコーフィ役の把瑠都は、これが初舞台。一つ一つの言葉を丁寧に喋ろうとするほど、懸命さや誠実さが伝わってくる。圧倒的に大きな体と把瑠都本人も普段から醸し出している人の良さが、コーフィという役にぴたりとはまり、その優しさは“死”へと向かう刑務所の中で“生”のあたたかさを感じさせた。

舞台中央に時おり現れる、死刑用の電気椅子。死を背負った椅子の暗さが頭から離れない。また、小説や演劇とはまた違った、演劇ならではの演出も見どころだ。同じ空間に時間軸の違う人物を登場させることで、より深く伝わるシーンを幾度も作っていた。

『グリーンマイル』舞台写真_3

看守ブルータス役の中山祐一郎は、主任であるポールを支える同僚として、舞台上でも加藤をサポート。口は悪いが看守の中では一番落ち着きがあり、観ていて安心感がある。時にはまくしたてるように支離滅裂なエピソードを話し(アドリブだろうか)、観客を沸かせる場面も。終始優しくもシリアスな物語の中、唯一客席を噴き出させるシーンをぶちこみ、中山らしさも見せていた。

鍛冶直人演じる凶悪な囚人ウィリアム・ウォートンは、言葉を発しないシーンでも不快感は強い。コーフィと同じく、見た目は鍛えられた体の死刑囚でありながら、そのギャップがコーフィの純真さを引き立てる。もう一人、作品のキーとなるパーシーを演じる伊藤俊輔も、隙あらばその悪をまき散らす。権力を振りかざし好き勝手に振る舞う姿は、この物語の中で異質だ。パーシーの印象が強烈なほど、「人の死とは何か」という問いが、死刑以外の視点でも感じられる。

また、若手の永田涼やベテランの小野寺昭、加納幸和らが、芝居に幅を持たせる。刑務所という閉鎖的な空間の中、様々な世代、様々な考え方の人々が集い、死刑という制度を多面的にとらえる。

加藤は、出演の話を聞いた時「まさかあの(トム・ハンクスの映画で有名な)『グリーンマイル』じゃないよな?」と疑ったと言う。人気作品の舞台化というプレッシャーもあったようだが、友人らに“シゲ・ハンクス”とからかわれながら稽古を重ね、「舞台ならではの『グリーンマイル』になりました。これまで舞台化されなかったのが不思議なほど」と述べた。

『グリーンマイル』舞台写真_4

把瑠都は、初舞台ながら「お客さんの前で自分の姿を見せるのは相撲と同じだから緊張はしない」と堂々としたもの。「自分の台詞を忘れちゃいけないのでがんバルト」と冗談を飛ばし、笑いを取る余裕も。照れたように優しく笑う姿がとてもチャーミングで、まさにコーフィそのものだった。小野寺も「(コーフィは)把瑠都さんしかできない役。ぴったり合っていますね」と太鼓判を押した。

さらに、小野寺は加藤について「すごく真面目で、すごく緻密で、計算しているんですよ。論理的に『こういう役はこういう感情で・・・』と、きっちり積み上げていく人」と評した。

瀬戸山の演出は、物語の中で人間の優しさや残酷さをあぶり出すと同時に、“死刑”という制度についても感情的に訴えたり、論理的に発言させたりと、様々なアプローチを試みている。

これは100年前の物語だが、当時のアメリカと同じように今の日本にも死刑制度はある。加藤は「死刑についてちゃんと深く考えたことがあるか、知った気になってるだけなんじゃないか。答えは出ないけれど、いろんなことを考えた1ヶ月間(稽古期間)でした。考え続けることが大事。皆さんにも、考えていただけるきっかけになれば」と呼びかけた。

『グリーンマイル』舞台写真_5

現在、舞台となっているアメリカのノースカロライナ州では、死刑制度が廃止されている。また近年では、先進国を多く含む約半数の国が死刑制度を取りやめており、残りのうち半分以上が、死刑制度はあるものの執行しないと公言している。また、死刑を廃止すると犯罪率が下がったという研究もある。100年の間に変わりゆく“死刑”。いまだ死刑を実施している日本だからこそ、劇中に浮かび上がる命や死、死刑制度の在り方について、今一度考えるきっかけとなるのではないだろうか。

『グリーンマイル』は10月22日(日)まで新大久保の東京グローブ座で、11月4日(土)から11月8日(水)まで京都・京都劇場にて上演。

(取材・文・撮影/河野桃子)

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