『明治座の変 麒麟にの・る』平野良インタビュー「“祭”シリーズは当たり前のようにおもしろい」


年末の恒例となってきた、演劇製作会社る・ひまわりと明治座がタッグを組む年末“祭”シリーズ。2019年は、『明治座の変 麒麟にの・る』(通称:る変<るへん>)と題し、日本の歴史上、最も有名にして最も謎が多いとされる“本能寺の変”をモチーフとした物語を生み出す。W座長を務めるのは、平野良と安西慎太郎。

平野が“祭”シリーズに参加するのは、約6年ぶりとなる。共に座長を務める安西とはこれが初共演。その印象や、ごった煮感満載の“祭”シリーズに対して思っていることなど、今の平野が感じていることを語ってもらった。

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――平野さん、久しぶりの年末“祭”シリーズの参加ですね。

そうですね。前回(『歳末明治座 る・フェア』)は29歳の時だったから、約6年ぶりになるのかな。

――いろいろと盛りだくさんなこのシリーズですが、平野さんはどんな魅力を感じていますか?

一番は、いろんな場所でいろんな経験を重ねてきた方が集まって、芝居にもおバカなことにも本気で取り組むところだと思います。最近、2.5次元作品でも、20代の若い俳優さんたちがたくさん出る大所帯の公演も増えていますが、この祭シリーズには、他ではなかなかお見かけしないような中堅・ベテラン、さらにはいろんなジャンルのスペシャリストの方々が参加してくださっていて、また色が違いますよね。しかも“一緒に楽しめる”というものは、なかなかないと思うので。

ミュージカルやお笑いなど、コンテンツとしての要素も盛りだくさんで構成されているのが、るひまさんの年末行事として、一つの色になっているのではないかなと思います。

――物語としても、いつも驚きのある作品に仕上がっています。今年のモチーフは「本能寺の変」と伺いました。

「本能寺の変」にはいろんなトンデモ論がありますけれども、今回の『明治座の変 麒麟にの・る』では神獣が出てくるという、これまたトンデモ論です(笑)。「本能寺の変」自体は馴染みのあるエピソードですが、史実に少々のファンタジー要素も乗せてお届けするので、今までとはまた違った切り口の、我々が作る「本能寺の変」を楽しみにしていただけたらなと。

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――平野さんはW座長の一人であり、明智光秀役ということで。明智光秀は、以前にも一度別作品(戦国御伽絵巻『ヒデヨシ』)で演じられていましたね。史実上の人物としては、どんな印象をお持ちですか?

一般的なイメージとしては、お堅い人で、堅いがゆえに曲げられなかった“信念”を感じます。でも、今回の物語における明智光秀は、少しテイストが違い自由奔放な放浪人。なぜか、加藤啓さんが演じる“きりん”が、織田信長と間違えて突進してきてしまうんですよね(笑)。皆さんの中の「明智光秀像」に対する違和感と、その正体を楽しんでいただけるように演じられたらと思っています。

――W座長のもうお一方、安西慎太郎さんとは、意外にもこれが初共演なんですよね。プライベートで初めてお会いされた1週間後にこの作品のオファーを受けて驚いた、という話を聞いたのですが・・・。

そうなんですよ!すごいですよね、運命を感じました。ビジュアル撮影の時にお会いしたのが2回目だったんですが、もう全然そんなこと思いもせず。演出の原田優一さんとは、9月から10月にかけて演者として共演させていただくので(A New Musical『FACTORY GIRLS ~私が描く物語~』)、タイミングと繋がりの妙を感じざるを得ないんですよね。

――安西さんとは、初対面から相当意気投合されたとか?

周りからもずっと「安西慎太郎はいい」といったことを、ここ数年よく耳にしていたんです。でも、若くして才能のある方って独自の強さを持っている方も多いので、彼はどうなんだろう・・・?と思っていたら、まったくの杞憂で。

初めて会った日に、お酒を飲みながら話したんですが、とにかく話が合いました。慎ちゃんも、日頃思っていることや、人に言わなくてもいいような自分の中にある役者論とかを話してくれたんですが、ことごとく共有できたんですよ。価値観が一緒というか・・・、こんなに気の合う役者さんいるかな?って思うぐらい。だから、そういう人間的な面を含めて一緒に作品を作れることがすごく楽しみなんです。

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――初対面でそこまで打ち解けられるというのは、意外でした。でもお二人なら分かる気も・・・。

いつもはこんなこと、ないんです。プライベートでは、親睦会とか以外では、役者さんとはほとんど飲まないですし・・・。

――オン・オフはしっかりされるタイプなんですね。

そうですね・・・。だからかなあ、後輩とたまーに一緒に飲みに行くと「・・・良さんってゆるゆるなんですね」って言われるんですよ(笑)。

――ゆるゆるなんですか(笑)?

俺としては普通のつもりなんですけど、稽古場で仕事をしている印象が強すぎるみたいで。「先輩にこう言うのも何ですけど、接するの楽になりましたわ」って、よく言われます(笑)。

――今回も、安西さんを初めとする初共演の方から、久しぶりのご共演、そしておなじみの方と、バラエティに富んだ座組なので、何が起こるか楽しみです。

僕も楽しみです。そうそう、まさかの井深(克彦)さんと夫婦役なんですよ!とうとう来ました。出会ってからもう10年近く立ちますが、ようやく成就ということで(笑)。情熱と愛で迎え撃ちたいと思います。

それから、粟根さんとも久しぶりに共演させていただけるのが嬉しいですね。でも、これまでの“祭”シリーズって、コバカツ(小林且弥)さんとか、コバケン(小林健一)さんとか、話を回してくださる先輩俳優さんがいらっしゃったじゃないですか。今回は、そういうポジションになりそうなのが加藤啓さんぐらい・・・?粟根さんは役どころ的に違うだろうし。今年は、いつもとまたちょっと毛色が違うものになるかもしれないですね。

――毛色が違うと言えば、二部もなかなか振り切れたコンセプトになっていますね。

これね(笑)!3.5次元って・・・3次元と4次元の間って、もはや異空間ですよ?!何でも0.5次元足せばいいってもんじゃないから(笑)。

でも僕、もともとお笑いが好きなんですよ。中学生の時に役者になりましたが、小学生の頃の夢は芸人さんだったぐらいで。中山秀征さんとか、堺正章さんとか、コメディアンという存在が憧れでした。今ももちろんお笑い好きなので、ショーレースは絶対に観ますし、年始に挑戦させていただいたコント公演(MASHIKAKU CONTE LIVE『ユニコーン』)も楽しかったです。だから、笑いは逆にホームな感じがしますね。

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――また、この年末公演と言えば、カウントダウンも目玉の一つです。

6年前の公演では、年越しのカウントダウンをした後にお芝居をやったんですが、あれは本当にヤバかった。しびれました。当時観ていたお客さんも、どんなテンションでお芝居を観るんだよってなりましたよね(笑)。

カウントダウンでは、舞台に上がる時点でテンションが上がっているのに、さらに上に行くのでわけが分からなくなるんです。なになに?今どういう状態?!って思っているうちに、「イェーイ!」って天井超えのテンションになるので。今年も、一緒に振り切れましょう(笑)。

――テレビなどでも時代劇を目にすることが少なくなっています。この“祭”シリーズが明治座で続いていくことを、平野さんはどう感じていますか?

確かに“時代劇”は少なくなっているのかもしれませんが、それは形を変えているということでもあると思うんですよ。2.5次元作品でも、時代を描いたものがたくさんあります。

僕は、時代劇の根本にあるのは“ヒューマンドラマ”だと思うんですよね。例えば、現代を描いた作品では、ロボットやAIといった科学の発達から生まれたもの・・・もっと身近なものでは、スマホなどが当たり前のように使われていて、いろんな出来事のきっかけになったりもします。でも、時代劇では、次にシーンを進める要因は、すべて人の心です。それ故に、人の心の形が伝わりやすいように思います。

時代がどれだけ変わっていっても、直接言葉を交わすこと、目線のゆらぎや息遣いからでしか分からないことが絶対にあるじゃないですか。直接感じて、想像をすることで、人は優しくなれたりもする。そういう部分って、ずっと人間の一部として残ってほしいものだと、僕は思います。そういうことをしっかり描けるのが時代劇の良さだと思うので、形は移ろえど、大切にしていきたい文化ですよね。

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――この6年を振り返ると、平野さんも主演作が増えるなど着実にキャリアを積まれてきました。ご自身の中で、変化したことはありますか?

年齢や経験を重ねれば重ねるほど、怖いことも増えてくるじゃないですか。自分の弱さを知ったからこそ、周囲の人たちを心から好きになれるようになった気がします。若い頃は、舞台の主演をやらせていただくとなると、そのプレッシャーから反発心で「やってやるぞ!」とか「もっとこうしようぜ!ああしようぜ!」と、よく言えば熱い気持ち、悪く言えばいらない闘志があったんですが、そういった邪魔な感情がなくなりましたね。

この世界に生まれて、この業界に入って、ご一緒できるってすごい奇跡だから。一つ一つの出会いや、一緒に重ねる時間を大切にしたいなと思うようになったから、気負うこともなくなったのかもしれない。今振り返ってみても、そうなった方が僕的にはいい作品にできているなと思います。この作品も、そうできたらいいですね。

――W座長の一翼を担う平野さんを、楽しみにしております。

この6年で僕のことを知ってくださった方もたくさんいらっしゃると思うので、6年前に出ていた作品をご覧になっていない方もいらっしゃるでしょうし、この作品で初めて明治座に来る方もいらっしゃるかもしれません。今、一つだけ言えるのは「この“祭”シリーズは当たり前のようにおもしろい」ということです。これって、本当にすごいことだと思うんですよ。テーマパークに来るような気持ちで来てほしいです(笑)。物語としての妙を生む楽しみ、お芝居という楽しみ、笑いという楽しみ、本気という楽しみ。いろんなおもしろさが待っているので、満腹になる幸せを味わえるコンテンツだと、僕は思っているので。いつもは観に来てくださいって言いますけど、一緒に遊びましょう!という感覚です。たくさんの方に来ていただきたいですね。

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◆公演情報
『明治座の変 麒麟にの・る』
2019年12月28日(土)~12月31日(火) 東京・明治座

【演出】原田優一
【脚本】赤澤ムック

【出演】
平野良(W主演) 安西慎太郎(W主演)/
神永圭佑、木ノ本嶺浩、滝口幸広/
井阪郁巳、松田岳、小早川俊輔、吉村駿作、土屋神葉/
林剛史、谷戸亮太、川隅美慎、二瓶拓也、井深克彦、中村龍介/
加藤啓、内藤大希(Wキャスト)・原田優一(Wキャスト)、椿鬼奴/
辻本祐樹/粟根まこと/凰稀かなめ(特別出演)

【日替わりゲスト】
28日昼:多和田任益 夜:佐藤貴史、
29日昼夜:佐奈宏紀、
30日昼:永田崇人(第二部のみ)、永田聖一朗 夜:近藤頌利、杉江大志、
31日昼:山崎大輝 夜:原田優一(第一部ゲスト、第二部出演)、内藤大希(第一部出演、第二部ゲスト)

【チケット一般発売】9月15日(日)

【公式サイト】https://le-hen.jp/

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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