『罪男と罰男』松島庄汰×渡部秀インタビュー「人の心をえぐる物語に熱量を込めて」


大阪でその幕を上げることとなった舞台『罪男と罰男』(※東京公演は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でやむを得ず中止となった)。本作は、罪を犯す男・森日出男と罰を引き受ける男・山田武男の出会いから始まる不思議な物語を描いた“現代の御伽噺”。2017年にNHKラジオドラマ「劇ラヂ!」シリーズで発表され話題となった朗読劇が、OFFICE SHIKA PRODUCE最新作として初めて舞台化された。

W主演を務めるのは松島庄汰と渡部秀。意外なことに本作が初共演という二人に、改めて役者としての互いの印象や本作への意気込みなどを聞いた。

出会いから約10年、互いの成長を見せつけ合うような芝居をしたい

――今回、舞台『罪男と罰男』にW主演を務めるお二人ですが、意外なことに本作が初共演なんですね。

松島:厳密には事務所主催のイベントなどで共演したことはあるんですけど、ガッツリと組んで芝居をするのは今回が初めてです。秀とは年齢も近くて、性格もよく知っているけど、どうやって芝居を作り上げていくのかその過程を見たことがないから、すごく興味がありました。役者として活動してきた約10年間、互いにどう成長をしてきたのかを見せつけ合いたいですね。

――以前、『罪男と罰男』がラジオドラマで放送された時にも、渡部さんは罰を引き受ける男・山田武男役を演じられましたよね。朗読劇とストレートプレイで、役の印象はどう変わりそうですか?

渡部:今までそういう経験がなくて、未知数だったんですよね。逆に、やりようはいくらでもあるなと思ってます。とりあえず武男という役をいかに魅力的にするかがこの舞台のカギになってくるだろうと思うので、“そこ”に徹したいなと考えています。ラジオドラマは30分弱でしたけど、舞台では約2時間と単純に時間が長くなる分、どこまでストーリーが膨らむのか・・・。

――松島さんは、借金返済のためオレオレ詐欺に手を染めてしまう、罪を犯す男・森日出男、いわゆる“クズ男”ですね(笑)。

松島:素の自分とは正反対の役です。

渡部:この役、当て書き(※その人をイメージして脚本を書くこと)してもらったんでしょ?

松島:違う、違う(笑)!

――演出の丸尾さんは事前に「松島庄汰の“悪いところ”を引き出すような演出を・・・」とおっしゃっていました。

松島:ラジオドラマではそこまで「クズ感」がなかったと思うんですよ。自分のしていること(=オレオレ詐欺)に負い目を感じているようだし、この人は根っからのワルではないんじゃないかなって感じがしました。「クズ」というよりは、楽な方に流されてしまう「意志の弱い人間」というイメージです。

丸尾さんからは、朗読劇『予告犯』でご一緒した時に“怒り”の熱量に対してすごく指導を受けた思い出があるんですよね。劇団鹿殺しさんの舞台は、キャストの皆さん何かしらの熱を発しまくっている印象が強いので、今回の舞台で僕が注力すべきなのは、その「熱量の生み出し方」かなと思っています。

――確かに、松島さんにはわりと「穏やか」な印象があるので、どうやって怒りの導火線に火をつけるのか楽しみです。

渡部:穏やかなの?それは東京の仮面をかぶっているからでしょ?

松島:やめろ~(笑)!まぁでも、僕自身も基本的に面倒くさいことが苦手な性格で「いい子ちゃんでいよう」というか・・・あんまり人に干渉しないようにして生きてきたので、役柄的に「受ける側」の秀、「発する側」の僕という関係性づくりは、結構チャレンジかなと思っていますね。

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――今回の共演で、お互いの新たな一面が見られると思いますが期待していることは?

松島:秀の世間を見下したような目とか引き出したいですね(笑)。

渡部:引き出すって、それもともと俺の引き出しに入ってるの前提?

松島:それはないか(笑)。

渡部:見下してはいないよ。心の中でこっそり中指立ててるだけだよ(笑)。

松島:あははは(爆笑)!見下すっていうのは冗談だけど、秀は結構人をよく見ているので、それを受けてどんな芝居をするのか楽しみ。それから、天然でかわいいところがあったりするので、そんな部分を引き出せたらいいなと思いますね。

渡部:僕は庄汰くんの泣いている姿とか見たいです。彼はあまり人に弱みを見せるタイプではないので・・・少なくとも、今まで僕に対して見せることはなかったので、そんな貴重な場面に遭遇してみたい。そういえば、先日友人たちと一緒に飲みに行った時に二人で深い話をしたんですよ。出会ってから初めてというくらい、お互いの夢とか将来についていろいろ熱く語り合いました。

松島:楽しいお酒だったね(満面の笑み)。お互い黙々とやるようなタイプでもないので、それこそ濃い話をしながら全力でぶつかり合って、アラサーの役者二人が切磋琢磨していかに作品を作り上げていくのか、楽しみにしていてほしいです。

――普段から、プライベートでお会いしたりしているんですか?

松島:いやいや、ないです。さっきの話は、たまたま共通の友達と飲みに行くことになったから一緒だったっていうだけで。

渡部:連絡もプライベートではほとんどしないよね。年が明けても「あけおめ」も一切なかったし(笑)。

松島:事務所とかで会えば気さくに話すけど、それぐらいだよね?

渡部:よくあるビジネスっぽい感じの友人関係です(笑)。でもたまに会う人の中では仲いい方です。

――渡部さん、ちょいちょいツンデレ発言を挟んできますよね(笑)。

渡部:でも、庄汰くんとは昔、一緒に住んでいたこともあったんですよ。

松島:普通に事務所の寮に住んでいた時期が重なっていたというだけです。誤解されるような発言をするなよ~(笑)!

渡部:あはは!こんな冗談も言えるくらい話しやすい先輩です。

役者同士に感情のぶつかり合いで、観客の心をぐらんぐらんに揺らします!

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――演出の丸尾丸一郎さんについても話を伺いたいのですが、どんな印象の方ですか?

渡部:一言で表現するなら「演劇愛あふれる方」。自分たちで劇団を旗揚げして舞台を作り上げていくって、僕からしたら尊敬しかないです。丸尾さんの演出を受けて糧になることはたくさんありますし、普通の会話の中にも“盗めること”ってあると思うんです。

ラジオドラマでご一緒した時は、稽古期間がわずか2日間と短かったので、本作を通して深いところまでじっくり語り合えたらいいなと思っています。例えば、お酒を飲んだらどういうお話をされるのか、どういう“お乱れ方”をするのか、とか(笑)。そういうところも含めて、すごく魅力的な方だと思うので、いろいろ勉強させていただきたいです。

松島:僕も朗読劇『予告犯』の稽古期間が3日間だったので丸尾さんがどういう方なのか、どういう想いを持っているのか、その時はよく分からなくて(笑)。ただ、舞台で見るかぎり「なかなかいないタイプの役者さん」という印象を受けました。まず風貌からして目立ちますよね!あのインパクトは、舞台に立つ人間として非常に得だなと思いましたし、脚本家として『罪男と罰男』のような愛に溢れるお話を書く繊細な人というイメージもありますし、稽古から公演を通して一緒に過ごす間に丸尾さんの人間性を掘り下げていけたらと思っています。

――共演の方たちについては?

渡部:岡本玲ちゃんとは朝ドラ(2012年『純と愛』)と『救命病棟』で共演して、同じ年ということもあって仲良くしていただいてます。久しぶりの共演、楽しみですね。劇団鹿殺しのメンバーの方々は、僕よりも先輩の役者さんもいらっしゃるので、たくさん刺激を受けて勉強させていただいています。

松島:僕、ほとんどの方が初共演なんですよ。

――初共演の方たちと親しくなる“きっかけ”作りとか、何か作戦はあるんですか?

渡部:落としてきたテクニックとか、いろいろあるんじゃない(ニヤニヤ)?

松島:テクニック?何を言ってるんだ??

渡部:あはは!仲良くなりたい時は、稽古場ではどうやってコミュニケーションをとってるの?

松島:無理にグイグイいかない。みんながみんなフレンドリーじゃないし、中にはシャイで距離をとるような人もいたりするので、とりあえず流れのまま・・・僕からシャットアウトするような空気は作らないようにしてるぐらいかな。

――以前「ストレッチしながらジリジリ近づいて話しかけるチャンスを狙う」って人がいたんですけど・・・。

渡部:それ巧妙だなぁ(笑)!

松島:まぁ、焦らず流れに身を任せれば仲良くなれると思うので、稽古場では自然体でいるようにしていますね(笑)。

――『罪男と罰男』を見る方にどんなことを感じてほしいと思っていますか?

松島:感情を吐き出し合うような芝居になるのは間違いないので、それを見たお客様の心をぐらんぐらんに揺らすことができたら最高だと思います。

渡部:そういう意味では、若い人にこそ見てほしい作品だよね。劇団鹿殺しさんでは、毎回“ヤング券”っていう22歳以下の方を対象にしたお得なチケットを販売しているんですけど、作り手側の人たちが経済的弱者である若者を無下にしない考え方って素晴らしいと思います。

松島:学生さんたちにとって舞台のチケット代って高いですからね。もちろん一つの舞台を上演するためにはそれなりの予算が必要ですし、劇団鹿殺しさんの舞台のチケット代はむしろ安い方なんですけど、劇場に行ったことがない方たちにとっては・・・例えば映画のチケット代とかと比べてしまうと、やっぱり高額だと思います。なので身近な娯楽として舞台に一歩踏み出す最初のきっかけとして、ヤング券みたいなものってすごく大事だと思いますね。

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――本作は“現代のお伽噺”をテーマにしていますが、お伽噺ってもともとは道徳的な部分を子どもに理解させるのを目的としているという意味合いもあるじゃないですか。「悪いことをしたら因果応報で自分に返ってくる」「巡り巡って自分近い人に罰がくだる」というのは、ご自身でも似たような経験したことはありますか?

渡部:小さい頃、自分が怒られた時に「どこかでこれぐらいの量の悪さをしたヤツがいるんだな」っていうのは思ったことはありますね。「理不尽だな」「不条理だな」っていう想いは、まさに武男の考え方に近いというか・・・「なんで僕が?」っていうのはよくありました。いまだにありますね、そういう、等価交換みたいなこと。

松島:僕がパッとイメージしたのは勉強かな。「あの時、真面目に勉強していたら」みたいなことは、社会に出て仕事をするようになってから何度もありました。以前、プロサッカー選手の本田圭佑さんがインタンビューで「休みの日は他人と差をつけられるチャンスだ」みたいなことをおっしゃっていたのを見て「さすがだな」って思ったんです。

結局、がんばった分は将来への糧になるし、「あの時、もっとがんばっていれば・・・」という後悔はしょっちゅうですね。役者って会社務めの方とは違って自分の自由になる時間は多いけど、その時間の使い方が大事なんだなって思います。

渡部:でも「何をもって無駄か」っていうのも難しいよね。ボーッとしている時間で考えることも、もしかしたら芝居に生かせることがあるかもしれないし、「何をするのが正解」ってないからね。考え方次第だけど「何をやっても芸の肥やしだ」と思えば、それもまた勉強だし・・・まぁ要するに庄汰くんは本田圭佑さんだって話だね。

松島:飛躍しすぎ(笑)!「休日は他人に差をつけるチャンスという考えで、意識高く過ごしたいな」って話だよ。でも、役者界の本田圭佑を目指してがんばります(笑)!

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――最後に上演を楽しみにしている皆様に向けてメッセージをお願いいたします。

渡部:今回の作品はお伽話のようでもあり、それでいて現代社会に対してのアンチテーゼのも内包している作品です。「こういうことは多分、自分の周囲でも起きているのかな」と感じていただきたいし、決して他人事ではないと思うんです。これを見た若い方たちの心の中に“何か”を残せたらいいなと思っています。

松島:すごく役者の力が試される作品になるんだろうなと今からワクワクしています。どこか人恋しさを覚えるような切なさを感じるストーリー、そして見た後に心が温かくなるような作品・・・。役者同士、切磋琢磨して、削り合って、時にはピリピリといい緊張感を感じながら『罪男と罰男』の世界を作り出すので、ぜひ楽しみに劇場に来ていただけると嬉しいです。

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◆公演情報

OFFICE SHIKA PRODUCE『罪男と罰男』

【大阪公演】2020年3月19日(木)~2020年3月22日(日) ABCホール

【脚本・演出】丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
【出演】
松島庄汰 渡部秀
鷺沼恵美子 近藤茶 有田あん 長瀬絹也
岡本玲 丸尾丸一郎 ほか

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【公式サイト】http://shika564.com/tsumibatsu/
【公式Twitter】@shika564

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