新国立劇場『ヘンリー四世』浦井健治にインタビュー!「最初の頃は“お地蔵さん”みたいだったと言われました(笑)」


新国立劇場にて『ヘンリー六世』(2009年)、『リチャード三世』(2012年)に続く、シェイクスピアの壮大な歴史劇が上演される。本作『ヘンリー四世』でハル王子(のちのヘンリー五世)を演じる浦井健治に話を聞いた。自身の出世作ともなったヘンリー六世の偉大な父、ヘンリー五世の若き時代を生きる意気込みとは―。

新国立劇場『ヘンリー四世』浦井健治インタビュー

“偉大な父”・・・実はヤンキー風味の日々も!

――浦井さん、新国立、鵜山(仁)さん、シェイクスピアというと、やはり2009年の『ヘンリー六世』が真っ先に浮かびます。

『ヘンリー六世』は僕にとって大切な作品のひとつです。今回、また鵜山さんとご一緒させていただくにあたり、いろいろなことを思い返しているのですが、当時、鵜山さんの前で台詞を読ませていただく機会があったんです。台本を渡されて「どの場面でも好きな台詞を読んでみて」って。僕は羊飼いのシーンを読んだのですが、その時に鵜山さんからいろいろと演技的指示があって、必死に食らいついていったら「一緒にやってみましょう」とのお言葉とともに、ヘンリー六世役を演じる機会をいただきました。あの稽古場でのやり取りが、今に繋がっているんだと思うと、本当にありがたいですし、感慨深いです。

新国立劇場『ヘンリー四世』浦井健治インタビュー_2

――本作『ヘンリー四世』で浦井さんが演じられるハル王子はのちのヘンリー五世。今お話があったヘンリー六世の父王にあたる人物です。父と子の役を別作品でそれぞれ演じるというのもシェイクスピアならではですね。

本当ですね。ヘンリー六世を演じていた頃は、父王であるヘンリー五世のことをとても偉大な人物だと思っていましたので、今回、ハル王子と向き合ってみると「あれ、結構ダメなところもある人なんだけど・・・」って、いろいろ驚いています(笑)。

先日もスタッフさんから「ハルはやんちゃで、かぶいている人物だから」と言われて、やはりそうなんだな、と改めて思いましたし、ハル王子がフォールスタッフたちと放蕩している時の様子って、現代でいうといわゆる素行の悪い不良っぽさだったりするんですよ(笑)。

『ヘンリー六世』はヘンリー五世の死を皆が嘆く場面で幕が開き、そこから彼は偉大な父王について思いを馳せ、時にコンプレックスに打ちのめされそうになるんですが、いざ、その父王の若き頃を演じてみると、全然偉大じゃない。ただし、自分の信念を持ってそれを曲げずに生きていくという芯となる部分はありますので『ヘンリー四世』では、いかに“放蕩者のハル王子”が“ヘンリー五世”として覚醒していくのかを、しっかりお見せしたいと思っています。

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――お稽古場でその“覚醒”の実感はありますか?

最初に台本を読んだ時は、もっとデジタルにハル王子がヘンリー五世へと変化するイメージもあったのですが、実際に流れの中で戴冠してみると、そうはっきり切り替わるものではないのだな、感じました。ハルの中では王子から戴冠して王になっても、まだ心のどこかに自分が王であることへの迷いがあるんですよね。

――今のお話をうかがって、ハル王子の父王であるヘンリー四世役・中嶋しゅうさんとの関係がとても大事だと思いました。

本当にその通りで、第一部では王と王子という公の関係に加え、父と息子という親子の間柄がかなりビビッドに描かれています。シェイクスピアっていうと、ちょっと難しいと思う方も大勢いらっしゃると思いますが、稽古をしていると、子どもの頃に近所にいた、友人親子の威勢のいいけんかを思い出してしまうくらいなんですよ(笑)。ああ、情が通じ合っているからこそ、こういう風に遠慮なく言い合えるんだよな、って。

(中嶋)しゅうさんとは、ほぼ初舞台の『阿国』の頃から親しくさせていただいていて、いつもその背中からいろいろなことを学ばせていただいています。稽古場で目を合わせるだけで、自然と本当の肉親のような何とも言えない情が湧いてくるので、今回も大船に乗ったつもりで、ハル王子として父王役のしゅうさんに身を任せていきたいですね。

鵜山さんの現場では“出して”いくことが大切

新国立劇場『ヘンリー四世』浦井健治インタビュー_3

――演出の鵜山さんとは昨年の『トロイラスとクレシダ』以来のタッグになりますね。

改めて、それぞれに“負荷”をかけない演出をされる方だと実感する毎日です。鵜山さんは、俳優同士のエネルギーがぶつかり合って、そこで生まれる化学反応を何より楽しんでいらっしゃる。そんな個々のエネルギーを放出させるために、いろいろな方法を考えてくださっている分、こちらからもつねに“出して”いかないと、台詞や演技が生き生きしてこないんですよね。俳優側が提示するエネルギー量が少ないと、鵜山さんは寂しいお顔になるんです(笑)。そうならないよう、アグレッシブに挑戦していくことが大事なのだとつねに心掛けています。

――演出家と俳優としての信頼関係も、より強くなっているのでは?

そうだと良いのですが。鵜山さんとはミュージカル『二都物語』でもご一緒しているんです。その時は、僕のシェイクスピア作品とミュージカルの現場での佇まいの違いを、驚きながら面白がってくださいました。

先日『ヘンリー六世』の頃の思い出話になった時に、鵜山さんが「浦井くん、最初はお地蔵さんみたいだったよね」って(笑)。初のシェイクスピア作品というプレッシャーと、錚々たる先輩に囲まれて、きっと緊張して固まっていたんでしょうね。

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――現在のお稽古場の雰囲気はいかがでしょう?

最初に『ヘンリー六世』で新国立劇場の舞台に立たせていただいた時は、共演経験がない方たちも多く、ほとんどの方に「浦井くん」と呼ばれていたのですが、そこからご縁が繋がっていって、今回は「健ちゃん」とか「うらけん」と最初から声を掛けていただけました。また、あの頃と比べると、劇中のシーンについてディスカッションをする時間もぐっと増えたと思います。良い意味でカンパニーの“ファミリー感”が増しているのを感じますね。

――岡本健一さんとは、今回もある意味相容れない立場同士でのご共演です。

確かに役柄的にはほぼ毎回そうですね(笑)。でも、普段の岡本さんは、僕のクセも弱点もすべてご存知で、そこをきちんと指摘してくださる兄貴のような存在です。殺陣の時も、僕が熱くなり過ぎると「ちょっと押さえた方が良いよ」と、アドバイスしてくださったり、役についてお話が出来たりと、本当にありがたい憧れの先輩です。

『ヘンリー六世』から『ヘンリー四世』へと繋がる息遣い

新国立劇場『ヘンリー四世』浦井健治インタビュー_4

――ハル王子はいろいろな”顔“を見せる役でもありますが。

父親に認められたい長男、のちに国を背負う王子、葛藤しながら放蕩生活を送るかぶき者・・・いろいろな面を持ち、それをお客さまにお見せする役だと思います。特に“ハル王子”から“ヘンリー五世”として国を治める王となる時の変化や思いを繊細に演じることが肝となるのかな、と。多分、ハルは王となってすぐの時点では、国を統治する覚悟が100%出来ていないんですよね。どこかそれまでの仲間であるフォールスタッフと“へその緒”が繋がった状態で大人になりきれていないというか。言葉ではそこを断ち切ったように語るけれど、心の中は葛藤と逡巡で満ちている・・・現時点ではそんな風にこの役を演じられればと思っています。

――『ヘンリー六世』ご出演の経験が、時を経て『ヘンリー四世』でしっかり生きそうですね。

『ヘンリー六世』は通しで9時間の上演時間でしたから、そういう意味でもキャスト、スタッフ全員が大変な中、戦った作品だと思います。先日、鵜山さんとスタッフさんが「まあ、9時間に比べたら今回は6時間だし・・・」とお話していて、人間って最初のハードルが高いと、その後は何でもやれちゃうんだなって思いました(笑)。演じる側としては、もちろん6時間の上演時間はすごく大変なんですけど、どこかに安心感というか、このカンパニーなら絶対に大丈夫!って気持ちもしっかりあるんですよね。『ヘンリー六世』からの息遣いが今回の『ヘンリー四世』の現場にもちゃんと流れているような気がするんです。

もちろん、これから初日に向けて、すべてのことをブラッシュアップしていくわけですが、初日まで20日を切った今の状態で、カンパニー全体が”このメンバーなら大丈夫“って、ある種の安心感の中で稽古できるって、とても幸せなことだと思っています。『ヘンリー六世』の経験値から、テクニカル的なことも予測しやすいですし。そんな環境の中、鵜山さんも僕たちも、なによりお客さまに楽しんでいただける作品をお見せできるよう前に進んでいきますので、劇場に足をお運びいただければ幸いです!

新国立劇場『ヘンリー四世』浦井健治インタビュー_6

今年も浦井健治は舞台芸術の世界を駆け抜けた。現代に生きる青年、妹への思慕と肉欲とに惑うイタリア人男性、古代エジプトの王、そして国を治める運命を背負う英国王子・・・。

コンサートやバラエティ番組で見せる天然モードの顔が嘘のように、舞台のインタビューでただ真っ直ぐな瞳で語る彼の姿に触れるたび、心底、真面目な人だと思う。

そんな浦井が2016年の集大成として挑むのが本作『ヘンリー四世』ハル王子役だ。自身の出世作ともなった『ヘンリー六世』から繋がる世界をどう生き抜くのか・・・舞台上で起きるであろうさまざまな“奇跡”を、また目の当たりにできるのが楽しみでならない。

◆新国立劇場『ヘンリー四世』第一部-混沌- 第二部-戴冠-
2016年11月26日(土)~12月22日(木)
新国立劇場 中劇場

(撮影/高橋将志)

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