ミュージカル『ミス・サイゴン』エンジニア役のダイアモンド☆ユカイにインタビュー!「これはもう“恋”だと思いました!」


ベトナム戦争末期のサイゴン・・・米兵たちが刹那的な日々を過ごすクラブ「ドリームランド」で出会ったアメリカ人・クリスとベトナム人の少女・キム。ふたりが同じ人生を歩もうとしたその時、サイゴンは陥落し、人々は大きな渦に巻き込まれていく・・・。

日本初演以来、数々のドラマを生み出してきた『ミス・サイゴン』が、今秋、帝国劇場での上演を皮切りに全国各地で巡演される。本作で混沌の時代をたくましく、したたかに生き抜こうとするフランス系ベトナム人・エンジニアを演じるダイアモンド☆ユカイに話を聞いた。なぜ、ロックミュージシャンが帝劇の舞台に立とうと決意したのか・・・そしてミュージカルに賭ける思いとは・・・?!

ミュージカル『ミス・サイゴン』ダイアモンド☆ユカイ_インタビュー

ロックスターがミュージカルに挑む理由

――ユカイさんというと、ロックスターとしての印象も強いのですが、『ミス・サイゴン』に挑戦なさろうと思った理由を教えていただけますか?

実は子どもの頃からミュージカル映画が大好きで、ジーン・ケリーやダニー・ケイの作品も良く観ていたんです。そういう下地もあって、ミュージカルは自分にとって憧れのひとつではありました。とは言いつつ、中学生の時にロックに出会い、23歳でデビューしてからはずっとその世界で走り続けてきたわけですが。

そうやって、自分なりに音楽の世界で活動してきて、30年が経ち、改めて『ミス・サイゴン』の舞台を観た時に、頭を殴られたような衝撃を受けたんです。「これ、ダイアモンド☆ユカイが表現したかったことが全部入ってるじゃん!」って。

――その観劇体験がユカイさんの“ミュージカルの扉”を再び開けたんですね。

特に二幕でエンジニアが歌う「アメリカン・ドリーム」を聞いた時は雷に打たれたようでしたよ(笑)。なにこれ、めちゃめちゃロックじゃん!って。でもその時はまだ、自分が舞台に立ちたいという気持ちにはならなかったんです。あまりにもミュージカルは未知の世界で・・・。だけど、これだけ自分が表現したい、やりたいことが詰まっている世界が目の前にあるのに、それに挑戦しない手はない!と一歩踏み出すことに決めました。

ミュージカル『ミス・サイゴン』ダイアモンド☆ユカイ_インタビュー_2

――それで、エンジニア役のオーディションを受けようと。

そうです!ただひとつ、大きな問題がありまして・・・それは「本当に俺に出来るのか」ってことだったんですけど(笑)。年齢的にも50歳を過ぎ、これまで特にミュージカルに出演するためのレッスンを受けた経験もない・・・これって俺にとっては「3か月で相撲取りになる」くらいの壁の厚さだったんです(笑)。

と、最初は自分がどこまでやれるのか、正直不安ばかりでしたが、一期一会の言葉を信じて、エンジニア役のオーディションを受けることを決めました。もう、ここまで来たら“恋”ですよね(笑)。ミュージカルに恋して、エンジニアに恋して、玉砕するかもしれないけど、なんとかこの恋をゲットしないと!って(笑)。

――その“恋”を実らせるためのオーディションはいかがでしたか。

海外スタッフの前では「生き延びたけりゃ」と「アメリカン・ドリーム」の二曲を歌いました。最初はやっぱり緊張しましたね(笑)。先方からは途中、オーダーも飛んで来たりして、そのやり取りで逆に緊張がほぐれたかもしれません。これまでも音楽や映画の現場で海外スタッフと仕事をした経験はあったので、こちらもブロークンイングリッシュで答えたりして(笑)。

これは俺の個人的な思いですが、海外スタッフの方はとてもフラットな目線で見てくださったと思います。彼らに「これまでミュージカルにほぼ出演したことがないミュージシャンにエンジニアが出来るのか」的な先入観はなかったと思いますし。そういう現場のテンションも俺にとってプラスの方向に働いた気がします。

エンジニアとして生き抜きたい

ミュージカル『ミス・サイゴン』ダイアモンド☆ユカイ_インタビュー_3

――ユカイさんが思う、エンジニアの魅力とは?

ベトナム戦争末期からのあの混沌とした時代の中で、一種の“幻想”であるアメリカを夢見て、たくましくのし上がっていくエンジニアの姿に“ロック”を感じます。そう考えると、エンジニアにとってのアメリカは俺にとっての“ロック”なんですよね。

エンジニアにとって、アメリカ行きの切符はどうやっても掴み取りたかったもので、そういうハングリーさやパワーに俺は強く惹かれます。そして「アメリカン・ドリーム」で見せるぶっ飛びながらもどこかお茶目なあの表現・・・好きですね。

――フライヤーでの前髪上げお写真も新鮮でした。

あれですね(笑)。あの時は髪を上げて撮影して貰ったんですが、エンジニアのビジュアルに関しては、稽古が始まったところで、スタッフさんたちと話をしながら更に詰めていければと思っています。実は俺・・・お坊ちゃん育ちなんで(笑)、ワイルドな方により寄せていかないと、どこか育ちの良さも出ちゃう気がするんですよね・・・(笑)。まあ、それは冗談ですけど(笑)、ビジュアルにもしっかりこだわって、役を魅力的に見せていきたいと思います。

ミュージカル『ミス・サイゴン』ダイアモンド☆ユカイ_インタビュー_4

――現時点で、ユカイさんが強く押し出していきたいのは、エンジニアのどの部分でしょう。

正直、ダンスはほぼ未経験なので、そこはこれから頑張るとして(笑)、やっぱり『ミス・サイゴン』の素晴らしさの一つが楽曲にあると思うんです。この作品は台詞がほとんどゼロで、ほぼ全てを歌のみで表現していきますよね。勿論、エンジニアのキャラクターを大切にするのは大前提ですが、全編歌で・・・というのは、自分にとって強味を活かせる表現なのかな、とも思っています。結構、ロックにも演劇的だったり、物語を立てる曲はあったりするんですよ。俺は音楽の世界でも、特に歌の部分にこだわりを持ってステージに立ってきたので、そのスピリッツは『ミス・サイゴン』の世界でもバリバリに活かしていきたいですね。

――同じくエンジニアを演じる市村正親さんとはどんなお話を?

まだ取材や製作発表の場でしかお話できていないんですが(7月下旬の取材)、市村さんからは「他を気にせず、ユカイちゃんが思う通りのエンジニアをやればいい。演じようとは思わないで、エンジニアとしてその場に存在すればいいんだよ」と言っていただいたのが心に刺さりました。

――エンジニアは劇中でキムと絡む場面も多いですよね。

本当はエンジニアがベテランじゃないといけないんですが(笑)、俺は本格ミュージカルへの出演が初めてである分、笹本(玲奈)さんをはじめ、ミュージカル女優として確固たる地位を築いているキム役の三人にはいろいろ教えて貰うことも多そうです。彼女たちには稽古が始まる時に「俺は不器用だから、そこも含めてよろしくお願いします」って、まずは頭を下げようかな、と(笑)。物語の上ではエンジニアとしてキムをガンガン引っ張って行きますが、舞台に上がるまでは彼女たちに引っ張って貰うことも多くなりそうです(笑)。

『ミス・サイゴン』の世界に新しい風を起こす

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――シェーンベルクさんの楽曲についてはいかがでしょう。

一言・・・素晴らしい!と思いました。変拍子も多くて、最初に聞いた時は「プログレかよ、カッコ良いな!!」って物凄く興奮したんです。『レ・ミゼラブル』の初演でマリウスを演じた野口五郎さんと話をした時に、五郎さんも同じことをおっしゃっていましたね。「あんなに複雑で、感動的な音楽を作れる人の感性はどこまで研ぎ澄まされているんだろう」って。中でもやっぱり『ミス・サイゴン』のエンジニアのナンバーはプログレ・・・ロックテイスト満載だと思いますよ。あと、俺は個人的にジョンが歌う「ブイ・ドイ」にシビれますね。この話になると終わらなくなっちゃうんですが、本当にサイゴンの音楽は素晴らしい・・・グっと来ますよ!

――ロックシーンにいる方たちは、ミュージカルに対してどこか壁を作っているような印象もあったのですが、ユカイさんのお話をうかがっているとその真逆で嬉しくなります!

もしかしたら、一部にそういうテンションの人もいるかもしれませんが、俺にはロックもミュージカルもクラシックも同じ“音楽”なので、変な風に隔てたりする気持ちは全くありません。昔はブラックミュージックとそうでない音楽を分ける時代もあったりしましたが、今はもうそんな壁も無くなっていますし。クラシックだってよく聞いてみると、ロック調のメロディーになっているものも実は結構あるんですよ。

――ユカイさんが参加なさることで、今期の『ミス・サイゴン』には新しい風が吹きますね。

そうなれるよう、精一杯やらせていただきます!俺にとってもこれは50歳を越えて決意した大きな挑戦です。まだできないことも多いですし、もしかしたら俺が創るエンジニア像を稽古場で「違う」と否定されることもあるかもしれない。でも、自分が歌いたいナンバーを子どもの頃から憧れていたミュージカルの舞台で歌える喜びを胸に何とか食らいついていきたいですし、伝統やある種の型は大切にしつつ、ダイアモンド☆ユカイにしかできないエンジニアをお見せしたいです。

人って年齢を重ねるごとにチャレンジする勇気が減っていったりもするんですが、俺は挑戦することを辞めたくないんです・・・渦中にいる時はつらいんですけど、俯瞰で見るとやっぱり最高に輝いているんですよ・・・これこそロックンロールでしょ(笑)?ロックなエンジニアの生き様を舞台で体現できるよう、これから始まる稽古にロックな精神で臨みます!

※ダイアモンド☆ユカイの「☆」表記、正しくは六芒星の記号

ミュージカル『ミス・サイゴン』ダイアモンド☆ユカイ_インタビュー_6

ロックバンド「レッド・ウォーリアーズ」のボーカルとしても活躍し、日本のロックシーンで数々の“伝説”を残すダイアモンド☆ユカイ。一見、ミュージカルとは一番遠いところにいそうな彼が『ミス・サイゴン』のエンジニアとして帝劇の舞台に立つと聞き、多くの人が驚いたことだろう。だが、直接話をうかがってみると、そのトークから“ミュージカル愛”が溢れ出し、彼がこの挑戦に立ち向かう理由のひとつが分かったような気がした。

ロックな魂を胸に、ダイアモンド☆ユカイがミュージカルの世界にどんな新風を吹き込むのか・・・新たなエンジニアの誕生を楽しみに待ちたい。

◆ミュージカル『ミス・サイゴン』
2016年10月19日(水)~11月23日(水・祝)まで帝国劇場にて上演。
東京公演終了後は岩手、鹿児島、福岡、大阪、名古屋の各地で巡演される。

(撮影/高橋将志)

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