ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版>公演!演出・振付のジェリー・ミッチェルに作品秘話やミュージカル界についてインタビュー


ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版>の公演が、2016年10月より東京と大阪で行われる。本作は、2013年にトニー賞ミュージカル作品賞や振付賞など6部門を受賞した話題作だ。現在、日本人キャスト版も上演されており、小池徹平、三浦春馬らの好演が話題を呼んでいる。今作の演出・振付を手掛けたジェリー・ミッチェルに話を聞いた。

ジェリー・ミッチェルインタビュー

――日本人キャスト版の『キンキーブーツ』をご覧になっていかがでしたか?

初日を観劇しましたが、とても良かったです!ナンバーごとにお客様が手拍子をくださって、たくさん笑っていただきました。小池徹平さんや三浦春馬さんをはじめ、皆さん素晴らしい仕事ぶりでした。舞台が終了してもお客様がなかなかお席を離れず、カーテンコールでの挨拶の最後に「そろそろ退場しましょう!」と促されるほどの大盛況でした。観劇後はすぐに、ツアー中のシンディ・ローパー(楽曲・作詞)やコネチカットにいるハーヴェイ・ファイアスタイン(脚本)にメールで報告しました。シンディからもすぐに返信があって「本当に良かった!」と喜んでいました。

――ミッチェルさんは初めての来日ですよね。日本の印象は?

大好きになりました。日本の方は、舞台への取り組み方がとても真面目で感心しました。その一生懸命さは、過去の(私の見てきた)仕事の中でもトップクラスです。また、日本人は時間に正確なのがいい!私はアメリカで両親や祖父母に「時間に遅れないということは、相手への敬意の現れなんだよ」と言われて育ったんです。つまり、遅刻するのは相手を大切にしていないということ。例えば、お客様が劇場に遅刻なさるのも、パフォーマーや他のお客様たちに対して失礼だと思うんです。時間に揃うことがどんなに素晴らしいかは、語り尽くせないですよ(笑)。

――たくさんの作品をブロードウェイでヒットさせ、トニー賞を受賞するなど話題作を手掛けられてきましたが、今作『キンキーブーツ』の魅力はなんですか?

人間愛ですね。靴工場で働くチャーリーとドラァグクイーンのローラは、それぞれ別の環境で育っていますが、知り合っていくにつれ、お互いに似た部分を持っていることが分かってきます。そして靴工場の従業員たちも、ローラと自分たちの間には思いもよらない共通点がたくさんあることに気づくんですね。そこには「目の前のハードルを乗り越えるためには、全員が気持ちを合わせることが大事」という普遍的な考えが込められています。

――日本では、シンディ・ローパーさんが楽曲と作詞を担当したことも話題になりました。彼女の音楽を聴いた時の感想は?

生涯忘れられないほどの衝撃でした。もともとシンディとは20年以上前から知り合いで、脚本のハーヴェイもすでにシンディと仕事をしたことがありました。ただ、彼女の音楽は素晴らしいけれど、ミュージカルの楽曲を作れるのかは分からなかったんです。つまり、自分のための作詞ではなく、登場人物の心を表現する詞が書けるのかは、未知でした。そこでまず、試しに3曲作って欲しいとお願いしたんです。その時にシンディが書いてくれた中の1曲が、「Not My Father’s Son」でした。初めて聴いた時は、涙が出ましたよ。この曲では「自分は父の息子だけれど、父が夢見ていたような存在には成り得ていない落ちこぼれなんだ」と歌っています。このシーンで初めて登場人物たちの心が通じ合うのですが、ストーリーを語る上で欠かせない曲になると思いました。とても特別な思い出です。

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――シンディさんは自分のためでなく、作品のための音楽を書かれたんですね。

ええ。シンディの音楽は、彼女がいかに広い心を持っているかをそのまま映しています。彼女は嫌なことに対しても、ドアを閉じて去ってしまうことができない人柄です。そして、これだけの大スターなのに偉そうな素振りをまったく見せません。とても謙虚で人間らしく、自分で荷物を持って、自分でドアを開けて、自分で歩いていく・・・そんな方です。シンディが『キンキーブーツ』の登場人物たちにとても心を寄せてくれたことで、彼女の持つ普通の芸術性がそれぞれのキャラクターに当てはめられています。

――そして出来上がった楽曲に、ミッチェルさんが振付をされているんですよね。

そうです。シンディは私のことをよく知っているので、ダンスができる楽曲を提供しようとしてくれました。とてもファンタスティックで、踊っていて楽しいダンスが出来上がりましたよ。

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Kinky Boots National Touring Company. Photo: Matthew Murphy.

――特に有名なのがベルトコンベアーの上で踊るシーンですが、動くセットの上で踊るという振付には、苦労したのではないですか?

この話は長くなりますよ(笑)。ハーヴェイが書いた脚本には、靴がベルトコンベアーに乗って出てくるシーンが書かれていました。それを読んで「このベルトコンベアーの上でダンスできたら楽しいな」と思いついたんです。そこで思い出したのが「OK Go」というバンドのミュージックビデオ。4人のメンバーがジムのランニングマシンの上で歌いながら踊るという、YouTubeができた頃に大ヒットした映像です。それを装置デザインのデイヴィッド・ロックウェルに見せ、「このランニングマシンをテーブルの高さまで上げられないか」と相談して、作ってもらいました。でも実際にやってみると、うまく立てないんです。たぶん10回くらいは転びましたね。あちこち傷だらけになって、家に帰ってアイシングをしたのを覚えています(笑)。結局、手すりを付けてもらい転ばずに済むようになりました。

また、ランニングマシンにはスピードダイヤルがありますよね。通常は0から15段階まで調節できるのですが、舞台セットでは2速しか選べなかったんです。そこで、靴が流れる時は低速に、ダンスを踊る時は高速になるように、ボタンで選べるようにしていただきました。そのランニングマシンを5台作り、10人のダンサーと4週間みっちり稽古しました。1日8時間、跳んだり、踊ったりを繰り返してダンスを作り上げたんです。ここまでに6ヶ月かかりました。

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――1曲完成するのに6ヶ月・・・大変ですね。

本当に。苦労を重ねて作ったそのダンスを、やっとプロデューサーたちに見せると、とても気に入ってくれて「もっと長くしてくれないか?」と言われたんです!「もうちょっと観たい!くらいでやめるのがいいんですよ」なんて説明をしました(笑)。大変でしたが、本当に楽しい日々でしたね。

――作品を創る中で、互いの意見がぶつかることもありますか?

ありますが、揉めるというより、最善を求め合います。「このストーリーを最大限伝えるにはどうすればいいか」ということについて、皆で一緒になって切磋琢磨しました。実は、シンディは9曲余分に作っているんです。つまり、9曲カットになっているんですよ。そうなっても彼女は文句の一つも言わず、新しい曲を生み出し続けてくださった。そうやって3年かけて一丸となってきたファミリーだから、とても仲がいいんですよ。

――9曲カット・・・ミュージカルの創作において、楽曲制作は大変なのでしょうね。

『キンキーブーツ』の原作は映画です。ミュージカルとの一番大きな違いは、登場人物がストーリーの一部を実際に歌ってくれること。そしてミュージカルというのは、とにかく音楽がセンセーショナルでなければならないのです。そのため「映画のこのシーンを音楽に置き換えたらどういう風になるか」ということに気を配り、作曲家と密に接しながら作っていかなければいけないんです。

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――『キンキーブーツ』をはじめ、なぜ映画のミュージカル化が多いのでしょう?

本が読まれなくなったからでしょうね・・・。最近のプロデューサーは、映画DVDを持って来て「これをミュージカルにしたらどう?」と言う方が多いです。以前はDVDではなく、それが本だったんですよ。『マイ・フェア・レディ』の原作は戯曲「ピグマリオン」だし、『ウェスト・サイド・ストーリー』の原作は戯曲「ロミオとジュリエット」です。プロデューサーの方からしたら、DVDはすぐに観てもらえるし、渡しやすいんでしょうね。ただ、私は本が好きなので、自分が読んだ本をベースに次のミュージカルの構想を練っているところです。

そもそも、ヒット映画なら何でもミュージカルにすればいいというものではないと思うんです。『リーガリー・ブロンド』も『ヘアスプレー』も『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』も映画からアイデアを得た人気ミュージカルですが、ヒットしなかったミュージカルもたくさんあります。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』も小説をもとにした映画を参考にしていますが、ミュージカルに作り直すのはとても大変でしたね。ヒットした映画はお客様の期待度がそれだけ大きくなってしまっているから、難しいんですよ。『キンキーブーツ』の映画はアメリカではヒットしなかったものの、ミュージカルは大きな評価をいただきました。

――今回はその『キンキーブーツ』<来日版>が日本で観られるということで、期待が高まります。

これまでカナダや韓国、イギリスなど、各地で上演してきました。イギリスではメインキャスト全員と実際の靴工場へ行って、どうやって靴ができるのかを見学したりもしました。どこで公演した時も、初日から千秋楽まで作品がどんどん変化していくんです。初日も素晴らしいけれど、山に登るように、日に日に成長するんですね。今回のカンパニーは2年間公演を行ってきていますから、2年分成長していると言えます。
ブロードウェイでは上演期間中にキャストが入れ替わるので、化学変化が生まれる楽しみがありますが、ツアーの場合はずっと同じメンバーですから、とても一体感があり、同じ物語を語ることができるカンパニーになっています。この前このカンパニーの舞台を観た時には、演出の自分ですら「わあ、本当にすごいな」と驚愕しましたよ。

そして『キンキーブーツ』には、今の世界にとって、とても大事なメッセージが込められています。それは「世界を変えられるのは自分が考え方を変えた時なんだ」ということ。他者を受け入れ、自分自身も受け入れることの大切さを、こんなに楽しく伝えてくれる作品は他にありません。ぜひ、笑いにいらしてください。

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Kinky Boots National Touring Company. Photo: Matthew Murphy.

◆ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版>特番放送が決定
【番組概要】『キンキーブーツ完全攻略SP』~最高のハッピーをあなたに~
【放送日】8月23日(火)25:25~26:25(予定) フジテレビ(関東ローカル)
【ナビゲーター】はるな愛

全世界で多くの人を魅了するキンキーブーツの魅力に迫る!
日本人キャスト版からチャーリー役の小池徹平、ローラ役の三浦春馬、そしてエンジェルス(穴沢裕介、森雄基、風間由次郎、森川次朗、遠山裕介、浅川文也)の6名も出演し、10月の来日版に備え『キンキーブーツ』の見どころをたっぷり解説する。日本人キャスト版公演のバックステージにも潜入、さらにNYクリエイターやキャスト陣が語るこだわり、秘密など、内容盛りだくさん。ブロードウェイや日本版の舞台映像も見られるかも!
演出・振付のジェリー・ミッチェルの撮り下ろしインタビューも放送予定。どうぞ、お見逃しなく!

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◆プロフィール
ジェリー・ミッチェル
演出家、振付家。トニー賞ミュージカル部門最優秀作品賞を受賞した『キンキーブーツ』で振付賞を受賞、演出賞にノミネートも果たした。33年間に50以上のブロードウェイ、オフ・ブロードウェイ、ウエストエンド、ツアー作品に関わる。ブロードウェイ・デビュー作は振付を担当した『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』。
他、振付家として『フル・モンティ』(トニー賞ノミネート)、『ロッキー・ホラー・ショー』、『ヘアスプレー』(トニー賞ノミネート)、『ジプシー』、『ネバ・ゴナ・ダンス』(トニー賞ノミネート)、『ペテン師と詐欺師』(トニー賞ノミネート)、『ラ・カージュ・オ・フォール』(トニー賞受賞)、『イマジナリー・フレンズ』、演出も手掛けた『リーガリー・ブロンド』(トニー賞ノミネート)、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』などがある。ウエストエンドでは『ラブ・ネバー・ダイ』、演出も手掛けた『ペテン師と詐欺師』に参加。

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