ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫にインタビュー!「“演劇”に妥協をしたら人生終わりと思ってます」


2005年にブロードウェイで開幕し、トニー賞・最優秀ミュージカル賞を始め、グラミー賞、ローレンス・オリヴィエ賞など全世界で57部門もの賞を獲得したミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。伝説の舞台が、この夏、いよいよ日本で開幕する!

ニュージャージー州の貧しい片田舎で出会った若者たちが、コーラスグループ「ザ・フォー・シーズンズ」としてデビューし、華やかな音楽業界で経験した栄光と挫折とは――。

本作でニック(RED)を演じる吉原光夫に熱く・・・深く語ってもらった。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫インタビュー

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「演劇」の現場に立つ意味

――『ジャージー・ボーイズ』日本初演の開幕・・・目の前です!

藤田俊太郎演出の現場なので、いい感じに混沌としながら進んでます(笑)。稽古時間って、多いほどいいというものでもないんですが、アーティストとして、やりたいことが増えれば増えるほどやっぱり時間も必要で。今はそのジレンマとカオスの渦中にいる感じですよ(笑)。それもあって、全員が戦う非常にクリエイティブな現場になっていると思います。演出家と作品や演劇に対しての話が白熱すると、二人でファストフードの店の片隅で朝まで語り合ったりする勢いですね(笑)。

――先日、WHITEでニックを演じる福井晶一さんに、吉原さんとのWキャストについてお話を伺いました。

僕とWキャストで同じ役をやるのは嫌だと思いますよ。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫インタビュー_2

――それはどうして?

遠慮しないんですよ・・・「演劇」に対して。「演劇」に対して遠慮したら、自分の人生終わりだと思っているところもあって。それってどういうことかというと、Wキャストで同じ役を演じる人は、必然的に僕のそういうモードに付き合わされることになるんです・・・人によっては混乱することもあると思いますよ。

春に出演した『グランドホテル』の時は、戸井(勝海)さんと同じ役をやらせて頂いたんですが、その時も僕の動きや台詞の解釈で、戸井さんに向けての演出も変わったりしましたし。

ただ、劇団四季を退団して以降、よく考えるんですが、Wの相手が福井さんや戸井さんという先輩だから、遠慮して役や作品を突き詰め戦うのをやめておこう・・・ってなると、それは福井さんや戸井さんに対して失礼だと思うんです。

――福井さんは吉原さんのように個性的で分析力もある俳優はいない、とおっしゃっていました。

ああ、そうなんですね・・・ちょっと安心しました(笑)。

――そうやって「演劇」に対して遠慮や妥協をせず、キャリアを積み重ねていくのは本当に大変なことだと思います。いろいろな意味で結果も出さなければいけない訳ですし。

現場に集まっているのは、みんな「演劇」が好きで、良い作品を作ろうとしている人ばかりなので、一時の軋轢があっても、作品が良くなれば解決するんです。ただ「演劇」を取り巻く事情もいろいろですから、ある種のジレンマに陥ることもあります。でも、妥協や遠慮をしないという自分のスタンスを崩してしまったら、僕が「演劇」をやる意味はなくなってしまうので、信じる道を進むしかない・・・と、思いは結局そこにループするんですよね。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫インタビュー_3

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――今回演じられるニックは、そんな吉原さんの居方とはかなり違う人物のようにも思います。

レギュラーでやっているニコ生や、イベント等での印象から、ジャイアニズム的なところが前面に出ている気はしますが(笑)、実は僕、意外とバランサー的なところもあるんです。そういうところがあるから演出もやれるのかな、と思いますし。現場でも人を見て、誰が何を考えているのか、その人がどんな温度なのかを観察するのは好きですね。特に演出をする時は、良い空気を作ったところでその場をコントロールしていきたい気持ちもあって・・・そういうところはニックと繋がると思います。

あとは、自分が劇団にいた頃、ニックタイプだったんじゃないかな、と。

――具体的に伺いたいです。

安定した集団の中にいると、少し不満があってもそこから飛び立つ勇気がなかなか生まれないんです。ニックも“ザ・フォー・シーズンズ”というグループにいることで、才能あるメンバーに囲まれ、安定した収入を得て、そのぬるま湯から抜け出そうと思わなくなっていく訳です。

――そうなるとニックが他のメンバーを“見守る”目線も違ってきますね。

僕が思うニックは、安定した金銭収入と人気を継続させるために、グループが崩壊しないよう、上手くバランスを取りながら、他のメンバーをじっと見ているという人物です・・・今のところは。

共演者への思い・・・そしてターニングポイント

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫インタビュー_4

――お稽古が始まる前に矢崎広さんからお話を伺ったのですが「群れないオオカミが群れている印象」とREDチームに対してコメントがありました。

その辺りは自覚していないかもしれないです(笑)・・・ただ「個」で言ったら、WHITEの方が実は強いと思いますよ。良い、悪いではなく、彼らは混ざらないんですよね。全員が自分の立ち位置をしっかり守ってその場にいるというか・・・。

僕たちは・・・言われてみるとちょっと群れているところもあるのかな・・・特に藤岡(正明)と自分が(笑)。藤岡が演劇的なところで迷ったりすれば、道が開けるよう話をしますし、逆に僕が歌で困っていると藤岡がアドバイスをしてくれたりもします。群れているというと、あまり良いイメージがないんですが、あえてお互い踏み込んで付き合っている感じなのかもしれません。(矢崎)広もそこに上手くハマっているんじゃないかと。

――2チーム全く違う演出だった『グランドホテル』とは違い、『ジャージー・ボーイズ』は2チームともベースは同じ演出と伺っています。とは言え、人が違えば当然芝居も変わってくる中で、シングルキャストを務める中川晃教さんはかなり大変だと思うのですが。

2チームにシングルキャストで入るのは本当に・・・大変なことです。まず体力的にも僕たちより2倍消耗する訳ですし。さらに、アッキーは僕が思う演劇的なこだわりにもちゃんと付き合ってくれますし、藤岡とは音楽について突き詰めたところで話をしています。また、ガウチ(中河内雅貴)や(矢崎)広のように音楽的な作品への出演経験が浅いメンバーを引っ張って行きつつ、先輩である福井(晶一)さんともちゃんとコミュニケーションを取って、海宝(直人)をもっと上の世界に連れていこうとアドバイスをする・・・本当にすごいことだと思います。

アッキーとは春に共演した『グランドホテル』の現場で、作品やフランキー・ヴァリについてもいろいろ話をしたんですが、その時は正直ピンと来ないことも多くて。だけど、稽古に入ってみると、アッキーは『グランドホテル』の時点でずっと先を見て勉強していたんだと気付き、改めてすごい人だな、と思いました。頭もめちゃめちゃ良いんです。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫インタビュー_5

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――これまで何度かお話を伺ってきて、これを聞くのは初めてだと思うのですが、吉原さんにとってターニングポイントとなった作品はなんでしょう。

たくさんありますよ・・・でも最初に挙げるなら、やっぱり『ジーザス・クライスト=スーパースター』でしょうか。

――この作品の映画版を専門学校の教室でご覧になったことでその後が大きく変わるんですよね。

『ジーザス~』に出たくて劇団四季に入りましたし、その後、ユダとして出演することも叶いました。実は退団しようと最終的に決めたのも『ジーザス~』の稽古場だったんです。常に自分のどこかにまとわりついているような作品ですね。先日、あまりにも大量になってしまったDVDを自宅で整理したんですが、やっぱりこれだけは捨てられなかったです。

あとは演出家・小川絵梨子さんと、とことんまでやった『オーファンズ』というストレートプレイもそうですね。自分が本当の意味で「演劇」にどっぷり浸かろうと思った舞台です。

もちろん『レ・ミゼラブル』に出させていただいたことも、自分にとっては大きな転機でした。最初にバルジャン役で出させていただいたのはオリジナル演出のファイナルだったんですが、あの時は錚々たるバルジャン役の先輩方がめちゃめちゃ助けてくださったんです。ご飯関係を心配してくれたり、立ち位置や段取りを細かく教えてくださったり、時に“神がかった”言葉をかけてくれたり・・・。先輩方の温かさが身に沁みました。

そうやって考えていくと、やっぱりこれまで自分が関わった作品すべてがターニングポイントだったのかな・・・と。いろいろな事情や状況もあるとは思いますが「演劇」を取り巻く環境がより良くなって、作る側も演じ手も良い舞台を創ることだけに集中できたらいいですよね。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』吉原光夫インタビュー_8

吉原光夫と向き合って話を聞くたびに“人間力”という言葉が頭をよぎる。周囲を包み込むような温かさと冷静さとを併せ持ち、冷めた視線を彷徨わせながら、常に魂の熱さも感じさせる・・・こんなプレイヤーは彼しかいない。

様々な“事情”が渦巻く「演劇」の現場で、絶対に妥協せず、己が思う芝居を模索し続けるのは並大抵のことではない。これまでもその道を歩もうとして途中で諦め、挫折していった先人たちが数多くいたはずだ。妥協や遠慮をせずその道を究めるということは、自らの退路を断つことでもある。

吉原は、これからもゴールが見えない果てなき道を歩き続けていくと言う。そんな彼の言葉に触れるたび、私は「お前の生き方はそれでいいのか」と、見えない刃を喉元に突き付けられるような気がするのだ。

プレビュー初日の直前のゲネプロ・・・吉原光夫が演じるニックは確かに舞台の上で“生きて”いた。千秋楽に向かって「ザ・フォー・シーズンズ」が、そしてニックがどう輝きを増していくのか・・・その答えをぜひ客席から観て欲しいと思う。

◆ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
2016年7月1日(金)~7月31日(日)
シアタークリエ(東京・日比谷)

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