マシュー・ボーンin Cinema『ザ・カーマン』×舞台『眠れる森の美女』特別企画 ダンサー大貫勇輔が語るマシュー・ボーンの魅力


マシュー・ボーンin Cinema『ザ・カーマン』の劇場公開と舞台『眠れる森の美女』の来日公演を記念して、マシュー・ボーンの舞台『ドリアン・グレイ』で主演経験のある大貫勇輔に、マシュー・ボーン作品の魅力、そしてなかなか知ることのできないマシュー・ボーンの作品づくりの方法などを語ってもらった。

7月9日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAで公開中の『ザ・カーマン』をお客様と一緒に鑑賞した大貫。映画が終わり劇場から出てきたその表情は清々しく、「良いものを観た」という興奮した表情でいっぱいだった。

感想を尋ねると、「もう、素晴らしかったです」というシンプルな一言に続いて、「マシュー・ボーンの『ザ・カーマン』はVHSで発売されているバージョンを観たことがあるんですが、今回の映画版はキャストも違うので新しい視点での発見が多くありました。何と言ってもダンサーたちの踊りの激しさは半端じゃないですね。簡単に踊っているように見えるけれど、相当体力を要する振り付けです。すごいなぁ~」と、自身もダンサーならではの視点で作品を解説。

いつか『ザ・カーマン』にも出演してみたくなったかを聞いたところ、少し迷いつつ「もちろんやってみたいんですが…この振り付け、すごく体力が必要なので(笑)」と謙遜。20年のダンサー経歴を持つ大貫ですら、『ザ・カーマン』は難しく体力を要する振り付けなのだそう。ダンス経験のない人が観ると、本当に軽々と踊っているように見えるので不思議だ。VHS版とは違う良さの二つ目として、映画版は舞台の生々しい感じがよく伝わってきて、臨場感がとても楽しめたとも語ってくれた。

マシュー・ボーンの舞台美術

『ザ・カーマン』の見どころの一つは、レズ・ブラザーストーンによる美術だ。レズはマシュー・ボーン作品のほとんどのアート・ディレクションを手掛けるスタッフ。どの作品も彼女のセット美術は、そのセット自体から物語の背景が伝わってくるものが多く、今回の『ザ・カーマン』でも一幕も二幕も象徴的なセットで、車の整備工場一つをとっても、単なるセット美術という以上に、そこから伝わってくる物語の背景をとても感じられたのだという。実際、大貫が主演した『ドリアン・グレイ』も、二面性を持つ主人公、ドリアン・グレイという役に合わせて白いセットと黒いセットの二つだけだったにもかかわらず、そのセットがストーリーに膨らみを持たせ、舞台から観客により大きなメッセージを感じさせる仕立てになっていたそうだ。そういった「彼女のセット美術の凄さを『ザ・カーマン』の美術でもあらためて感じました」と大貫。9月に来日公演が行われる『眠れる森の美女』は、大貫によると「ワンシーン、ワンシーンが絵画のような美しさがある。特に月の使い方が、印象的」とのこと。

マシュー・ボーン作品に共通する面白さ

そしてマシュー・ボーン本人については、「常にアートとエンターテイメントをうまく融合させている」と大貫。例えて言うなら「小説の場合、文章から映像が見えてくるように、マシューの舞台の場合は、ダンサーたちの身体・動きから言葉が聞こえてくるような、そんなものづくりになっている」そう。確かに、マシュー・ボーンのバレエ作品はまるでブロードウェイミュージカルを見ているかのように、ダンスなのにセリフが聞こえてくるといった感想はよく耳にする。ゆえに、権威のある古典バレエには苦手意識がある人も、少し肩の力を抜いて気軽に楽しめるバレエ作品のように思える。今回の『ザ・カーマン』も、バレエなのにこんなに官能的な、そして欲望を感じる熱血的なバレエがあるとは!と観客は目から鱗の体験になるのではないだろうか。

「ダンスはモダン、ジャズ、クラシックなどたくさんのジャンルが発生し、やればやるほど“もうやり尽くされた”感を否めないものだけれど、マシューのすごさは、古典を斬新な発想で、全く新しい作品として生み出すところです」と、20年間ダンスに関わってきた者として、マシュー・ボーンの手腕に感嘆する大貫。来日公演を控える『眠れる森の美女』はなんとヴァンパイアが登場する設定ということで、これもマシュー・ボーンならではのアイデアだ。そんな『眠れる森の美女』について、「振り付けが斬新だった。印象的な残像が残るようなダンス」と表現する大貫。「特に一幕のオーロラと王子のダンスは、二人がまるで遊んでいるかのようにリフトから下に入る振り付けがあり、ダンサーからの動きからは言葉の残像のようなものが見えてくるのがすごい」と感心していた。

大貫によると、「ニュー・アドベンチャーズの作品は、マシューがまず物語のあらすじと作品全体の流れを説明した台本を書き、それに対してダンサーがそれぞれの登場人物について細かい描写を考え、足していく」のだそう。つまり、ダンサーが各々細かい設定を決めていくので、同じキャラクターでもダンサーによって人物像が変わってくるわけだ。マシュー・ボーン作品では、同じ舞台のキャストが違うバージョンを見比べてみるのも楽しいだろう。

マシュー・ボーンin Cinema『ザ・カーマン』×舞台『眠れる森の美女』特別企画_2

マシュー・ボーンとの仕事で培ったもの

「マシューは僕に、ダンスの動きの理由を考える必要性を教えてくれた」と大貫。マシュー・ボーンとの作品作りでは、ダンサーが描写した設定に基づいて、マシューとディスカッションを深めていく。「僕はマシューとの仕事がきっかけで、どうしてそこで腕を上げるのか、立ち振る舞い、動き方まで、意味を考える大切さを学びました」

「マシューとの仕事は、自分の中でのダンサーと俳優という役割の距離を近づけてくれた。全く違うものだと思っていたダンサーと俳優が、マシューとの仕事を通して、とても近い、つながるものだったということを教わった」

「『ザ・カーマン』もさりげないシーンですら全てに意味があり、瞬きの仕方、顎の上げ方まで、動きによって伝わるメッセージも変わっていきます。全ての動作に意味があり、細かく考えて作品作りがされているということを教えてくれた」のが、大貫にとってのマシュー・ボーンという存在だったそうだ。

マシュー・ボーンin Cinema『ザ・カーマン』の公開スケジュールは以下の通り。

【東京】YEBISU GARDEN CINEMA・・・公開中
【福岡】ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13・・・公開中
【大阪】テアトル梅田…8月6日(土)~
【愛知】ユナイテッド・シネマ豊橋18・・・8月20日(土)~
【新潟】ユナイテッド・シネマ新潟・・・9月3日(土)~
映画HP:http://matthewbournecinema.com

マシュー・ボーンの『眠れる森の美女』
9月14日(水)~9月25日(日)まで東急シアターオーブにて
来日公演HP:http://mbsb.jp
問合せ先:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949

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