日本総合悲劇協会vol.6『業音』松尾スズキ×平岩紙インタビュー!「人間本来の姿が猥褻ってどういうことなんだろう」


2017年8月より日本総合悲劇協会 vol.6『業音』が上演される。「日本総合悲劇協会」とは、人気劇団「大人計画」の松尾スズキが作・演出をするプロデュース企画。本作は、2002年に日本総合悲劇協会の3作目として荻野目慶子を主演に迎え上演されたものの再演で、とある演歌歌手の深い人間の“業”の連鎖が描かれる。今回の再演では、荻野目が演じた主人公役を、大人計画の平岩紙が演じることでも話題を呼んでいる。

日本総合悲劇協会vol.6『業音』松尾スズキ×平岩紙インタビュー

『業音』は15年の時を経て、如何なる進化を遂げるのだろうか?作・演出・出演の松尾スズキと主演の平岩紙に聞いた。

15年の時を経て普遍化した悲劇

――荻野目慶子さんが主演された2002年の初演以来、15年振りの再演となりますが、再演が決まった経緯を教えてください。

松尾:5年ほど前から『業音』の再演を考えていたんです。15年経てば、物語が普遍化してくるように思えて。それで、荻野目さんが演じた役のキャスティングを考えたんですけど、なかなか誰も受けてくれなくて。それで「平岩どうなんだ」って話をしたら、彼女が「そこまでいうなら・・・」と渋々承諾してくれたんです(笑)。

平岩:ふふふ。

松尾:平岩も、随分ポップな存在になってきましたからね。そのイメージを打ち壊すような役をやってほしいと思っていますし、それだけの実力があると思っています。2012年に『ふくすけ』(初演は悪人会議プロデュース、1991年/再演は日本総合悲劇協会vol.2、1998年)を再々演した時、平岩には難しい役をやってもらったんですけど、その出来が非常に嬉しくて、いつか「平岩を主役に何かできないか」と考えていたんですよね。

――初演時に荻野目さんの演じられた役を、今回演じることになりますが、心境は如何ですか?

平岩:私は、どんな役だろうと「自分は作品の一部だ」と考えているので、今回も特別な気負いはないですが、初演時の15年前から時が経って、今の自分には何ができるのか挑戦の舞台だと考えています。

日本総合悲劇協会vol.6『業音』松尾スズキ×平岩紙インタビュー_2

「最近の平岩は・・・楽器を奏ではじめた」(松尾)

――平岩さんの俳優としての成長を、松尾さんはどのように感じていますか?

松尾:どんな成長をしているかって具体的に言うのは難しいけど、最近平岩は「演技をするのが楽しくなってきた」みたいなことを言っていて、それは俺も感じますね。
例えば、ミュージシャンが演奏を楽しめるようになるのって、自分の奏でたい音を奏でられるようになってからで、それまでは結構苦しいと思うんです。平岩はその苦しい段階を乗り越えて、自分イメージ通りの表情や声を出せるようになってきているなって。つまり最近の平岩は・・・楽器を奏ではじめた(笑)。

平岩:昔は自分のイメージする声が出なかったり、演技をするのに苦しみがあったんです。でも、最近は自分の想像する声や表情が出来るようになってきて、演じることがとても楽しくなってきたんです。

松尾:だから、今回の平岩は難しい譜面にチャレンジするミュージシャンのようなものかな。

平岩:(笑)。

松尾:だってね、今の能力でできることを大人計画でやってもつまらないでしょ?『業音』はシュールとリアリティを行ったり来たりする作品なので、主役の平岩によって出来が変化する難しい芝居なんですよ。

平岩:がんばります。

――松尾さんにとって『業音』はどんな位置付けの作品なのでしょうか?

松尾:日本総合悲劇協会で『業音』の一つ前に上演したのが『ふくすけ』なんですが、これは「笑いがない芝居でどこまで観客に通用するか」ということを自分に課した作品だったんです、まあ、結果的に笑いは入ってしまったんですけど。それは『キレイ~神様と待ち合わせした女~』(2000年初演)という商業的な演劇を上演した揺り戻しでもあって。
マスに開いてきた自分の作品を、小さなところで凝縮した形でぶつけて『キレイ』だけが松尾の本体じゃないよというのを示さなくてはいけないなと思っていたんです。『業音』も『ふくすけ』のような悲劇のカタストロフィーを別の形でやってみたいなと思って作った作品でした。なので、位置付けとしては全く笑えないものを書いてやろうという思いが強い作品ですね。

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身体が動かなくなって意気込みとは裏腹に洗練されていく

――初演時の『業音』では「9.11」など2002年の事象が反映された台詞が多くあったように思います。再演に向けてリライトはどの程度されるのでしょうか?

松尾:今回は固有名詞で何かを指し示すような台詞は減らしていく予定です。もう少し普遍的な台本にしたいと思っているので。初演から15年経って身体も動かなくなっているので、その分深みが増して、意気込みとは裏腹に洗練されていくだろうと思いますね。

――今回のツアーではフランス・パリでの公演も控えていますが、どんな反応を予想されますか?

松尾:『マシーン日記』(2013年)をパリで上演した時に出口調査をしたのですが、結構みんな深いところまで解釈してくれていて、中でも「こんな芝居観たことない!」という反応が多かったので、おもしろいか、おもしろくないかは置いておいて、パリのお客さんが初めて見るような演劇を見せられるのではないかと思っています。パリっていうと、平田オリザさんや岡田利規さんのような静かな演劇がポピュラーなので。

――今の日本の演劇界では「大人計画」のポジションが相対的に変化していると感じますか?

松尾:どうなんだろうね~。あんまり考えたことないけど、居心地が良いとは思わないですよね。賞も取れないし(笑)。宮藤(官九郎)がいっぱい賞を取っているから、取れてるように見えるけど、実際はあまりないんですよ。賞は・・・ほしいですよね、お金貰えますしね(笑)。

――平岩さんも、今回主演として賞を狙うチャンスなのでは。

松尾:おお!ぜひ取って欲しいね。

平岩:私はあんまり賞を意識したことないんですけど(笑)。

松尾:多分、俺らは賞のような体制を批判しているように思われているんじゃないかな。本当は素直に欲しいと思っているんですけどね(笑)。

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やらなくていいことをやってしまう、人が持つ悲劇の根本

――平岩さんは松尾さんの作品のどのようなところに魅力を感じますか?

平岩:台詞ですね。声に出したくなるような台詞なんですよ。詩みたいにリズムがあって覚えやすくて、綺麗で。また、松尾さんが演出してくださる変わった動きをしながら台詞を発すると、より魅力的になるんです。あれは不思議ですね。

松尾:台詞が写実的ではない飛躍のあるものだからね。当然肉体の運動もデフォルトされたものになっていかなくちゃいけないと思っているんです。大事なのはリアリティではなく、説得力なので。その台詞に説得力さえあればどんな変な動きをしたって、それは成立する。だから演出する上で一番に考えているのは説得力をもって芝居が成立しているかってことかな。皆川(猿時)くんと宮崎(吐夢)くんの勝手な動きには呆れかえる時が多々ありますけどね。

平岩:(笑)!

――松尾さんが描く作品には、人の持つ「業」が悲劇的にも喜劇的にも描かれているように感じます。松尾さんにとって悲劇の根本とはなんでしょうか?

松尾:「やらなくていいことをやってしまう」という人間の業に尽きると思っています。例えば、もともとの人類には“毛”という、時に痛みを緩和してくれる便利なものがあったのに、進化の過程で全部抜け落ちて頭だけになってしまった。まずそこに人間の歪さを感じるんですよ。

『キャスト・アウェイ』という映画でトム・ハンクスが事故で海に流され無人島に漂着するんですけど、そこで最初にトムがすることは食べ物を探すことじゃなくて、靴を作ること。でもそれって、生き物として脆弱だなって思うんです。
さらに靴のことで言うなら、靴を作ればそこにデザインが考えられ、文化が広がっていく。そんな人間の欠落感と過剰な自分への贈与がさらに次の欲を生み・・・という、良い循環なのか悪い循環なのか分からない“業”の中で生きている人間のやるせなさ。そこに悲劇性を感じますし、その果てにある希望というのはよく考えています。人間社会では裸で歩いていたら逮捕されますからね。生まれたままの、本来の姿が猥褻ってどういうことなんだろうって(笑)。

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◆公演情報
日本総合悲劇協会 vol.6『業音』
【作・演出】松尾スズキ
【出演】
松尾スズキ、平岩紙、池津祥子、伊勢志摩、宍戸美和公、宮崎吐夢、皆川猿時、村杉蝉之介、康本雅子+エリザベス・マリー (Wキャスト)

【東京公演】8月10日(木)~9月3日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト
【名古屋公演】9月13日(水)・9月14日(木) 青年文化センター アートピアホール
【福岡公演】9月16日(土)~9月18日(月・祝) 西鉄ホール
【大阪公演】9月21日(木)~9月24日(日) 松下IMP ホール
【松本公演】9月29日(金)~9月30日(土) まつもと市民芸術館 実験劇場
【パリ公演】10月5日(木)~10月7日(土) パリ日本文化会館

【チケット発売】6月3日(土)10:00~

【公式HP】http://otonakeikaku.jp/2017go_on/

日本総合悲劇協会vol.6『業音』松尾スズキ×平岩紙インタビュー_5

(撮影/大宮ガスト)

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