ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹にインタビュー!「男同士の絆をここまで描いた作品は他にないかも!」


2014年の韓国版初演以来、空前の大ヒットとなったグランドミュージカル『フランケンシュタイン』がいよいよ日本に初上陸!2017年1月より日生劇場にて幕を開ける。

“天才”ビクター・フランケンシュタインと“鬼才”アンリ・デュプレとが織りなすドラマティックな展開と、主要キャストが一人二役を演じる構成が話題の本作。エンタステージではキャスト5人からそれぞれ日本初演にかける思いや意気込みをじっくり聞いた。

第三弾として登場いただくのは、アンリ・デュプレと怪物の二役を演じる加藤和樹。彼が抱く“アンリ像”と”怪物像“とは――。

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー

新たな世界をカンパニー全員で創っていきたい

――加藤さんは韓国で『フランケンシュタイン』の舞台をご覧になったんですよね。

9月に行ってしっかり観劇してきました。とにかく向こうの方たちは、ストレートな感情をメロディに乗せるのが巧いですよね。『フランケンシュタイン』の音楽はドラマティックでありながら、非常に難解な部分も多いんです・・・1曲の中でテンポが変わったり、転調したと思ったらまた戻ったりと、かなり複雑ですし。歌稽古に入って、その難解さや複雑さを痛感しているところです(笑)。

――今、音楽が“複雑”というお話がありましたが、やはりアンリの心情にリンクする部分が大きいのでしょうか。アンリの胸中は常に揺れている印象です。

ミュージカルだと歌は独立したものではなく、台詞と同じ意味合いを持ちますよね。台詞の場合、主に言葉で心情を語りますが、歌になるとそこにメロディやテンポ、曲調が加わり、さらに細かい部分の表現も出来るように思います。

『フランケンシュタイン』でいえば、アンリの複雑な心境や、ビクターへの思いや熱といった感情が、音楽でもとてもビビッドに現れているのではないかと。

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー_2

――韓国版をご覧になってどんな感想を持たれましたか。

すごい迫力だな、と思いました。今でも韓国のオリジナル版を思い出すことはあるのですが、今回はあくまで演出の板垣(恭一)さんを中心とした日本版ですので、新しい世界をカンパニーの皆で創っていきたいです。

――アンリと怪物の二役を演じることについてはいかがでしょう。

アンリはひとりの人間として確立されたキャラクターです。それに対して怪物は、赤ちゃんのような”無“の状態から次第に成長し、感情を持つようになる・・・その変化を、人間とは違う存在としてどう見せていくかが、怪物を演じる上でひとつのポイントになると考えています。声の出し方や、身体の使い方も重要になると思いますし。

韓国ではパク・ウンテさんが演じる怪物を観たのですが、怪物として、何とも言えない独特の雰囲気があり、それが良い意味でとても怖かったんです。そういう空気感のようなものは参考にさせていただきつつ、オリジナルの怪物像をこれから構築していきたいです。

――アンリとビクターの関係性も『フランケンシュタイン』の大きな肝のひとつだと思いました。

アンリにとってビクターは憧れの存在であり、ある時期からは尊敬する上司となります。ふたりの間には、他の誰にも入り込めない強い絆があるんでしょうね。

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー_3

――とは言え、当初アンリはビクターの提案を悩みながらも断りますよね。

アンリは“生命”に対して自分なりの定義をしっかり持った人物です。ですから、ビクターの提案や彼の話の全てを受け容れることはできない・・・でも、何か役に立てるのであれば、自分の身を犠牲にしてもやり遂げたい・・・そんな風に覚悟を決めたのではないかと。そこまで他者と信頼関係が築けるのって、稀有なことだと思うんです。ただ、この作品が面白いのは、その部分がただの“美談”として描かれるのではなく、観た方の心の中に「他にやり方があったのではないか・・・」という疑問の石をひとつ投げ込むところなんですよ。

――そのアンリの“一部”を持つ怪物が、ビクターに対して起こす行動がとても切ないです。

怪物のビクターへの怒りは「なぜ、俺をこの世に生み出した!」というものなのでしょうね。怪物にしてみたら、世界に誕生した瞬間から、辛いことや嫌なことしかなく、自分が何者なのかもわからない。そんな苦しみをつねに背負っていたら、いくらアンリの一部を持っているとしても、創造者であるビクターを憎み、殺したいと思うのは当然の感情なのかもしれません。

怪物の見た目は“異形”で、最初は言葉も何の感情も持たない“化け物”なんです。善悪の判断もないまま、見世物小屋で戦うことを強要され、ボロボロになりながら出会った少女とも引き裂かれて孤独の闇に突き落とされる・・・本当に哀しい存在だと思いますよ。

出演作品の共通キーワードは“友情”

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー_4

――演出の板垣さんとは二度目のタッグになります。

2009年に舞台での初主演を務めさせていただいた『罠』というストレートプレイでご一緒して以来ですね。

――『罠』は最後にどんでん返しがあるミステリーでした。二回目ということで、板垣さんの作品作りやお稽古場での方向性などは良くお分かりになっていらっしゃる?

何となくは分かる気もしますが、あれから年月も経ちましたし、ミュージカルとストレートプレイでは稽古の進め方も違ってきます・・・今回はどうなるでしょうね(笑)。板垣さんにとっても『フランケンシュタイン』の演出をなさることは、ひとつの挑戦だと思いますので、そこに僕らもしっかり乗って日本初演版を一緒に創っていきたいです。

――今年、帝劇初主演となった『1789 -バスティーユの恋人たち-』、初演から役を変えてのご出演となった『真田十勇士』、そして本作『フランケンシュタイン』と“友情”がキーポイントになる作品への参加が続きます。

ああ、言われてみると・・・本当にそうですね(笑)。大事だと思いますよ、男友だちとの関係って。変な話、男女の恋愛より強い絆もあると思いますし。

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――そこは女性がなかなか立ち入れない部分です(笑)。

そうなんですよ、女性の方にはなかなか理解していただけないんですが(笑)、やっぱり男友達に対して「俺、こいつのためなら何でもやれる」って思う気持ちは代えがたいんです。僕は地元が名古屋なんですけど、子どもの頃からそういう付き合いをしている友人もいますし、それとはまた違いますが、『真田十勇士』で共演させていただいた中村勘九郎さんは「この人に着いていく!」「この人のために芝居をしたい!」と強く思わせてくれる存在の方でした。勘九郎さんに対してはオフステージで「もしかしたら、ビクターとアンリはこういう関係性だったのかもしれないな」と感じたこともあったくらいです。

ミュージカルって、どうしても女性のお客さまがメインになるんですが、この作品は男性が観ても、絶対に共感できると思います。“友愛”って言うのかな・・・男同士のそういうモードをここまでしっかり描いているミュージカルって実はめずらしい気もしますし・・・深い作品ですよ。

帝劇初主演で得た糧

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー_6

――今年の加藤さんの活躍についても少し振り返らせてください。やはり『1789 -バスティーユの恋人たち-』に主演なさった経験は大きかったですか。

帝国劇場でセンターに立つ・・・まさか、自分の身にこんなすごいことが起きるなんて、これまで考えもせずに生きてきました。5年前の自分が見たら、心底びっくりすると思います(笑)。本当に、人生、何が起きるか分からないですね。

『1789 -バスティーユの恋人たち-』で帝劇主演を務めさせていただいたことは、僕にとっても本当に大きい経験でした。ただ、これで満足するのではなく、一度立たせていただいたからには、また別の作品でも挑戦したいと思いますし、新たなチャレンジが始まったのだな、と捉えています。

――開幕前のインタビューでうかがった“赤い靴”のお話の反響がとても大きかったのですが、今回、靴の色で小池先生から注意が出たことは?

ないです(笑)。今回は、ダンスの場面が多いこともあって、早い段階で本番用のブーツを履いて稽古していましたので、赤い靴を履く余裕もありませんでした(笑)。『1789~』は衣裳も凝っていて、その点でも着こなしや身のこなしなど、勉強させていただきました。

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー_7

関連記事:ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』ロナン役の加藤和樹にインタビュー!「僕、足の遅いうさぎなんですよ」

――『1789 -バスティーユの恋人たち-』では小池徹平さんとWキャストとしてロナン役を演じられましたが、加藤さんはWキャストのお相手の方とどういう関係をお作りになることが多いのでしょう。

僕はわりと、一緒に役を作っていきたいし、相手が嫌だと思わなければ役柄や作品の解釈についてもどんどんコミュニケーションを取りたい方ですね。Wキャストの良いところは、相手の演技を見て、自分の役を客観的に捉えられる点だと思うんです。ひとりだと見えないことも分かったりしますし。あの時は、徹平さんとも良く話をして、お互いオリジナルになる部分は保ちながら、芯のところで一緒にロナンという役を立ち上げていった感覚でした。動画を撮影し合って、振りや動きの間違いを指摘し合ったりもしましたね。

――ありがとうございます!『フランケンシュタイン』で始まる2017年・・・加藤さんにとってどんな年になりそうでしょうか。

『フランケンシュタイン』の大きな見どころのひとつが、主要キャストが全員一人二役を演じることだと思います。ビジュアル撮影の時、中川晃教さん、柿澤勇人さんのジャック役でのハジけっぷりはすでにすごかったですよ(笑)。友情が憎しみに変わって悲劇が起きるという濃密なテーマの作品ですが、違うキャラクターへの役変わりという点でもお楽しみいただけるのではないかと。

僕個人で言えば、特に壮大な野望はありませんので(笑)、目の前にあることを一歩一歩着実にやっていきたいですし、チャンスがあればいろいろな作品に挑戦したいとも思います。ライブ活動でも海外を含め、いろいろな場所にお邪魔出来たら良いですね。

ミュージカル『フランケンシュタイン』加藤和樹インタビュー_8

太陽と月とで言えば“月の人”なのかもしれない。対峙するたびに、穏やかな表情と柔らかな語り口で、場の空気を優しく包む。

加藤和樹に初めてロングインタビューした際、彼の口から出た“足の遅いうさぎ”というキーワードが非常に強く心に残った。冷静に自分と周囲の状況を判断しながら、その場にすっと立てる胆力があるのだろう。

今年、加藤は『1789 -バスティーユの恋人たち-』ロナン役で帝劇の0番に立った。「5年前の自分からは全く想像できなかった」と語る彼が、‘17年最初に演じる『フランケンシュタイン』アンリと怪物の二役で、どんな姿を魅せてくれるのか・・・期待は高まるばかりである。

◆ミュージカル『フランケンシュタイン』
2017年1月8日(日)~1月29日(日) 東京・日生劇場

(撮影/高橋将志)

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