ミュージカル『深夜食堂』衛星劇場で放送!壮一帆に聞く、見どころは?


2019年2月10日(日)午後4:00から、衛星劇場でミュージカル『深夜食堂』がテレビ初放送される。本作は、安倍夜郎が「ビックコミックオリジナル」(小学館)で連載している大ヒット漫画のミュージカル版で、2012年に韓国でミュージカル化され、その日本版が2018年秋に東京・シアターサンモールで上演された。

風変わりな深夜営業のみの食堂“めしや”にやってくるさまざまなお客たちの人間模様を描く本作。マスター役を、ミュージカルでは筧利夫が演じた。今回インタビューをした壮一帆は、常連客である“お茶漬けシスターズ”のひとり「梅」と、父との思い出を胸に抱えるアイドルの二役に挑んだ。

新宿の路地裏でひっそりといとなまれる「深夜食堂」。おなじく新宿の一角、町に馴染んだ劇場で上演された本作が、映像を通して全国の方に届く。その見どころを聞いた。

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「大事な人に連絡したくなる作品です」

――まず、どんなところがこの舞台の見どころでしょう?

観る人それぞれ、というのが一番の魅力ですね。「お母さんのエピソードに泣いた」という人もいれば、「お父さんとの関係に心が揺さぶられた」という感想もありました。おそらく『深夜食堂』には、登場人物のさまざまな人生模様が盛り込まれているので、皆さんも、どこかしらでご自分と重ね合わせることが出来たではないでしょうか。私自身も、最初に台本を読んだ時に、学生時代からの大切な友人や、人生に影響を与えてくれた印象的な人のことを思い出しました。

きっと、日常に寄り添った作品だからリアリティがあるし、心の琴線に触れるんだと思います。優しい気持ちになったり、昔いた大切な人を思い出したり、あの頃食べたあの味を思い出したり・・・。感じることが人によって違うからこそ、大切な人と一緒に観て感想を言い合うのも素敵だし、最近縁遠くなった人に連絡を取ってみたくなったりする作品だと思うんです。

――いろんな日常的なエピソードが散りばめられているので、誰もがどこかのシーンは覚えがあるのかもしれません。壮さんの心に引っかかったエピソードは?

私は二つの役を演じたのですが、そのうちの一人のエピソードである「お父さんが作ってくれた焼きそば」がすごく心に響きました。というのも、幼い頃に父が、土日のお昼ご飯に焼きそばやオムライスやチキンライスを作ってくれていたんですよ。だから「お父さんの焼きそば」は私にとってドンピシャ!舞台で焼きそばの歌を歌っていると、当時の光景が蘇ってきて切なくなりました。といっても、父は今も元気なんですけどね(笑)。

――いろんな登場人物がいて、皆さん個性的だけれど、身近にいそうな方々ばかりでした。

ナイスキャスティングだと思うんですよ。演じている方々も、ミュージカルの俳優さん、ストレートプレイの俳優さん、ミュージシャン・・・いろんなジャンルの方々がいて、そのバラバラ感が『深夜食堂』の世界観にマッチしていましたよね。違う個性の人たちが一ヶ所に集まるというのは、まさに“お店”のようです。舞台上では本当に深夜の食堂に来ているような感覚でした。

――映像として観ても、終わった後に食堂に行ってみたくなりそうです。

そうなんです!上演時にいただいたお手紙で、すごく多かった声が「行きつけの食堂を見つけたいです」というものでした。「焼きそばを家で作っちゃった」という声もよく聞きました。私も作品に出てくる焼きそば、家で作ったんですよ(笑)。そんな風にダイレクトに影響があるというのも、すごく嬉しいです。

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漫画の舞台化「しっとりした雰囲気をどう歌で表現するか」

――壮さんはもともとドラマ版がお好きだったそうですね。ミュージカルになると聞いて驚きませんでしたか?

驚きましたね。でも、ミュージカルを初演した韓国版からは、原作への強いリスペクトを感じたんです。食堂のメニューも日本のものだし、舞台美術家の方が日本人で、舞台設定は新宿と、日本そのままでした。とても原作を大事に作られているので、原作ファンの方の期待を裏切ってなければいいな。「ミュージカルもいいじゃん」とおもしろく観てくださっていたら嬉しいです。

――舞台に立つにあたって、原作は意識されましたか?

しっとりとした雰囲気の漫画なので、その質感をどう歌で表現できるかをすごく考えましたね。漫画の持つ、決して派手ではないけれども奥深い味わいを伝えられたらと、心がけていました。

でも実は、この漫画はミュージカルにしやすいのかもしれません。ミュージカルは盛り上がった感情を歌ったりと、ストレートプレイよりも気持ちの振り幅がダイナミックなんですが、演出の荻田浩一さんは「『深夜食堂』は登場人物の感情の揺れをクローズアップしやすい」とおっしゃっていました。だから、この漫画をミュージカルにしようと思いついた韓国のクリエイターの感覚は鋭いです!

――荻田さんの演出はいかがでしたか?ダークな作品を演出されることも多い方ですが。

確かに、荻田さんはアンダーグラウンド的な作品を手がけられることが多いし、その世界観のファンもたくさんいらっしゃると思います。けれど私は、『深夜食堂』のような温かかったりほっと笑えたりする荻田さんの作品が大好きなんですよ。関西出身だからか、笑いの表現に独自のこだわりを盛り込むところも味わい深いです。

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「コーラス」という初めての大きな課題

――今回二つの役を演じられていますね。それぞれの役を振り返って、いかがでしたか?

3人組のOL“お茶漬けシスターズ”の一人と、お父さんとの思い出を抱えるアイドルを演じましたが、まず、自分がアイドルになるなんて思ってもいませんでした!“お茶漬けシスターズ”についてはお客さんから「等身大のOL役は初めてですね」と言われて、「確かにそうだな」と。どちらも初めての役柄で良い経験になりましたし、長年観てきてくださったファンの方は驚かれたみたいです(笑)。

――ほかに、ご自身の中で、この舞台で新しく挑戦したことはありましたか?

宝塚の下級生ぶりにコーラスをたくさんしたことですね。当時はよく分からないながら皆で歌っていましたが、今回やってみてとても難しかったなと・・・。私は、ソロでどれだけ歌を聞かせ、お客さんを惹きつけ、自分の色を出せるかということに追求し続けてきました。でも“お茶漬けシスターズ”は3人組なので、3人合わせて一つの歌になるんです。

荻田さんと音楽監督の福井小百合さんからは「この舞台で、とにかくコーラスの感覚を学んで磨くんだ」と課題をいただきました。福井さんに言われて印象的だったことが「ブロードウェイではソリストでもコーラスをやる。ちゃんとスイッチが切り変わるんだよ」ということ。「プロなら、ソロだけでなく、コーラスになった瞬間にバンッとスイッチを入れてハーモニーを聞き分け、ピッチを揃えることができる。あなたはそれを目指しなさい」と言ってくださいました。人の声を聞きながら自分の歌もパワーダウンさせずに一つのハーモニーを作りあげるということに取り組んだ稽古でしたね。

――大きな経験でしたね。

はい。“お茶漬けシスターズ”の二人にとても引っ張っていただきました。谷口ゆうなちゃんは大学できちんと歌を学んでこられた方だし、愛加(あゆ)もしっかりとした歌唱力を持っています。安心感のある二人に甘えることなく乗っからせてもらうことができました。新しい表現に挑戦したことで貴重な引出しを得る事が出来、ソロとコーラス、またミュージカルとストレートプレイなど、舞台によって異なる表現ができる柔軟な女優になりたいという目標を再認識できました。

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宝塚トップ時代のコンビ・愛加あゆと見せる女優としての変化

――宝塚時代に相手役だった愛加あゆさん(当時トップ娘役)とは、2018年8月にミュージカル『マリーゴールド』以来すぐの共演でしたね。

愛加との共演は私にとって大きかったですね。お互い、退団して4年になりますが、共演すると「あ、こんなふうに変わったんだ」ととても刺激になるんです。もう一つ、宝塚退団後に、こんなに近いタイミングで共演するトップコンビは今までになかったでしょうから、私たちたちなりの退団後の形を提示しようという思いがありました。二人が共演するから観に来てくださるという方もいらっしゃったと思うので、そういう方々に何をお見せできるか。ただ「二人が共演したね、良かったね」とならないよう、一つの形を見せたいと、愛加と話して臨みました。

――お二人が正面切って喧嘩するシーンが印象的でした。

あれは、一番稽古したシーンでしたね。二人の喧嘩が激しいので、動きの角度やマイクの位置など気をつけることが多くて、どうしたらいいのか荻田さんの立ち会いのもと何回も稽古しました。

でも、宝塚の元トップと娘役トップが、現代のOL役で激しい喧嘩をするなんて、なかなか観ることが出来ないものだったと思います(笑)。演出が荻田さんでなかったら、私も愛加もできなかったかもしれません。二人とも荻田さんのことが大好きで信頼しているので、「荻田さんがそういう演出をするなら」と安心して飛び込めました。ただ愛加は精神的なプレッシャーがあったみたいですね。私はそもそも男役として愛加をリードしてきたので、彼女に強く出ることは難しくないけれど、愛加が私に対して激しく怒る演技をすることはあまりなかったので、緊張したみたいです。前回共演した『マリーゴールド』で感情をぶつけ合うシーンがあったことがクッションになって、強気になれたと言っていました。

実際のシーンでは、劇場の客席から悲鳴が上がったので、やっぱりずっと私たちを観てきてくださった方は驚かれたんだなあ、とおもしろかったです(笑)。長年応援してくださるファンの方々への一つの見せ場になりましたね。荻田さんの愛情を感じました。

――舞台によって関係性が変わるのは、演劇のおもしろさでもありますね。特に宝塚時代からご覧になっていた方にとっては、お二人の退団後の関係性の変化を一緒に追っている感じがするでしょう。

醍醐味ですよね。私たちも楽しみました!だからこそ、久しぶりに愛加の舞台を観た私のファンの方から「こんな女優さんになっているんだ!」と大きな反応があったんです。するとこちらも「負けてられないな」と思うし、一方で私は愛加のファンの方々にどれだけのものを提示できたんだろうと身が引き締まります。

――宝塚の舞台に比べると、劇場も作風もまったく違ったと思います。振り返ってみて大変だったことや得たものなど、この舞台ならではの出来事はありましたか?

宝塚という場所ではずっと同じメンバーと演ることが多いのですが、卒業すると常に一期一会です。共演者の方、スタッフさん、制作さんなど、いろんな方々との出会いが成長に繋がっていると実感できて、ありがたいなと思っています。

そして、すごく個人的なことですが・・・シアターサンモールは舞台上がとても狭くて、普段通りの感覚で動いたらステージから落ちてしまうんです。カーテンコールでも、二階席はないのに見上げたり(笑)。でもその分、お客さんとの距離が近くて、まるで劇場全体が本物の食堂のようでした。作品にぴったりの場所での上演だったと思います。宝塚時代からのファンの方々も「壮さんがいなかったら、こういう劇場に来る機会がなかった」と楽しんでくださった方が多くいらしゃいましたので、こうやって、いろんな形で演劇を楽しむ人の数が増えたらいいなと思います。映像では、劇場の一体感や食べ物の匂いは感じられませんが、アップで細かなところまで観られるからこそ、近くに感じていただけると思うので、ぜひ楽しんでください。

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◆作品情報
ミュージカル『深夜食堂』
【原作】安倍夜郎「深夜食堂」
【脚本・作詞】 JEONG, YOUNG
【音楽】KIM, HAESUNG
【演出】荻田浩一
【出演】筧利夫 藤重政孝 田村良太 小林タカ鹿 碓井将大 エリアンナ AMI 谷口ゆうな 愛加あゆ 壮 一帆

【あらすじ】
新宿の路地裏。看板も出さず深夜0時から朝7時まで営業している食堂「めしや」。人々はこの場所を『深夜食堂』と呼ぶ。この食堂を営むマスターは、目の上にある意味深な傷跡のせいで少し強面に見えるが、食堂を訪れたお客さんの話を黙って聞きながら、彼らが望む料理は出来るものなら何でも作って出してくれる。深夜食堂を訪ねるお客さんは様々。タネも仕掛けもないマスターの「素朴な料理」を求めて、今日も疲れた足を深夜食堂に向ける人たち。ちょっと腹拵えをしては、また明日を生きるために『深夜食堂』の扉を開ける。
(2018年10月26日~11月11日 新宿・シアターサンモール)

【テレビ初放送】
劇場への扉~素晴らしき演劇の世界~
2月10日(日)後4:00~、2月22日(金)前7:30~
衛星劇場:https://www.eigeki.com/

 

(撮影/宮田浩史)

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