毛利亘宏×7ORDER諸星翔希インタビュー!『モマの火星探検記』を通して伝えたい「人が前に進むために必要なこと」


2020年に突入して、すぐ。少年社中・東映プロデュース『モマの火星探検記』が、全国4都市で上演される。宇宙飛行士・毛利衛の同名児童文学を原作に、少年社中主宰の毛利亘宏が生み出したSFファンタジー作品は、今回で3度目の上演を迎える。「ライフワークとして上演し続けたい」という本作に、毛利が込める思いとは?

今回、父との約束を果たすために人類初の火星探検に挑むモマ役は矢崎広、宇宙で行方不明になった父親にメッセージを送ろうとロケットを作るユーリ役は生駒里奈が再演から続投。そこへ、「7ORDER」projectの一員である諸星翔希ら新たなキャストが加わる。諸星が毛利に聞いてみたかったこと。その答えから導き出された、二人の思いを聞いた。

――『モマの火星探検記』は、約2年半ぶりの上演ですね。少年社中さんの作品で、3回目の再演をするのは初めてですか?

毛利:そうですね。この作品は、ずっとやっていきたいなと思っている作品の一つであり、もっともっと多くの人に届けたい物語です。原作にある毛利衛さんの言葉は、きっと演劇が一番伝わる表現なんじゃないかなと思うので、僕のライフワークとして、ずっと上演し続けていきたいなと考えています。

――諸星さんは、本作を映像でご覧になったということでしたが、どんなことをお感じになりましたか?

諸星:夢や希望がつまっている作品だなと。同時に、自分の夢って何だろう?って思いました。すべてを捨ててでも叶えたい夢って、自分にとっては何だろうと考えることで、自分の中にあった夢が具現化して見えた気がしました。

――毛利さんは、諸星さんのほか「7ORDER」のメンバーである萩谷慧悟さんと一緒に作品作りをされていますよね。「7ORDER」の皆さんにはどんな印象をお持ちですか?

毛利:一人一人が、ものすごく魅力的ですよね。萩谷とは、舞台『仮面ライダー斬月』-鎧武外伝-で一緒にやりまして、その後、安井謙太郎くんともお話しする機会があってしたんですよ。率直に「このグループはすごいぞ」という印象を持ちました。すごく粒ぞろい。萩谷のことはものすごく信頼していますし、「7ORDER」の全員と一緒に仕事をしてみたいと思っていたので、今回、諸星くんが出演してくれてとても嬉しいです。

諸星:僕も期待でいっぱいです、ありがとうございます。

――諸星さんは、少年社中さんの作品作りにどんな印象を持たれていますか?

諸星:最初に感じたのは、ビジュアル撮影の時のことなんですが、スタッフの皆さんが一からのもの作りをすごく楽しんでいると感じたんですよ。衣裳作りから、一つ一つの工程を“自分のやりたいこと”として形にしていっているのが伝わってきたので、僕もそれに応えていきたいなと。皆さんの純粋な思いに、僕自身も純粋な思いでぶつかっていきたいです。

――萩谷さんとは、毛利さんの演出について何かお話をされました?

諸星:萩ちゃん、毛利さんのこと激推ししていたんですよ。激推し、この使い方で合ってるかな(笑)。

毛利:萩谷に激推ししてもらえるのは嬉しいな(笑)。

諸星:毛利さんは、役者を絶対に良くしてくれる方なんだって、力説していました。舞台『仮面ライダー斬月』-鎧武外伝-の時、ずっと毛利さんの話をしていましたから。萩ちゃんの気質に合っていたのもあると思うんですが、萩ちゃん自身が毛利さんのことがとても好きで、生き生きしていました。僕も、そうやって自分をストレートに出して、毛利さんと向き合ったことを、また萩ちゃんと話せたらいいなと思っています。

毛利:僕の演出方針は、あんまり「こうして」って縛っていくタイプじゃないから。大きな囲いは作るけれど、あとは自由に走れっていう放牧スタイルだから(笑)。

諸星:放牧されたいですね(笑)。

――ビジュアルを見ると、これまでとはまた違ったアプローチという印象を受けるのですが、今回はどう上演しようとお考えですか?

毛利:脚本はほぼほぼ同じですし、演出も前回とそれほど大きく変えるつもりはないんです。ただ、上演時期が初演も再演も、夏だったんですよね。『モマの火星探検記』自体は、夏のお話というわけではなく、どちらかというと、イメージは北の方の、寒い地方のイメージでした。だから、登場人物たちの衣裳はわりとモフモフしているんですよね。

夏の夜空と冬の夜空は、全然印象が違いますから。夏の夜空は開放感があって気持ちがいいですが、冬の夜空はまた違った魅力があるんですよね。神秘的で、吸い込まれるような・・・そんな時期のイメージの違いも、作品の見え方に影響するんじゃないかなと思っています。

諸星:確かに、夏は楽しいイメージだけど、冬はセンチメンタルな気持ちになる気がしますね。

――上演時期の違いから生まれる感じ方の違い・・・!これも、演劇の醍醐味かつ、再演の醍醐味ですね。そして、演じる人の違いも大きな変化を生む要因だと思いますが、今回、諸星さんが演じるのはチキン役と伺っております。

毛利:諸星くんは、今回の座組の中ではかなり若いので、今の年齢だからこそ表現できるナイーブさや、迷いながら自分のやりたいことを模索する姿を体現してもらいたかったんです。諸星くんには、少年性を感じるので、きっとチキンにぴったりだろうなと。

諸星:誰しも、臆病になったり、やりたい思いはあるのに身動きが取れなくなったりする時期ってあるじゃないですか。この役に対しても、そういう気持ちを純粋にポンッと出して、稽古を通して自分なりのチキンにできたら、僕がやる意味があるんじゃないかと思っています。

毛利:僕は、演じる役者の人間性をできるだけ大事にしたいと思って演出するんです。あまり濃い味付けはしたくない。だから、諸星くんが今まで生きてきて感じたことや、経験をそのまま舞台にぶつけてもらえたら嬉しいな。役者の人生そのものが板の上に乗っているのが、理想の演劇だと思うので。

諸星:分かりました!ド直球でいきます(笑)。

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――諸星さんは、作品について毛利さんに聞いておきたいことはありますか?

諸星:そうですね・・・毛利さんが、この物語に一番ロマンを感じるところはどこか、聞いてみたいです。

毛利:ロマンかあ・・・。これは、原作の毛利衛さんの本の中にも出てくる言葉なんだけど、モマが生き物の名前を羅列していくところかな。

諸星:あぁ!!

毛利:あそこがすごく好きなんだよね。あまり脈絡なく、ひたすら生き物の名前を羅列しているだけなんだけど。言葉って不思議で。例えば「愛してる」とか、明確な意思を持ちますよね。でも、物の名前みたいななんでもない言葉は、それだけ見ると記号でしかないんだけど、声に出すことでそこに気持ちがこもる。それって、役者が演じるからこそ感じられることで、すごく演劇ならではだなと思えて・・・好きなんだよね。

諸星:僕もそのシーン、映像で観た時から印象に残っています。

毛利:毛利衛さんの原作では、結構序盤に出てくる台詞なんだけど、舞台ではモマが人としてすごく当たり前のことに気づくシーンで言うようにしたんです。それがものすごくロマンチックに思えたんですよ。

――スケールの大きな『モマの火星探検記』という物語の核を感じますね。

毛利:原作にある毛利衛さんの言葉を読むと「やっぱりこの人は地球を俯瞰したことがあるんだ」と思うんですよ。自分の目で地球を見たことがあるから、書ける言葉に溢れている。今はまだ宇宙に自由に行ける時代じゃないから、毛利衛さんがスペースシャトルの中で感じた感動をそのまま感じることはできないけれど、生で体感する演劇ならその感動に近づけると思うんです。この『モマの火星探検記』から受ける感覚って、人が前に進むためにとても必要なことなんじゃないかなと思うのね。

諸星:それはどういうことですか?

毛利:ジュール・ヴェルヌって知ってる?「海底二万里」「月世界旅行」とか、SF小説を人類で初めて書いた人なんだけどね。彼の小説を読んだ人たちが、その物語に憧れて、ロケットを作ったりし始めたんだよ。

諸星:空想が先だったんですか?

毛利:そう。だから、フィクションって人を前に進めるすごい力があるんだよね。演劇を仕事にしていると、農業とか介護とか、そういう仕事をしている人の方がすごいと思うこともあるんだけど、人が根源的に前に進むために必要なものを作り続けることに僕は誇りを持っているんです。そして、この作品をやり続けることは使命だと思っているんです。

人間は、憧れや夢とかがないと、ただつらい日常が繰り返されていくだけになってしまうでしょう。ただ生きるために日々を過ごすのではなく、何かを叶えたいとか、憧れを掴みたいって、観てくださるお客さんの心にも届けたい。そのためには、演じる役者たちに何よりも先にそれを感じてほしいなと思っています。今回もユーリ役を演じてくれる生駒(里奈)ちゃんがね、前回「この役をやってすごく自分の意思が出せたし、作品から力をもらえて、一歩踏み出す決断ができた」って言ってくれたんです。諸星くんにも、自分の憧れと向き合って湧き出た気持ちを大切にしてもらえたらと思っています。

諸星:今、このお話を聞けてよかったです・・・。やっぱり、目標や夢を持つことって大事なんですね。僕らも新しい一歩を踏み出す中でいろんなことを感じたんです。たくさんの方に支えられ、協力をいただいたものを返していきたいですし、気持ちを受け取った分、誰かの一歩踏み出すエネルギーになりたいなと、改めて思いました。

毛利:そういうエネルギーの循環が大事だよね。エンターテインメントってすごくミニマムかもしれないけれど、そういうところの循環が、日本全体、世界全体、地球全体にいい流れを生み出すことができると信じています。だから演劇はやめられないなあ。

――上演規模も、東京・岡崎・大阪・福岡の4都市ということで、劇団としても活動の場が広がっていますね。

毛利:それについては、嬉しいけれどあんまり現実感がないんですよ(笑)。僕らは、第三舞台とか1980年代の演劇に憧れて劇団をやってきただけなので、自分たちがこんな大規模な公演をやらせてもらえる立場になるとは・・・。実際実現してみると、現実感があまりなくて。気持ちは早稲田の小さい小屋でやっていた頃と何も変わらないです。一公演一公演を大切に、そして日々の稽古を大切に、夢を描いていきたいです。今年はキャラメルボックスが休団しちゃったから・・・。僕ら、がんばらなくちゃ。

――冬の『モマの火星探検記』、楽しみにしています。

毛利:諸星くんをはじめ、稽古場には新しい風がたくさん入ってきています。再々演ですが、あまり考えすぎずに、目の前に出てきたものを、まずは僕が一番楽しんで、セッションして、膨らませて、お客さんのもとへ届けたいと思います。

諸星:原作者の毛利衛さんが伝えたかったこと、毛利さんをはじめ、この作品を作り上げている方々が伝えたいこと、一つ一つの気持ちを考えて、自分の中のコアな部分を固めていきたいと思います。今、毛利さんとお話をしていて、新しい自分を見つけられそうだし、生み出せそうだと思ったので、そんな自分を観に来ていただきたいですし、物語を通して、何かを感じていただけたら嬉しいです。

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◆作品情報

少年社中・東映プロデュース『モマの火星探検記』
【東京公演】2020年1月7日(火)~1月20日(月) サンシャイン劇場
【愛知公演】2020年2月1日(土)・2月2日(日) 岡崎市民会館 あおいホール
【大坂公演】2020年2月7日(金)~2月11日(火・祝) サンケイホールブリーゼ
【福岡公演】2020年2月15日(土)・2月16日(日) 福岡市民会館

【原作】毛利衛「モマの火星探検記」(講談社)
【脚色・演出】毛利亘宏

【出演】
井俣太良、大竹えり、田邉幸太郎、堀池直毅、廿浦裕介、加藤良子、長谷川太郎、杉山未央、内山智絵、竹内尚文、川本裕之/矢崎広、生駒里奈/諸星翔希、松村龍之介、山崎大輝、伊藤昌弘、田村颯大、永島叶和/鎌苅健太、赤澤燈、鈴木勝吾/小須田康人
※田村颯大と永島叶和はWキャスト

【公演特設サイト】http://www.shachu.com/moma2020/

(取材・文/エンタステージ編集部 1号)

 

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