アラサー女の生き様が、深く優しくコミカルに現実をえぐる『野良女』公演レポート!


“アラサー”という言葉が生まれて約10年。その言葉に悶絶するアラサー女たちによる舞台『野良女』が、2017年4月6日(木)より東京・新宿シアターサンモールにて上演されている。佐津川愛美、芹那、沢井美優、深谷美歩、菊地美香という5名の出演者も、演出も、脚本も、ほぼアラサーの女性。主演の佐津川は、オファーをもらった時のことを「アラサーという認識がありながらも脳内で認めていないところがあったようで、原作を読んだ時に衝撃を受けました」と語っていた。

今日も今日とて、雑然とした大衆居酒屋に集まるアラサー女5人。酔っぱらった女たちは、会社の愚痴、恋愛の愚痴、時には大声で下ネタも叫び散らす。「三十代の女なんてさ、生きてるだけでえらいんだよ!」。5人のまったく違うキャラクターと境遇が、世にいる多くのアラサー女性たちを彷彿とさせる。

佐津川演じる鑓水(やりみず)は、28歳の派遣社員。気さくな美人で、友達もいて、寂しいわけじゃないけれど、2年間彼氏ができず。“ごぶさた”すぎて股間に苔が生えてるんじゃないかと、女としての自分を見失いつつある。「ヤリてえ!」と絶叫し、女らしくしなを作って男に迫ったり、時には馬乗りになったり。

その行動はオッサンくさいのに、女性にも好かれる可愛らしさがある。微動だにせず、みるみる表情だけ変わったり、沈黙で感情を表現したりと、その演技の繊細さはシアターサンモールの広さだからこそ実感できる。不幸じゃないけど幸せでもない、弱くもなければ強くもない、そんなアラサー女の不安定なバランスを体現していた。

芹那が演じるのは、保険外交員の女・桶川。眼帯をして、全身傷だらけだ。彼氏にDVを受けているが、本人は「怪我をしていると契約が取りやすいの」などと幸せそうにほほ笑む。時に見え隠れする、どす暗い感情。とても振れ幅が大きな役に「本当の芹那はこんな人間なのかも」と人間の底知れない深みを感じる。

皆が集まる大衆居酒屋にまったく似合わない女・朝日を演じるのは、沢井。ブランドものを身につけ、恋人が何人もいて、実家は金持ちという、圧倒的なモテ女を演じた。立ち居振る舞いと表情の美しさ、ミニスカートから伸びた足さばきの上品さが目を奪う。鮮やかな空気を振りまく朝日は、実はバツイチ。唯一結婚を経験した彼女は、アラサーの集いの中でも独自路線をひた走る安定感がある。同時に、結婚だけでは結ばれない愛情の在り方を見つめ、人生の果てしなさをさりげなく感じさせた。

深谷が演じる坪井は、5人のなかでは唯一、正社員として採用されたばかり。しかし、上司とのストレスで一気に白髪が増えて早くも転職活動中。顔だけで甲斐性のない元カレを追いかけて、ワーキングホリデーに行きたいと妄想している。深谷はテンポを作り出す演技の確かさで、5人のチームワークを根底から支える。劇中唯一、歌うシーンがあり、力を爆発させ一人で熱唱するシーンは必見だ。

派遣で事務をしている横山は、仕事のできるお局。演じる菊地のしっかりした雰囲気と安定した演技がよく似合う。しかし横山は、プライベートでは独身だと言い張る既婚者と不倫中だ。待つ女、許す女として崩れがちなバランスさを保つためか、腕には傷跡が・・・。学級委員長然とした真面目さの向こうに不安定さを感じさせ、切なさと危うさを見え隠れさせる。

『野良女』舞台写真_2

それぞれの個性がバランスよく引っ張り合い、五角形を描くようだ。彼女たちに対する男は、マネキンが演じる。“アラサー”という枠に捉えられている彼女たちにとって、おそらく男たちも、何かの枠に入れられた“マネキン”に見えているのだろう。マネキンを動かす俳優の池田倫太郎の表情は見えず、個性を持った一人の人間として存在しないことで、多くの男性像を彷彿とさせた。

映像、ダンス、歌など盛りだくさんで、30歳という過渡期に振り回される女たちをコミカルに描く。つねに頭上にぶら下がる屋根は、赤ちゃんの揺りかごにも見える。「幸せになるまでは、死ねません」と言って生を必死で享受する彼女たちを包み込むようだ。

『野良女』の“野良”とは、田畑や放蕩、そして一匹狼のこと。一人でも生きていけそうに見える女たちは、でも誰かに愛されたくて愛したくて、幸せを求め続ける。それでも、自分のために誰かを蹴落としたりなんてできないほど、真面目で不器用だ。傷つくのを恐れる彼女たちの行く末と生き様を真正面から受け止めたなら、明日を生き抜く糧が得られそうな気がする。

アラサー女の叫びを浴び続ける『野良女』は、4月9日(日)まで東京・新宿シアターサンモールにて上演。

『野良女』舞台写真_3

(取材・文・撮影/河野桃子)

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