ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』大倉孝二×いとうせいこうインタビュー!「肚から込みあがる痙攣のような笑いを求めて」


ナイロン100℃の大倉孝二と劇作家・演出家のブルー&スカイによるユニット「ジョンソン&ジャクソン」の新作公演『ニューレッスン』が、2018年6月21日(木)からCBGKシブゲキ!!にて開幕する。

“役に立たない”“くだらない”を突き詰めるジョンソン&ジャクソンにとって3作目となる本作では、いとうせいこうや池谷のぶえといったコメディ界の超手練れが集結。タイトル『ニューレッスン』も二人の参加を意識したものだとか。果たしてジョンソン&ジャクソンが追い求めるくだらなさとは?

ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』大倉孝二×いとうせいこうインタビュー

今度のジョンソン&ジャクソンは近代文学的!?

――ジョンソン&ジャクソンの台本はブルー&スカイさんと大倉さんが打ち合わせをしながら作っているんですよね。

大倉:そうですね。ただ、ストーリーはよりふざけたことをするための道具であって、今作でもストーリーを通して何かを伝えたいということは一切ないです。

いとう:大倉くんが書いた場面もあるんでしょ?

大倉:ええ。本当はあまり書きたくないんですけど、ブルー&スカイと脚本の話をしていると、場面によっては「これも俺が書くの?」みたいな空気感を彼は出すんですよ、脚本家なのに(笑)。だから、まあ「じゃあこのあたり俺が考えるよ」って僕が書いたりもして。

――台本を読ませていただいたのですが、今作は近代文学的な文体の台詞が多いですよね。

大倉:それは、この企画が動き出した当初僕が夏目漱石を読んでいて、ブルー&スカイに「夏目漱石、おもしろいよね」って話をしたら、ブルー&スカイも「『こころ』くらいしか読んだことないけど確かにおもしろかった」って同意してくれて。それで、打ち合わせを重ねながら、先生と書生みたいな関係性を軸にしていくのはどうかという話になったんです。

――「本郷まで散歩へ出かけた」といった台詞も出てきますね。

いとう:ただ、ブルー&スカイは本郷の辺りの空気を全く知らないと思うけどね(笑)。

――前作『夜にて』の稽古場にお邪魔させていただいたのですが、ブルー&スカイさんの演出の際の声の小ささに驚きました。

いとう:あれ、問題あるよね。僕も再三「え?」って聞き返してますから。でも、しゃべってるならまだしも、「あっ」ってなってから何も言わずジーッとこっちを見ているだけの時もあるんですよ。

――稽古場の雰囲気はいかがですか?

大倉:今回もですが、皆さん努めて、くだらない作品になるよう知恵を持ち寄ってくださっています。

いとう:皆でああだこうだ言いながら思考錯誤していく。ブルー&スカイが納得できない時は「気に入らなくても、今、無理に直そうとしなくていいんだからね」って声をかけたりして、「ああ」なんてやりとりがあったりしながら、曖昧に時が過ぎていく(笑)。

大倉:ははは(笑)。

いとう:一方で、ブルー&スカイは演出が決まると細かい。そして、その細かい演出がおもしろい。

――いとうさんはTwitterでもブルー&スカイは演出が細かいと仰っていましたよね。

いとう:そう、すごく細かい。でも、とてもチャレンジングなことを言っているから、おもしろいんだよね。「優しくしゃべりながら、でも右手はぶらぶらさせてください」みたいな相反する演出が多くて。おもしろいし、難しいです。

ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』大倉孝二×いとうせいこうインタビュー_3

いとうせいこう「コメディやコントにおいて教則本になる作品」

――いとうさんはジョンソン&ジャクソンの笑いはどんな笑いだと考えていますか?

いとう:分かりやすい筋で誰かが失敗するとか、皆が知ってるのに一人だけ知らないみたいなコメディのセオリーってあると思うんだけど、ジョンソン&ジャクソンは、本来的に論理矛盾が甚だしい台本を俳優の演技だけで成立させている。だからおもしろいんだと思うんですよね。

たまに、この台本を学生劇団がやったらどうなるんだろうって思うんです。多分、目も当てられないものになるだろうって(笑)。つまり俳優が相当な手練れじゃないとこの劇は成立しないんです。その点がさらにくだらなくって。そんなテクニックあるのに、なんでこんな無用なことをやってるんだろうって。

大倉:ははは(笑)。

いとう:「こういう笑わせ方もあるんだ」って、コント師も影響を受けるような作品だと思いますよ。だから、コメディやコントにおいても教則本になるくらいの作品になればいいなって思っています。

――笑いを考える方にとっても『ニューレッスン』な作品になると。

いとう:そう。ブルー&スカイが書くデタラメな台詞に対して俳優が猛烈なリアリティーをつけるという。コント師は演技だけで成立するようなものはリスキーだから避けて、分かりやすい構造のものしか作らないんだけど、ブルー&スカイはむしろ構造が見せないようにしてくれって言うからね。

――ブルー&スカイさんが求める世界を表現するのは難しい作業になりそうですね。

いとう:難しい。実際、僕もブルー&スカイの世界をまだ自分のものにできてないと思います(笑)。

――大倉さんはそういったブルー&スカイさんの世界をどう受け止めていますか?

大倉:基本的なベースは「大真面目に何を言ってんだ」っていうことだと思うんです。でもそういった世界を体現していくのは難しいし、疲れるんですよね。

いとう:疲れるね。

大倉:疲れますよね。なんであんな疲れるんですかね?

いとう:細かい演技まで注意しなくちゃいけないから、負荷が大きいんじゃないかな?

大倉:“不自然”なやりとりを“自然”にしなくちゃいけないから気が抜けませんよね。

いとう:そうそう。そもそも会話のやりとりが相手の発言を聞いてるんだか聞いてないんだかわからないものが多い。そういう一連を自然に振る舞うのは相当繊細な注意が必要だから、難しいし、疲れるし、当然台詞も覚えにくい。すごいテクニックがある人たちを呼んでデタラメをやっているみたいなもんだもんね。フュージョン系のミュージシャンにデタラメしてもらうみたいな(笑)。

ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』大倉孝二×いとうせいこうインタビュー_4

大倉孝二「僕とブルー&スカイ、二人の限界からすこし踏み出すことができている」

――シティボーイズやラジカル・ガジベリビンバ・システムなどに参加してきたいとうさんは大倉さんにとって自身のルーツを辿るような方ですよね。

大倉:僕はせいこうさんの孫世代だと自分で思っているんです。

いとう:そうだよね。僕らがいて、その後にケラリーノ・サンドロヴィッチがいてね。

大倉:だから、僕もブルー&スカイも、いとうさんに「おもしろい」と思っていただきたいという緊張感があって。ブルー&スカイなんか緊張に押しつぶされている部分もあるんですけどね(笑)。

いとう:そうなんだ(笑)。

大倉:そもそも、今回は、僕とブルー&スカイだけじゃ生み出せない“くだらなさ”をいとうさんや池谷さんから教わりたいと思って始めたところがあるんです。そして、狙い通り稽古場では「こうしたらよくなるんじゃないか」という意見が忌憚なく言える雰囲気が出来ていて、まだ結論めいたことは言えないんですけど、本当に出演していただけてよかったなって思います。おかげで僕とブルー&スカイ、二人の限界から少し踏み出した作品になっているんじゃないかと思います。見応えのある作品になっているんじゃないですかね。

いとう:みんな腹に一物を抱えて現れるから、だらっと見れてしまう場面がない。見終えたら、何にも心に残らないけどなんか大変だったなとは思っていただけるかと。このラーメン屋は具が多かったなあ、味は覚えてないけど、みたいな(笑)

――満腹感がありそうですね。

大倉:それが幸福感と直結するかどうかは、別の話ですけどね(笑)。

ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』大倉孝二×いとうせいこうインタビュー_2

より純度が高まったジョンソン&ジャクソンの「なんじゃこりゃ」

――ジョンソン&ジャクソンとして、着実に公演回数を重ねていますが、目指す方向などはあるのでしょうか?

大倉:目指す方向というほどのことは意識していないのですが、あんまり笑いやすい笑いはもういいかなって思っています。それはお客さんを突き放すという意味ではなくて。前作までは意識的に笑いやすい場面を作ろうとしていたのですが、今回はそういう場面が少ないかもしれません。

ただ、稽古場で自分の出番じゃないシーンを見ていて、「なんじゃこりゃ、こんなものは見たことない」って純粋に楽しんでしまって。ジョンソン&ジャクソンは僕とブルー&スカイが楽しめるということが最重要で、だから過去作より笑いの部分が特殊になってきている気がします。そして『ニューレッスン』のような作品を前に、人が何を思ってくださるのか知りたいと思っています。

――なるほど。大倉さんはお二人に「どうおもしろがってもらうかも大事」とおっしゃっていましたが、いとうさんは、どうおもしろがっていますか?

いとう:もともとジョンソン&ジャクソンのポーカーフェイスな笑いは僕の好きな笑いだから、自分もその中にいられるのは楽しいわけですよね。今、大倉くんが表面的な笑いを捨てていくって言っていたけど、それって僕なりの体感的なことで言うと、喉から上で笑う笑いはいらないってことなのかなって思うんです。それよりもお客さんがブーって吹き出しちゃうような、牛乳を口に含んでおいて吹き出しちゃうような“肚から込み上がる痙攣のような笑い”を求めているんだと思うんです。

そして、僕もそんなジョンソン&ジャクソンが求める笑いをとてもおもしろいと思っています。今回はいくつそういう笑いが取れるかなあ。お客さん全員に牛乳配ってもいいと思うんだよね(笑)。

大倉:(笑)。

いとう:肚に笑いが蓄積されていって、それが漏れ出た瞬間、腹の底からブーっと吹き出してしまう。一度吹き出たら止まらなくなると思いますよ。そしてこういう笑いって中毒性があるものだから、見に来てくださる方は気をつけて来てくださいってことですね。

大倉:いつもの通り、何のためにもならないことを突き詰めていますから。観ていると、だんだん脳が痺れてぼんやりしてくるんですけど、それを恐れずに、笑わなくちゃいけないとかも思わずに、変なものを見る感覚で来ていただければ嬉しいです。

ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』大倉孝二×いとうせいこうインタビュー_5

◆公演情報
ジョンソン&ジャクソン新作公演『ニューレッスン』
【東京公演】6月21日(木)~7月1日(日) CBGKシブゲキ!!
【大阪公演】7月6日(金)~7月8日(日) ABCホール

【作・演出】
ジョンソン&ジャクソン(大倉孝二、ブルー&スカイ)

【出演】
大倉孝二、いとうせいこう、ブルー&スカイ、小園茉奈、池谷のぶえ

ジョンソン&ジャクソン『ニューレッスン』

(撮影/大宮ガスト)

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