『あわれ彼女は娼婦』浦井健治にインタビュー!「ハムレット+ロミオ=“ジョヴァンニ”なのかもしれません」


舞台は中世のイタリア・パルマ。勉学に優れ、人格者として将来を嘱望されているジョヴァンニは、尊敬する老修道士に「たぐいまれな美貌を持つ妹アナベラを女性として愛している」と打ち明ける。老修道士の忠告を聞かず、自らの思いをアナベラに告げるジョヴァンニ…そしてその気持ちを受け容れるアナベラ…。

1620年代に英国の劇作家、ジョン・フォードが描いた世界が鮮やかに甦る!本作でジョヴァンニ役を演じる浦井健治に話を聞いた。

『あわれ彼女は娼婦』浦井健治インタビュー

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絶対にこの役をやりたい!と思いました

――本作に出演が決まった時のお気持ちを教えてください。

お話をいただいたのは『デスノート The Musical』の稽古中だったと思うのですが、演出の栗山民也さんからジョバンニ役に僕の名前をあげていただいたと聞いて「絶対にやりたい!」と思いました。いろいろなことが決定して、栗山さんとお手洗いで一緒になった時に「絶対面白い作品になるから!」と改めて言っていただき、それがすごく嬉しかったです…場所のシチュエーションはちょっと面白かったんですけど(笑)。蒼井(優)さんとも久し振りに共演できるのが楽しみですね。

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――演出の栗山さんとはこれで5度目のタッグになりますね。

ご一緒させていただく度に、目の奥で役者に語ってくださる方だなあ…と実感します。稽古場でもダメ出しという形ではなく、アドバイスに近いモードでお話して下さいますし、出演者全員に目を配っていただいているのが良く分かります。僕の中では栗山さんが良くおっしゃる「記憶を記録する」という言葉がとても印象的ですね。また「今、なぜこの作品を上演するのか」という点にも強い思いをお持ちなので、自分も常にそのことを胸に置いて参加するようにしています。栗山さんの演出を受ける時は“待つ”のではなく“出していく”ことが大切なんだということも、これまでの経験から体に入ってきました。

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――現時点で、ジョヴァンニという人物をどう捉えていますか?

作品が描かれた時代も今とは全く違いますし、まだ全てを理解するところには至っていませんが、ジョヴァンニとアナベラが純粋に愛し合えば愛し合うほど彼らを取り巻く人たちのいろいろな顔が明らかになっていく作品…なんだと思います。

自分には妹がいますし、アナベラ役の蒼井さんにはお兄さんがいて…だからこそ兄妹である二人が愛し合うという状況をなかなかリアルにとらえるのは難しいです。ただ、中世という時代に、女性が物のように扱われている中、最初は妹を守りたいという一心だったジョヴァンニが、次第に一人の女性としてアナベラに魅かれていき、そのエネルギーがある種暴走することで、歯車がずれていってしまうという流れはわかるような気もします。

ジョヴァンニの感情の先にあるのはアナベラへの愛だけではなく、社会や権力に対する反発心でもあると思うんです。ただ、その一点に集中すると“ハムレット”になってしまうので、しっかり“ロミオ”の部分も表現しなければ、と思っています。

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――台本を読ませていただいて、言葉の一つ一つがとても美しいと思いました。

小田島(雄志)先生の訳は本当に美しいと思います!ただ、今はその美しさに浸るというよりは、まだ言葉と格闘している段階ですが(笑)。台詞を口にすると、まず登場人物たちのエネルギーの強さを言葉の端々から感じます。長台詞がこれだけ劇中に出て来るということは、それだけ登場人物たちも「語りたい」し「伝えたい」んですよね。そのエネルギーをしっかり感じ、台詞の全てを自分の中に落とし込んだ上で、相手役と対話していくことが肝となる作品なんだと思います。ジョン・フォードと小田島先生の台詞を早く自分の血と肉にしていかなければいけないですね…まずは稽古でたくさん苦しみます(笑)。

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――アナベラ役の蒼井さんとはどんなお話を?

まだ本格的な稽古に入っていませんので(注:4月半ばの取材)、作品や役について深くディスカッションするというところまでは行けていないんです…こういう取材の時にお互いの言葉を聞いて「なるほど、そんな風に思っていたのか!」と、手探りで確認し合っている感じですね。前に共演させていただいたのが『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ』という、この作品とは全く違うテイストの舞台でしたので、まずはその時の印象を払しょくすることから始めようと話しています(笑)。

実はビジュアル撮影の時も、あんなに綺麗に撮っていただいたにもかかわらず、本人たちは照れもあって結構な時間笑いあっていたんです(笑)。そんなふたりなので、栗山さんの手の中で転がって行ければと。

演出家たちに“愛される”理由

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――作品の中では敵対するソランゾ役の伊礼彼方さんともご縁が深い印象です。

最近はお互いの忙しさもあってなかなか会えていなかったのですが『エリザベート』で同じ時期にルドルフ役をやらせていただいたこともあり、彼方のことは戦友の一人だと思っています。当時は地方公演の時も一緒で、本当にいろいろな話もして…ここにきて共演できることがとても嬉しいです。ルドルフ役の時と比べると二人とも大人になりましたし(笑)、稽古場や本番でどんな化学反応を起こしていけるのか…それは本当に楽しみですね。

――今回の栗山民也さんや『トロイラスとクレシダ』等の作品で組まれている鵜山仁さんのような、日本の新劇界の中央を走っている演出家にも浦井さんは愛されていますよね。

おこがましくて、自分ではそのようなことは言えませんが、もしそうだとしたらこんなに光栄なことはないですね。僕自身、そこを意識している訳ではありませんが、栗山さんと鵜山さんからは良く「突拍子もない表現をする」と言っていただきます(笑)。これは稽古場で諸先輩方からも指摘されるんですが、演出家からサジェスチョンがあった時に、僕は皆さんが「まあ、こう来るだろうな」と思っている予測と全然違う芝居をするらしく、それを見た栗山さんや鵜山さんは一瞬「ふぁぁっ?」って表情になっちゃうそうなんです。当然、再度修正が入ることもありますし、中には「面白い」と取り入れていただけるアクティングもあって…そういう型にはまっていない所を受け容れていただいているのかもしれません。

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――それはプレイヤーとして凄い強味ではないかと。

強味になっていればいいのですが、僕自身はその点が弱いと感じているところもあって…。と言うのも、ストレートプレイを多く上演する劇団の方たちとご一緒させていただくと、皆さんきっちり基礎を学んでいらして、台詞や滑舌等、基本の部分が本当にしっかりされているんです。僕は演劇の学校や養成所に通った経験がないまま現場に出たので、現場主義というか…その場その場で学ぶことばかりで。叶うことなら今から新国立の演劇研修所で基礎を勉強したいくらいなんです。

――率直なお話、ありがとうございます。本作とは全く違うテイストのWOWOW『トライベッカ』のオンエアも始まりましたね。

とにかく福田(雄一)監督をはじめとするスタッフさんと、出演者全員のミュージカル愛に溢れたバラエティになっていると思います。コントでは扮装等でも驚いていただけるかと(笑)。StarSとしても新しいことに挑戦していますので、こちらも多くの方に見ていただけたら嬉しいです!そしてこの番組をきっかけに、より多くの方がミュージカルや演劇に興味を持って、劇場に足を運んでくだされば本望です…僕たちの根っこの部分は常にそこにありますから。演劇やミュージカルをもっと気軽なものとして捉えていただければいいなあ、と思いますね。デートで観劇なんてお洒落だと思うんですけど(笑)。

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『あわれ彼女は娼婦』は、兄妹間の禁じられた愛という点がクローズアップされがちですが、二人を取り巻く人々の濃密な人間ドラマでもあります。栗山さんが演出なさる以上、中世に書かれた作品を今の日本で上演する意味が必ず浮き上がってくる舞台になると思いますので、その辺りも注目していただければ嬉しいです。

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1620年代、シェイクスピアと同じ時代に生きた劇作家、ジョン・フォードが美しくも残酷な愛を綴った『あわれ彼女は娼婦』。本作で浦井健治は実の妹と愛し合い苦悩する青年・ジョヴァンニを演じる。“ハムレット”と”ロミオ“の二面性を持ったこの役を、浦井があの真っ直ぐな瞳でどう体現していくのか…楽しみは尽きない。

◆『あわれ彼女は娼婦』
2016年6月8日(水)~6月26日(日)新国立劇場 中劇場

(撮影/高橋将志)

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