舞台『メサイア ―黎明乃刻―』橋本真一×山本一慶インタビュー「二人揃って同じところに向かえたら」


2019年9月に上演される舞台『メサイア-黎明乃刻-』。情報戦争が激化した世界で生きるスパイ「サクラ」候補生たちの生き様を描き続け、人気を博してきたシリーズだが、本作をもって、約3年続いてきた「刻(とき)シリーズ」が完結。脚本を手掛けてきた毛利亘宏、演出を手掛けてきた西森英行も卒業となる。

そんな変化を前に、本作に冠されたサブタイトルは「黎明乃刻」。中心となるのは、小暮洵と雛森千寿のメサイアペア。注目が集まる中、シリーズとしては初の凱旋公演実施も決定した。

前作『メサイア トワイライト-黄昏の荒野-』は、小暮が敵対する組織・北方連合に連れさられ記憶を抹消され、人格まで変わってしまっていた・・・という衝撃の展開の中、終了している。メサイアである雛森は「必ず連れ戻す!」と叫んだ。二人の運命や、いかに――?シリーズを通して、小暮洵役を演じてきた橋本真一と、雛森千寿役の山本一慶に、前作を振り返りながら、話を聞いた。

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――『メサイア-黎明乃刻-』で「刻(とき)シリーズ」完結という衝撃の情報が出ていますが・・・まず、前作『メサイア トワイライト-黄昏の荒野-』(以下トワイライト)の振り返りからお伺いしてもいいですか?

橋本:僕としては、演じてきた小暮が北方連合(以下、北方)に連れていかれてしまったことがとても大きかったです。今まで何作もかけて小暮という人物を作ってきたんですが、小暮は「クローンであること」以外明かされていないんですよね。初登場の「-暁乃刻-」時なんかは、クローンであることも本人は分かってなくて(笑)。

山本:そうだったね(笑)。

橋本:過去がないなりに雛森との関係を、僕と一慶で手繰り寄せてきたんですが、それが北方に記憶を消されたことによってゼロになってしまったことが、悔しかったなあ。雛森との関係性がゼロに戻ってしまった上に、小暮の気持ちとしては何も進展せずに終わったので、モヤモヤもありつつ、次が楽しみという思いでいっぱいですね。

でも実は、北方の一員となった小暮の方が芝居としてはやりやすかったんですよ(笑)。ベースがあるというか・・・明確に「目的」があるので。物語の中では記憶を消された小暮がなぜ殺戮衝動を持っているのかはっきり描かれていたわけではありませんが、僕の中ではある程度バックボーンを作ってやっていたので。

山本:雛森としては、「トワイライト」は失うものが大きかった作品だったなと思います。現メサイアの小暮という存在を失い、元メサイアのユキ(園之人/演:村上幸平)がどういう立場になっていくのか・・・これはどうなるか分からないから自分の言葉で表現するのがすごく難しいんですけど、雛森的にはすごく複雑。

橋本:僕らも先のことは知らないからね。

山本:僕は、5年間という時間とユキを失ったと思っていた雛森にとって、小暮の存在は支えになっていた部分が大きいと思っているんです。二人は、新しいメサイアとしてただ組織に充てがわれたのではなく、絆を生むきっかけが備わっている間柄だと。それゆえに雛森の小暮に対する思いは深かっただろうし、小暮がいるから自分がいるぐらいのことを感じていたと思うんですよ。それが「トワイライト」では、小暮と心でぶつかるのではなく第三者に奪われましたから、すごく辛かったですし、そこにユキも絡んできて雛森の頭の中はぐちゃぐちゃに・・・(笑)。雛森にとって、乗り越えなければいけない壁、試練が生まれたのが「トワイライト」の公演だったんじゃないかな。そういう意味では、今後どうなるのか!盛り上げに盛り上げていただきましたからね!

――次のタイトルが「黎明乃刻」であることもとても気になるのですが、「トワイライト」で役として新たにアプローチした点はありましたか?

橋本:僕、今回それがすごく多かったんです。台本上、「月詠乃刻」での小暮の成長や、小暮としても僕としても雛森に対する思いと照らし合わせた時に、どうしても納得できない言葉があったので、演出の西森(英行)さんに意見を伝えました。西森さんはそれを受け入れてくださって、台詞も「真一が考えていいよ。真一が言いたいように一回作ってみて。ただし、ちゃんと考えたものを投げてね」と任せてくれて。そうやって自分で考えてシーンを作ったり、北方に行ってからのキャラクター性や行動も作りながらいろいろ変更させていただいたりと、今まで以上にクリエイティブにやらせてもらえたことがとてもありがたかったです。

山本:僕個人としては、役者が台本を変えるようなことは、本来の役者の領域を離れてしまうことだと思っているんです。書かれていることの意図を汲み取って、それを芝居で表現するのが役者の仕事だと考えているので。でも『メサイア』に関しては、それが作品を作る上での必須条件になっているんですよね。書いている毛利(亘宏)さんも、登場人物一人一人の気持ちを細部まで追いきれないところまで『メサイア』は深くなりすぎている。でも、僕の場合だったら雛森のことは演じた分だけ全部分かっているんです。

だから、役者が領分を外れてではなく「毛利さんの描きたいビジョンのもと個々を僕らが補うことで完成するのが『メサイア』なんだ」と今回改めて感じました。「トワイライト」に関しては僕自身そこまで意見を出した部分はなかったんですが、真一やみんなが練ったものを受け取ることで「作品をより良くしよう」というみんなの意識が伝わってきて。だからこそ、次の「黎明乃刻」では自分の意見を出して、毛利さんにリライトしていただく形に持っていけたらなと思っています。

橋本:演出の西森さんも、脚本の毛利さんも、ずっと『メサイア』に関わって、現場を分かってくれているからこそできることだよね。『メサイア』での役へのアプローチは、あのお二人のもとだからこそできるアプローチでもあるのかも。

山本:そうだね。

橋本:さっき一慶が言ったように、自分の役のことを一番知っているのは自分なんですよね。演じ続けるうちに役への愛着もわくし、深みも増していくし、作品を重ねるごとに「一番理解しているのは自分だ」という自負も出てきますし。今回も、小暮を成長させ、守れるのは自分にしかできないことだと思ってこだわりました。もちろん、周りの皆さんも助けてくださるけれど、小暮を一番大事にできるのは自分だ、雛森に対しての思いも守れるのも自分だと思ったので。

山本:みんなで作品作りができるというのも『メサイア』の素敵なところだよね。

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――小暮と雛森の関係は、これまでに登場したメサイアとは少し異質な描かれ方をしてきましたよね。

橋本:シリーズ名のとおり、二人の“刻(とき)”が描かれたらすごいことになるんじゃないでしょうか。過去がはっきりと描かれてこなかった分、ここまで僕らが作ってきたものが“過去”につながった瞬間、ぞわっとくるものが作れる段階に入ったんじゃないかと。きっと、お客さんもいっぱい考えてきてくれていると思うんですよ。「この二人ってなんでこんなに共鳴し合っているのにうまくいかないんだろう?」「二人の支えになっているものは何だろう?」って。その答え合わせを見せられたら、お客さんにとって忘れられない作品になるんじゃないかな。“時間”というものが、小暮と雛森の関係を表すものではないかと考えてきたので、シリーズ完結にふさわしいものにできたらと思います。

山本:僕ら以外のメサイアは、積み重ねているんですよね。御池(御池万夜/演:長江崚行)と柚木(柚木小太郎/演:山沖勇輝)が特に分かりやすかったですが、ゼロよりも前のところから始まって、役者二人も一個一個積み上げて上り詰めた。でも、僕らはそういうのを溜め込んでいるからね(笑)。

橋本:まだ言わないのか!ってなりながら。多分、次でも何も明かされなかったらパンクしちゃうよ(笑)。

山本:そう。今表面化していることだけでの関係性を作れば作るほど、そのエネルギーはどんどん溜まっていっていますから。だいぶパンパンなので、次でドーン!と全部のピースがはまってほしいな。

――この新作の上演発表は「トワイライト」の大千秋楽で行われましたが、ファンの方の反応は伝わってきましたか?

橋本:悲鳴が聞こえてきましたね(笑)。

山本:キャー!という悲鳴に、いろんな色が混じっていた感じだったね。

橋本:喜怒哀楽だけでは言い表せない、何かが入り乱れてた(笑)。

山本:あれは何とも言えなかった~(笑)。皆さん、僕らと同じで「やっと雛森と小暮の話が来る!」と思ってくれたかな。「刻」シリーズの最終章になるということに関しては・・・ 期待なのか、不安なのか、正直計り知れないものがありますね。

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――また、先日凱旋公演が行われることも発表されました。

橋本:決まって嬉しいです!「トワイライト」に関しては、大阪が2日間だけだったから、正直寂しいなという思いがあったので。東京公演があって、大阪公演があって、また東京でできるのは単純にすごく嬉しい。

山本:俺もめちゃくちゃ嬉しい。どうしても最後に向かって、生まれるものがあると思うんですよ。凱旋公演までやらせていただけるのは、役者として一つの作品に対して向き合う時間が長く持つことができて、全部出しきれる環境を作っていただけたということなので。

橋本:毎回全力でやっているんですけど、積み重ねれば重ねるほど、自分の中で変わるものもあるんですよね。僕は「トワイライト」が特にそうで、東京でのお芝居と大阪でのお芝居にかなり変化があったんです。

山本:演劇はナマモノだから、自然と変わってくるものがあるんだよね。

橋本:ね。特に『メサイア』という作品は、そういう傾向が強い気がします。心のやり取りが多い分、日によっても違ってきますし、やっていくうちに解釈が深まることもあって。凱旋公演という形で、もう一度それを見せられる機会をいただけたことは本当にありがたいです。

――東京公演と大阪公演のように、劇場を変える間の時間というのは、皆さんの中で大きいものなんでしょうか。

橋本:休んでいる間に練って変えているわけではなく、東京から大阪に行って幕を開けたら変わっていた、という感じが強いです。

山本:僕らも、変えようと思って変えているわけじゃないんだよね。

橋本:うん、自然と変化していくんだよね。

山本:お客さんの変化も影響するのかもしれない。東京公演でも大阪公演でも、リピーターの方が多くなってくると、お客さん側の感じ取り方の変化が伝わってきたりもするんですよ。1回目の観劇での混乱を整理して、話を理解した上でもう一度観てくれた時に気づくことって、すごく多いと思うんです。凱旋公演ができるということは、単純に公演数が増えて観ていただける方の数が増えるので、お互いにその変化をしっかり感じられるんじゃないかな。

――同じ東京での公演ですが、シアターGロッソと、凱旋公演を行うなかのZERO大ホールではかなり環境も違うのも気になりますね(笑)。

橋本:そればっかりはどうなるか分かりません(笑)!

山本:いろんなシーンが変わると思いますよ~。縦長のハコと、横長のハコだからね。演出を変えるしかないね(笑)。

橋本:大丈夫かな、どうするんだろう?

山本:ホールだから音響環境も違うよね、きっと。

橋本:生声でやる(笑)?

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――「トワイライト」の終わりに、ブログで“孤独“と書かれていた橋本さんと、Twitterで背中合わせの写真を上げていらっしゃった山本さん、お二人の演じるメサイアの行方を見守りたいと思います。

橋本:小暮として、橋本真一自身としても、雛森と一慶の存在がどれだけ大きいものなのか、「トワイライト」を終えた今、改めて実感しています。ずっと支えられてきたし、守られてきたし、助けてもらっていたんだなと。次はきっと、北方に連れていかれてしまった小暮を雛森が奪還しに来てくれる、と思うんですけど・・・。

山本:「必ず連れ戻す!」って言ってたしね(笑)。

橋本:そうなるはず!そうじゃなかったらどうしよう(笑)。でも、助けられるばかりじゃなく、心と心でぶつかって、小暮としても雛森のことを救ってあげたい。それが、肉体的になのか、精神的になのか分かりませんけれど、何かしらの形で。そういう意味で、二人揃って同じところに向かえたらいいなと思います。

山本:今、真一は小暮として雛森のことを助けたいって言ってくれたけど、雛森としては、小暮を助けること・・・自分の元に帰ってきてくれたら、それだけですでに助けられているんですよ。誰かが寄り添ってくれているということは、何もしなくても救いになっている。「トワイライト」を通して、それをすごく感じたんです。山本一慶として感じたのか、雛森として感じていたのか、はっきり分からないんですけど・・・。

雛森は、5年間を失い、一度メサイアを失った人間です。自分の心に必要なものを失う恐怖や辛さを経験している。何かが欠落しているような感覚って、普通に生きていく中でも経験するものでもあるんじゃないかなと。作品を通して、その感覚に何か伝えられるものができたらと思いますし、それを題材にできるだけのものが、僕ら二人の間では出来上がっていると思っているので、皆さんに濃いものを届けられたらと思います。楽しみにしていてください。

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◆公演情報
舞台『メサイア ―黎明乃刻―』
【東京公演】9月5日(木)~9月8日(日) 東京ドームシティ シアターGロッソ
【大阪公演】9月13日(金)~9月16日(月・祝) メルパルク大阪 ホール
【東京凱旋公演】9月19日(木)~9月23日(月・祝) なかのZERO 大ホール

【原作・ストーリー構成】高殿円「MESSIAH 警備局特別公安五係」(講談社)
【脚本】毛利亘宏
【脚色・演出】西森英行

【出演】
橋本真一、山本一慶/長江崚行、近藤頌利/小谷嘉一、石渡真修、三原大樹、山崎大輝、菊池修司/大高洋夫/村上幸平、輝馬/内田裕也/藤木孝 ほか

(C)MESSIAH PROJECT (C)2019 舞台メサイア黎明乃刻製作委員会

(スタイリスト/越中春貴【atelier RIM】、ヘアメイク/工藤聡美)

(撮影/エンタステージ編集部)

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