演劇とオペラのいいとこどり!世界初演オペラ『フィガロの結婚~庭師は見た!~』観劇レポート


野田秀樹が、世界的な指揮者の井上道義と組んで、モーツァルト作曲の傑作オペラ『フィガロの結婚~庭師は見た!~』を演出! 演劇好きにもオペラ愛好家にも見逃せない、超話題作の世界初演を金沢で観賞した。オペラというと美術や衣裳が豪華というイメージがあるが、野田版フィガロは傾斜状の素舞台の上に、豪華な装飾のタンスが3つと、長い竿竹が数本刺さっているのみ。しかしこのシンプルな美術こそが、様々な具象&心象風景を巧みに表現し、観客のイマジネーションをより広げていくことが、開幕してから明らかになる。

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今回の『フィガロの結婚』は、舞台を幕末~明治時代の長崎に移し、外国人伯爵夫妻と屋敷で働く日本人使用人たちの話に変換。伯爵(ナターレ・デ・カロリス)家の使用人・フィガ郎(大山大輔)は、伯爵夫人(テオドラ・ゲオルギュー)の女中・スザ女(小林沙羅)との結婚を控えている。しかしスザ女に横恋慕する伯爵、借金をタテに略奪婚を図る女中頭(森山京子)などが妨害を仕掛け、さらに屋敷中のあらゆる女性に恋心を抱く小姓のケルヴィーノ(マルテン・エンゲルチェズ)が、この恋の騒動をさらにややこしいものにしていく…。

『フィガロの結婚~庭師は見た!~』

今回の新演出の大きな特徴は「庭師は見た!」の副題通り、本来は端役である庭師の男(廣川三憲)を狂言回しに仕立て上げたことだ。彼が随所でナレーション的な解説を入れてくれるので「オペラ好きでも把握しづらい」と言われる物語や人物相関図が、かなりわかりやすくなっている。また日本人同士は日本語、イタリア人同士orイタリア人×日本人はイタリア語でしゃべったり歌ったりするという設定も、日本人が物語の理解を深めるための大きな助けに。加えて日本語字幕にも、野田らしい言葉遊びが盛り込まれており、思わず笑ってしまう所も多々あった。

『フィガロの結婚~庭師は見た!~』

さらに野田演出の名物となっている、アンサンブルの演技や動きも作品世界に花を添える。ある時はセットの一部となり、ある時は騒動を盛り上げる野次馬的存在となり、ある時は登場人物の切なさや熱い想いを抽象的な動きで表現する。これは単純に目で見て楽しいだけでなく、おそらくオペラファンにとっても「あのアリアを視覚化するとこうなるのか!」という驚きを持ってとらえられたのではないだろうか。

『フィガロの結婚~庭師は見た!~』

しかし普段オペラを見慣れない者は、やはりフルオーケストラの演奏の迫力とオペラ歌手の歌唱力に身震いするに違いない。野田も時に「何もせず歌だけを聞きたい」と思わされたというほどの歌と音楽の力は、音だけでも演技同等、時にはそれ以上に説得力のある表現を生み出すのだ…ということを痛感させられた。しかしその一方でラストには、ちょっとビックリするような加筆が。単なる喜劇で終わるところに「本当にそれで大団円にしていいの?」という疑問を投げかけ、この「愛と赦し」の物語に、より複雑なテイストを与えていたと思う。

『フィガロの結婚~庭師は見た!~』

オペラ『フィガロの結婚~庭師は見た!~』は6月中に川崎と高松でも上演され、10月には東京、山形、宮城、宮崎、熊本を回る予定。オペラを見たことがない演劇ファン、野田秀樹を知らないオペラファンはもちろん、普段野田の舞台がなかなか上演されない地域の人がその劇世界に触れられるという、様々な“初めて”が詰まった舞台。あの当時の、初めて西洋(東洋)文明に触れた人々が感じたであろう新鮮さや面白さを、疑似体験したような気持ちになるだろう。

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