『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』柿澤勇人インタビュー!キーワードは「SPARE」


2019年9月1日(日)から29日(日)にかけて、東京・世田谷パブリックシアターで『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』が上演される。この作品ではシャーロック・ホームズの若い頃が描かれ、相棒のワトソンと出会ってから最初の事件に遭遇するまでの数ヶ月間の物語となる。作・演出はシャーロック・ホームズ好きで知られる三谷幸喜が手掛け、ホームズ役にはミュージカルなどの舞台を中心に活躍する柿澤勇人を抜擢。

三谷は柿澤の存在があったからこそ舞台化を決定したという。今回は主演の柿澤にシャーロック・ホームズ役にどのように向き合っているかなど、公演に対する意気込みを語ってもらった。

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――三谷さんは、柿澤さんありきで今回の公演を決めたとおっしゃっていましたね。出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

三谷さんは、基本的に宛て書きするスタイルで脚本を書くので、役者にピンとこないとインスピレーションが沸かないと聞いていました。今回は、僕が出演したミュージカル『メリー・ポピンズ』という舞台をたまたま観に来てくださったことがきっかけです。まさか『メリー・ポピンズ』からシャーロック・ホームズにつながるなんて想像できないから驚きましたが(笑)。とても光栄でしたね。

――柿澤さんは三谷さんの作品に初参加ですね。お稽古の雰囲気はいかがですか?

あたたかい雰囲気で稽古に臨んでいます。三谷組初参戦の人たちが多いので、まわりの皆さんも最初は探り探りでした。僕は(横田)栄司さんと二朗さんと共演したことがありましたが、やっぱり座組が違うと全然雰囲気が違いましたし。三谷さんがボケたり、出演者の皆さんをいろいろいじったりする中、それを(佐藤)二朗さんが突っ込み、はいだ(しょうこ)さんが天然なことを言ってまた二朗さんが突っ込む・・・みたいな雰囲気です(笑)。

――共演者の皆さんについて、印象は?

八木(亜希子)さん、迫田(孝也)さんは三谷組作品の経験者なので、すごくマイペースにやっていらっしゃいます。稽古3日目で、すでにお二人とも台本を持っていないんですよ!それを見てちょっと焦りました(笑)。たぶん二朗さんや栄司さんも焦ったのではないでしょうか。

今回二朗さんが相棒のワトソン役ですが、三谷さんが描くワトソンは、おもしろいことを言ったりする役ではありません。二朗さんはおもしろいことを言ったりやったりするのが得意で、そういった引き出しはとてつもなくすごい人なのですが、それを封印されています。だからかな、二朗さんがテンパっている顔を初めて見ました。

――真面目な演技をする二朗さんはいかがですか?

すごく新鮮ですよ!皆さんが思っている二朗さんのイメージは、おもしろくて明るくてというところだと思いますが・・・もちろんその通りの人なんですけれど、実はすごく繊細で、常に周りに気を配っていらっしゃる方なんですよ。周りをよく見ているし、このカンパニーの中で誰よりも繊細なんじゃないかなと感じています。そしてあったかくて優しい人なので、二朗さんが本来持っているものが、三谷さんが求めるワトソンに合っているのかなと思います。

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――三谷さんは「シャーロック・ホームズは風変わりで天真爛漫で天才肌。そんなシャーロックを演じられるのは、若い頃のレオナルド・ディカプリオか、今の柿澤さんだけ」とおっしゃっていましたけれど、どういうふうに演じていきたいですか?

一幕のシャーロックは、探偵としてはもちろん人間としても未熟です。人とのコミュニケーションが取れずじっとしていられないので一幕は常に動いていますし、人の目を見ることができない、女性の扱いが分からなくてテンパってしまうなど全然かっこよくないんですよ。

でも人の指を見て「あなたはこうですね」と言ったりする天才的な推理力は垣間見ることができます。そんなシャーロックをお兄さんであるマイクロフト(横田栄司)を含め、周りの人たちが支えて、どうしたらこの子はうまく生きていけるんだろうと考えているというのが1幕の構図です。三谷さんから「精神年齢8歳ぐらいの気持ちで演じて」と言われています。

――8歳とは・・・!

英国の俳優・ベネディクト・カンバーバッチがシャーロック・ホームズを演じたドラマでも“高機能社会不適合者”という言葉が出てくるのですが、三谷さんは1幕でその雰囲気を全面に出してほしいとおっしゃっています。とはいっても、どこまでそれをやるのか・・・さじ加減は稽古次第かなと思います。

シャーロックは推理をする時も頑張って話すんですけれど、自分の感情が抑えられなくなってきて本筋から外れていくんです。最終的にはひっくり返されて、まったく見当違いのことが起こり挫折も味わいます。どん底に陥って泣き崩れますから、皆さんが知っているシャーロック・ホームズのイメージとは違う、若いシャーロック・ホームズが描かれていくと思います。

――そこから成長していく姿が描かれていくわけですから、演技にも変化が出そうですね。

それはあると思います。公演のチラシを見ていただくと一番上に「THE SPARE」と書いてあって、実はこれがキーワードになってきます。スペアというのは「代わり」「もう一つの」という意味ですが、今回舞台となる1880年代のロンドンでは、女性より男性、次男より長男というのがあったようなんです。シャーロックの立場からすると、兄であるマイクロフトは絶対的な存在で、正直言っていい関係ではありません。幼い頃は推理をマイクロフトに教えてもらって憧れていたところもあったのでしょうが、次男であるかぎり絶対に勝てない存在だったわけです。

また、ワトソンにとってシャーロックは絶対的に最高のパートナーなのに、彼にはミセス・ワトソンがいて、彼女が本来のパートナーです。シャーロックは「自分は本来のパートナーではない」というところにコンプレックスを抱いていくんですね。物語の中にいろいろな「SPARE」が出てきて、そこで感情や人間関係が変化していくので、そこがかなり大きなキーポイントですし、2幕で「SPARE」という言葉が効いてくると思います。

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――お話を伺っていると「SPARE」という言葉を軸に、タイトルにある「愛と哀しみ」が随所に感じられる物語になりそうですね。

そうですね。何て言ったらいいかな・・・(じっくり考えて)シャーロック・ホームズに対して完璧に近い名探偵だと思っている方も多いでしょうが、決してそうではないんです。言ってみれば、欠陥だらけで単なるわがままな青年(笑)。ですが、周りの人たちの愛に支えられます。ただ1幕で描かれるシャーロックは、裏切りにあったりしてボロボロになるんですよ。とても哀しい出来事に直面しますが、その哀しみを経て成長していくので、人間的な物語だなと感じます。

初演ですから楽しい舞台にしたいですし、絶対に成功させなければと思っています。成功して続編をやることになったら、再び僕がシャーロック、二朗さんがワトソンとして出演できたらいいなと思っています!

――最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

皆さんがよく知っている、原作のファンの方も多いシャーロック・ホームズですが、今回は三谷さんのオリジナル作品ですので、シャーロックを知っている方も知らない方も楽しめる舞台になっていると思います。一人の未熟な青年が挫折を味わいながらも、まわりの人々に支えられて名探偵になっていく瞬間を見ることができるのでないでしょうか。三谷さんが「こうだったらおもしろいんじゃないか」と考えたシャーロック・ホームズを、楽しみに待っていていただければと思います。・・・お客さんも騙されるところがあると思います。それを知った上で観ると、また違う楽しみ方ができるかもしれません。

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◆公演情報
『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』
【東京公演】2019年9月1日(日)~9月29日(日) 世田谷パブリックシアター
【大阪公演】2019年10月3日(木)~10月6日(日) 森ノ宮ピロティホール
【福岡公演】2019年10月12日(土)・10月13日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール

【作・演出】三谷幸喜

【出演】
柿澤勇人:シャーロック・ホームズ
佐藤二朗:ジョン・H・ワトソン
広瀬アリス:ヴァイオレット

八木亜希子:ミセス・ワトソン
横田栄司:マイクロフト・ホームズ
はいだしょうこ:ハドソン夫人
迫田孝也:レストレイド警部

音楽・演奏:荻野清子

【公式サイト】https://horipro-stage.jp/stage/sherlockholmes2019/

(撮影/咲田真菜)

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