舞台『幽霊』小山力也にインタビュー!「“寅さん”みたいな男じゃないかと思うんです」


広大なフィヨルドを見渡せるノルウェー西部の屋敷。夫の死により莫大な財産を相続したアルヴィング夫人は、マンデルス牧師を相手に、長年の夢であった孤児院の開院について語っている。息子のオスヴァルもパリから帰国し、夫人は上機嫌だ。しかし、次第にこの屋敷にまつわる不穏な<幽霊>が現れ、隠されていた真実が明るみになっていく―。

イプセンの代表的戯曲『幽霊』が、鵜山仁の演出によって今秋上演される。初日まで20日となった稽古場で、マンデルス牧師を演じる小山力也に話を聞いた。『24』のジャック・バウアー役やアニメ『名探偵コナン』毛利小五郎役など、声の世界でも活躍する小山が舞台に賭ける思いとは―。

舞台『幽霊』小山力也インタビュー

稽古場で新たに立ち上がる“マンデルス牧師像”

――まずは出演オファーがあった時のお気持ちをうかがえますか。

最初は「え、僕でいいんですか?」と思ったのですが、演出の鵜山(仁)さんや共演者の皆さんが魅力的な方たちばかりで、できることなら挑戦してみたいと心を決めました。人生、チャレンジですよ(笑)。

――マンデルス牧師は、神に仕える清廉な人・・・実は腹に一物抱えている人物・・・と、いろいろな人物造形が出来る役だと思います。役の方向性に関して、鵜山さんとはどんなお話を?

(フライヤーを手に取り)この撮影をした時は「マンデルス牧師は“悪い奴”ですから、もっと怖い顔をしてください!」と言われて「いや、僕、普段から人相が良い方じゃないんで・・・かなり怖くなっちゃいますよ(笑)」なんてやり取りもあったんですが(笑)、実際に稽古に入ったところで、マンデルス牧師の違う面がどんどん立ち上がって来ているのを実感しています。

――それはどういう面でしょう?

彼は自分の思いを押し殺して、アルヴィング夫人に尽くすことで、喜びを得る人間なのだと鵜山さんとも話しています。心の中には天使と悪魔の部分があって、それが常にせめぎ合っているものの、天使の部分でアルヴィング夫人をサポートし、彼女の幸せこそが自分の幸福だと捉えているのではないかと。言ってみればマンデルス牧師は“寅さん”のような人なのかもしれませんね。

――フライヤーのお写真から『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造を思い出しました。

確かに・・・似てますね(笑)!マンデルスも100%清廉な天使というわけではなく、心の中には悪魔の部分も渦巻いていつつの“寅さん”なんです。『幽霊』という作品では、至るところで、そんな人間の多面性が描かれていると思いますよ。

出演者も演出家も全員が初顔合わせ

舞台『幽霊』小山力也インタビュー_2

――お稽古も拝見しましたが、立ち稽古の途中で、俳優さんの近くに寄って、静かにお話をなさる鵜山さんの姿がとても印象的でした。

鵜山さんが稽古中に怒ったり、怒鳴ったりということはまったくありません。お話を聞いていても「どこまで深く(作品の)登場人物や状況、人間関係の分析をなさっているんだろう」と驚かされることばかりです。

鵜山さんは、言葉ひとつひとつに対してすごく繊細に解釈はなさるのですが、言葉のみに捉われてしまってはいけない、ということも並行しておっしゃいます。登場人物たちが発する言葉や行動の裏にどんな“意味”があるのか、そこをしっかり考えて演じなくてはいけないということですね。

――現場で鵜山さんや共演者の方たちとディスカッションしたりということは?

まだ立ち稽古が始まったばかりなのですが、鵜山さんはご自身の考えをゴリゴリ押してくる方ではないので「どうなるか分からないけど、ちょっとやってみましょうか」「そういうやり方もあるんですね」的な感じで、演じる側のアイディアや解釈も引き出していただきつつ、稽古が進んでいます。今回は鵜山さんに加えて出演者全員が初顔合わせなので、ドキドキすることも多いですよ(笑)。

――アルヴィング夫人役の朝海ひかるさんは、宝塚の元男役トップスターですし。

退団なさってからの舞台を大阪で拝見したこともあり、共演させていただけるのは幸せなことだと思っています。気さくにお話してくださいますし、とても謙虚な方なので、ご一緒していて気持ちが良いんです。最初はスターのバリアが凄かったらどうしよう・・・と、勝手に思っていたんですが(笑)、まったくそんなこともなく、本当に素敵な方だと思います。

――逆に、共演者の方たちは、声の世界でも大活躍なさっている小山さんの“バリア”が不安だったかもしれませんね。

いやいや、そんなバリア、あるワケないじゃないですか(笑)!むしろ僕なんていろんなことがバレバレですよ(笑)!

――ありがとうございます(笑)。イプセンが『幽霊』で描いているのは、現代と状況も価値観も全く違う世界の話ですが、小山さんはご自身と役とを結びつける作業をどのようになさっていますか。

人間って、自分の意思とは違う、大きな力で生まれてきてその場にいるわけじゃないですか。そのことに感謝しつつ、自身の中にあるいろいろな負の部分と戦いながら、なんとか生きていこうとする・・・それは時代や国が変わっても普遍的なことで、マンデルス牧師の中にも僕の中にも共通する感覚です。そういう風に共感できる部分を探しながら、その人物として、自然に立てるように役を立ち上げていきます。

――本作はほぼ全編、少人数の会話のみで進行していきます。作品としても、役柄としてもパーンと解放できるモードではない分、大変なことも多いと思うのですが。

まだ稽古中ではありますが、苦しい、楽しい、大変、嬉しい・・・と、いろんな感情がやってきます(笑)。その中でも、なんとか楽しいことを見つけて『幽霊』の世界に存在することが大切なのかな、と。そういう意味では人の台詞を聞いたり、演技を見たりする時間は楽しいですよ。皆さん、はじめましての方ばかりですので、いい意味で驚いたり、気付かされたりすることも多いんです。

――今回、かなり台詞量も多いです。

ですね(笑)。僕は一番集中できるのがお風呂の中なので、6月くらいからタブレットにビニール袋を掛け、セルフ防水したものを持ちこんで台詞を覚え始めました。浴室なら「うおー 間違えたっ!!」って大きな声を出しても大丈夫ですし(笑)。で、あがってからは、美味しいお酒できっちりリラックスもしたりして(笑)。

舞台と声の仕事とを行き来する

舞台『幽霊』小山力也インタビュー_3

――小山さんは、京都の立命館を卒業なさってから、桐朋の演劇科に入られたんですよね。

そうです。同期の男の中には年が近い奴もいたんですが、女子はほぼ全員4歳年下で可愛かったですよ。「小山君、ちょっと話が・・・」なんて言われて、いそいそと聞きに行ったら、他の男との恋愛相談だったり(笑)・・・そんなんばっかりでしたね(笑)。

――そして卒業後は俳優座に。

僕、本当は青年座に行くつもりだったんですよ。当時観た青年座の舞台に感銘を受けたこともあって。でも、俳優座の方が試験時期が早くてね(笑)。受験するならしたで、落ちるのは悔しいじゃないですか・・・で、なぜだか通っちゃったんです。

――俳優座というと新劇のイメージも強いのですが、小山さんは舞台のみならず、アニメや外画のアテレコなど、声の世界でも大活躍なさっています。

アニメは現場でご縁があったり、舞台を観たスタッフさんが声を掛けてくださったり、ですね。洋画のアテレコに関してはずっと憧れていたんです。僕が声の現場に入る前から、桐朋や劇団の先輩でもある磯部勉さんが活躍なさっていましたし。

――やはり大きな転機はアメドラの『ER』でジョージ・クルーニーの声を担当されたことでしょうか。

確かに『ER』に出会えたことは大きかったです。当時、NHKに若手俳優が多く集められたオーディションがあったんですね。声優さんとは違う個性の俳優を使って作品を作りたいという製作側の意向もあって。そのオーディションを機に、僕が日本語吹替え版でジョージ・クルーニーをやらせていただくことになりました。

――今回の『幽霊』には、アニメや『24』のジャック・バウアー役で小山さんのファンになった若い観客もたくさんいらっしゃると思います。

鵜山さんご自身が、難しいテーマを観客に丸投げするのではなく、常にお客さまの目線や感じ方を意識した演出をなさっていますので、僕たちもそれに応えられるよう、戯曲に隠された、キラキラした宝物をしっかり見つけなければと思っています。『幽霊』というタイトルから、おどろおどろしいイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実はくすっと笑えるシーンもありますし、そういう場面では全く遠慮せずに笑っていただいて大丈夫です!

舞台『幽霊』小山力也インタビュー_4

演劇科の大学で彼は“伝説の先輩”だった。同時期に同じ校舎で学ぶことはなかったけれど、さまざまなシチュエーションで小山力也という名前を聞いた。

“伝説の先輩”・・・『24』のジャック・バウアー・・・そのイメージから、少々緊張のインタビューとなったが、こちらのそんなモードを吹き飛ばすように、明るく柔らかく、時にさまざまな声色を使って語ってくれる小山の佇まいに胸打たれる。

濃密でスリリングな会話劇で、彼が「寅さんのような男」と語るマンデルス牧師がどう存在するのか・・・9月末に迫った開幕を楽しみに待ちたいと思う。

◆舞台『幽霊』(作 イプセン 演出 鵜山仁)
【東京公演】2016年9月29日(木)~10月10日(月・祝)紀伊國屋ホール
【兵庫公演】2016年10月13日(木)~10月14日(金)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

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