『岸 リトラル』小柳友×鈴木勝大インタビュー「作品の素晴らしさをどう伝えるか」


2018年2月から3月に上演される『岸 リトラル』。本作は、2014年と2017年にシアタートラムで上演された『炎 アンサンディ』で文化庁芸術祭賞大賞や読売演劇大賞最優秀演出家賞など数多くの演劇賞に輝き、大きな話題を呼んだレバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドの作品。演出は、『炎 アンサンディ』と同じく上村聡史が手掛ける。

“約束の血4部作”の1作目と呼ばれる本作に、『炎 アンサンディ』に続いての出演となる小柳友と、今回がムワワド作品初挑戦となる鈴木勝大に話を聞いた。

『岸 リトラル』小柳友×鈴木勝大インタビュー

演劇界に衝撃を与えた『炎 アンサンディ』

――お二人は、これまでのご共演や面識は?

小柳:お会いするのは、(インタビュー時で)2回目かな?

鈴木:そうです。小柳さんがご出演なさっていた『炎 アンサンディ』を拝見した時に楽屋でご挨拶をさせていただいたんですが、ほとんど初めましてなんです。

――前作『炎 アンサンディ』を観ての感想はいかがでしたか?

鈴木:意識的にも無意識的にも、舞台を観に行くとまずセットが目に入るじゃないですか。それが一つ目の衝撃でした。床面だけで、ほとんど何もセットがなく、素舞台の状態だったので、ここで一体何が起こるんだろうと・・・。客席の作りも少し変わっていて、三面客席になっていて、それも印象的でした。

小柳:そうでしたね。観る方からすると、ちょっと驚きですよね。

鈴木:その時すでに『岸 リトラル』の台本も読ませていただいていたので、同じ劇作家さんの作品ですし、どういう発想でああいった世界観が描かれるんだろうと思って観ていました。それで舞台として実際に目の当たりにすると、純粋にすごい作品だと感じました。暗転も転換もなく、見える世界が変わっていって、シーンを重ねるごとに力強くなっていく。自分が予想していたものをはるかに超えたものを観たという感覚でした。だから、出演することが思わず怖くなりましたね(笑)。

――小柳さんは、実際にムワワド作品を上村さんの演出で演じてみて、いかがでしたでしょうか?

小柳:皆さんと舞台を作っていく感覚がとても楽しかったです。この舞台を観客として生で観たいなって、出演していて思った作品でした。何も知らない状況の中で観ることができたらとも思いましたし、すごく感動するだろうなと思ってやっていました。

『岸 リトラル』小柳友×鈴木勝大インタビュー_5

父にまつわる重い過去を背負った二人

――小柳さん演じる“父を殺してしまった”アメ、鈴木さん演じる“父の存在を知らない”マシ。前回の『炎 アンサンディ』が「母と子の物語」であるのに対し、今回の『岸 リトラル』は「父と子の物語」ですね。それぞれの役柄に関してはいかがでしょう?

鈴木:登場人物のメインの一人が死者であり、自分の人生を俯瞰して撮影しているかのように描かれていく世界観。台本を読む段階で、この『岸 リトラル』の世界にものすごく没頭しました。夢中になったというか、「止めたらダメだ、これはこのまま読み切らないと」という気持ちに駆られたんです。

――物語のどういった部分がそうさせたのでしょう?

鈴木:読み終えたばかりの時は、そんな自分の気持ちを言語化できなかったんですが、少し時間が経って思ったのは、描かれているのはまったく違う世界だけれど、実際の自分と通じるような部分があったということでした。どんな世界にいても通じる親子・人間関係の葛藤だとか、命のルーツやその意味だとか。僕の演じるマシは、自分の中で疑問を投げかけて、答えを出そうとして、でも出なくて・・・という、生きている世界や時間は違っても、誰しもが持つ命題を抱えている役だなと感じました。稽古を通してその感覚を、自分の中でより深めていきたいなと思います。

――小柳さんは、2度目のムワワド作品をどう捉えていらっしゃいますか?

小柳:物語全体としては、前回出演させていただいた『炎 アンサンディ』とも通じる部分がたくさんあって・・・。彼が戦争を通して伝えたいものが、どう人の心に刺さるのか、こちらからどう刺そうとしているのか、節々に見える気がしたんです。「こういうことが伝えたいんだ」という意図がより深く分かるようになってきたと思います。そんな方の作品を、またやらせてもらえるっていう喜びが大きいですね。

――小柳さんの役どころは“死”という重いテーマを背負っていますよね。

小柳:そうですね。(アメは)とんでもない人生を生きている人だと思うんですけど、それを自分がどうリアリティを持って具現化していけるか。すべて、そこにかかっていると思います。「お父さんを殺してしまった」ということを、口先だけの上っ面ではなくやっていきたい。それは『炎 アンサンディ』の時に、麻実れいさん演じる母が自分が見た光景をひたすら語るというシーンがあったんですが、そこで「この人は本当に人が目の前で殺されるところを見てる」と感じたんです。なかなかハードルは高いと思うのですが、それと同じことを、自分もこの作品で表現できないと意味がないなと思っています。

――アメもマシも複雑な役どころですが、お二人は一役ではなく、他にも複数の役を演じられるんですよね。

鈴木:そうなんです。シーンによっては、違うジャンルの舞台に出てきそうな役だなっていう役もあったりして・・・。振り幅が大きいんです。人によって、生きているポリシーって違うじゃないですか。だから、違う人物を限られた時間の中で演じ分けるというのは、3時間の中で何度かポリシーを変えて舞台に出るということなので、難しそうだなって思っています。僕自身はこういった台本も、上村さんとご一緒するのも初めてなので、手探りの状態で稽古に入っていく感じになるだろうなって思っています。

『岸 リトラル』小柳友×鈴木勝大インタビュー_3

刺激的な稽古場と観客と一体となる劇場

――小柳さんは、すでに上村さんとご一緒されていますが、上村さんの現場ならではの稽古の特徴や魅力とはどんなものでしょうか?

小柳:自分も前回はいっぱいいっぱいだったんですが・・・(笑)。繊細に、役を一緒に作ってくださる方なので、上村さんの色に染まっていくことが重要だなと思いました。僕自身は、前回は導いていただくことが多かったので、今回は自分でもこう表現したい、やってみたいという部分をディスカッションしていけたらなと思っています。

鈴木:演出家さんと密に関わって作品作りをしていけるのが舞台の醍醐味だと思うので、怖さも緊張もありますが、楽しみにしています。自分の力だけではいけないところに引っ張ってくださったり、自分すら知らない部分を引き出して下さったり、それに呼応して自分も変わったり・・・。そういった“奇跡”のような瞬間が、上村さんの先導によって、稽古場や本番で生まれていくことを願っていますし、それに応えられるように励みたいです。

――鈴木さんから“舞台の醍醐味”というお言葉がありましたが、小柳さんもご自身でユニットを持たれていたり、近年は舞台との関わりが深いですよね。ズバリ、小柳さんが思う舞台の魅力とはなんでしょうか?

小柳:これはぜひお伝えしたいことなんですが、この『岸 リトラル』という作品、チラシ(ほぼ黒で塗りつぶされた仮チラシ)を見ると重そうじゃないですか?きっと舞台に馴染みのない方は、そう感じると思うんですよ。・・・でも、違うんです!舞台って、観にさえ来れば、どこかでおもしろみを感じたり、自分の中に得るものが絶対見つかると思うんです。

『炎 アンサンディ』の時にも学生さんが大勢いらっしゃった回があったんですよ。その時は、物語が進むにつれて、無音の間の中、舞台上にも伝わってくるくらいの大きな“生”の反応を感じたんですね。そういう衝撃ってこちらにも分かるもので、すごく嬉しいですし、若いうちにそういう経験をすることは貴重だと思うんですよね。

――舞台のおもしろさを感じた瞬間だったでしょうね。

小柳:休憩の時、ああでもないこうでもないとすごく盛り上がっていたと聞きました。演出助手の方に後から教えてもらったんですが、「小柳友って、あの人ドラマ出てた人だよね?」とか言われてたらしいです(笑)。でも、とっかかりは何でもいいから、ぜひ若い世代にこういう舞台を観てほしいです。年齢や経験は関係なく、目の前の人に何か伝えられたんだと肌で感じられる。それは、舞台だからできることだと思ったんです。

鈴木:僕も、実際に作品を作りながら観せるっていうのは舞台ならではだなって思います。言ってしまえば、その公演が終わるまで役者も完成品を作っている最中なんですよね。その中で、観てくださった方たちがそれぞれどう感じてくださったか、演じている側が今日の舞台をどう感じているか。一方的ではなく、演じる側と観る側の間に、ある種の一体感が生まれる感覚があって。その不安定さの共有も舞台の魅力であり、おもしろさだと思います。

『岸 リトラル』小柳友×鈴木勝大インタビュー_4

――共演者の方の印象やこの座組で楽しみにしていることは?

小柳:僕は、岡本健一さんとまたご一緒できるというのがすごく嬉しいですね。本当にストイックで、探究心の塊のような方で・・・。僕は、一つ一つの役を深めていく岡本さんの背中を見て育ってきたと思うので、そういう意味でも今回またありがたい機会をいただいたなと思っています。あとは、前作で双子の姉役だった栗田さんともまたご一緒できるのが楽しみです。ムードメーカーで、すごく現場を明るくしてくださる方なんですよね。

鈴木:僕は、皆さん初めましてなのでもちろん不安や緊張はありますが、今日、小柳さんから作品や現場の雰囲気など、いろんな話を聞かせていただいたので、稽古に入るのがより楽しみになりました。頼りにさせてもらいます(笑)!

小柳:これを機に仲良くなりましょう(笑)!

――では、最後に上演に向けて意気込みをお願いいたします。

鈴木:この作品では「父と息子」という関係が、1パターンだけでなく、いくつものケースで描かれます。起きたことによって感じた父への思いや、それをきっかけに感じる葛藤、自分のルーツへの疑問や思い。どんな方でも生きている限り、自分の中にある命題に触れる部分があると思うので、いろんな方に見ていただきたいです。

小柳:先ほど、前作を観に来た学生の話をしたのですが、この作品も世代問わずいろんな方に観ていただきたいですね。この素晴らしい作品に関われる感謝の気持ちと、この作品、この役柄に命をかけるという覚悟でおります。作品の素晴らしさをどう伝えるか。そのことに対して、鈴木くんや、座組の皆で悩んでいけたらと思います。そしてそれが、舞台の魅力として感じてもらえるものになればいいなと願っています。

『岸 リトラル』小柳友×鈴木勝大インタビュー_2

◆作品情報
『岸 リトラル』
2月20日(火)~3月11日(日) シアタートラム

【作】ワジディ・ムワワド
【翻訳】藤井慎太郎
【演出】上村聡史
【出演】岡本健一 亀田佳明 栗田桃子 小柳友 鈴木勝大 佐川和正 大谷亮介 中嶋朋子

(撮影/エンタステージ編集部)

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